駆け比べの祭
いよいよケラソ族の祭の日がやってきた。
ケラソ族の祭はラプカの駆け比べである。
中央の広場からスタートし、東西南北の広場を順当に抜け、中央の広場を一周してゴール、である。
タゥも祭を楽しみにしていたので、コースの下見は何度も行っていた。
「頑張って下さいね……あなた……。優勝賞品はなんと、銀貨100枚だそうですわよ……」
くすくすと笑うレアは、観戦する気満々だ。
「レア、具合が悪くなったらすぐに休むのだぞ。お前は今月、二度も倒れているのだ」
「わかっておりますわ……」
今朝のレアは、そのように言っていた。
時刻は中天、今日のケラソ族は狩りはお休みである。
今は中央の広場に参加者が並んでおり、がやがやと祭の開始の声を待っていた。
400名からなるケラソ族でも、参加するのは200名程である。
皆自慢のラプカを連れて、広場に並んでいた。
ロープが張られた観客席には、女達が軒を連ねて観戦している。
今日ばかりは家に閉じこもっている者はおらず、中央の広場に来れなかった者は、東西南北の広場に散っていた。
笛が鳴り響き、太鼓の音が鳴らされる。
族長ラピグゥの声が、雷鳴のように響き渡る。
「待たせたな、お前達よ! ここに、祭りを開催する! 優勝者には銀貨100枚を与える故、是非頑張って欲しい!」
ウォォォと、応える男達の声が爆発した。
「それでは、駆け比べを始める! 用意、スタート!!」
族長ラピグゥのかけ声に、ラプカに乗った狩人達が、少しずつ走り出した。
タゥは人混みに紛れながら、なんとか中位置にいた。
それにしても、人混みの中だとスピードを出し辛い。
タゥは早くも窮地に陥りかけていた。
そんな時、寄ってきたのがサランだ。
「タゥ、人混みの中では走り辛かろう。ほら、そこに抜けるのが上手い奴がいる。参考になるぞ」
見てみると、前の奴にラプカの鼻先を突っ込み、上手に身体をねじ込んでいる。
タゥはサランに礼を言って、前の奴を真似てみた。
すると、するすると前に出て、上位5位まで躍り出た。
ここまで来ると、ラプカのスピードがものを言う。
セグの本領発揮だ。
タゥは北の広場を走り抜け、トップに立った。
しかし、二頭後ろから着いてくる。
そこからはデッドヒートを繰り返し、中央のゴールテープを切ったのは──
「一位は、キサラの家のサフラ! 二位はケラソの家のタゥ! 三位はゴリキの家のキリト!」
族長ラピグゥの声に、一斉に歓声が爆発した。
「よう。お前の走りは凄かったぜ。まだ若いのに凄いじゃねぇか」
「あんたが一位のサフラだな。最後の差しは凄かった。俺も得る物があったよ」
「俺はキリトだ。皆、速いラプカに乗ってんだなぁ。一足遅れちまったよ」
男三人でがっちりと握手して、健闘を称え合った。
観客席では、特別参加のジャックが上機嫌で待っていてくれた。
「よぉ、惜しかったな。でも初参加で二位ってすごいよな。おめでとさん!」
「応援ありがとう、ジャック。祭はまだ続くから、楽しんで行ってくれ」
「おうよ! これからご馳走が出るって言うし、楽しみだぜ!」
そこから少し歩くと、レアが見えた。マリアとリマとリズも一緒である。
「二位、おめでとうございます、あなた……。あちらにやぐらが用意してあるそうですわ……」
「じゃあ、行こうか。マリア達も旦那を待っているんだろ?」
「うんっ、そーだよ。アスロはまだゴールしてないみたいなんだよねー」
「エンジュは16位だったよ。あっ、こっち来た! 行ってくるね」
「家の旦那もまだみたい。タゥ、二位って凄いねぇ。おめでとう!」
「ありがとう、リズ」
レアと共にやぐらに移り、しばし談笑する。
しばらく経って、全員がゴールしたようである。
「駆け比べの結果を上位三名まで表彰する。やぐらにいる上位者よ、前へ!」
族長ラピグゥの声に、俺達は前に進み出た。
100名からなる観客の中、俺達は一人ずつ名前を呼ばれた。
「では一位は、キサラの家のサフラ! 優勝者には、銀貨100枚を与える!」
キサラは金一封の板を受け取り、懐に収めた。
「では次に、二位はケラソの家のタゥ! タゥには新しき刀を贈る! タゥは二刀流である為、二本贈ることとする!」
タゥは真新しい刀を二本受け取り、礼をして下がった。
「次に、三位はゴリキの家のキリト! アカネの実の酒を一年分、贈ることとする!」
キリトは礼をして、下がった。
「この三名に祝福の拍手を! さぁ、宴だ!笛を鳴らし、太鼓を叩け! 今日は年に一度の祭である!」
ラピグゥの声に、観客は大いに盛り上がった。
やぐらで料理を待つ間も、レアは大層ご機嫌であった。
「あなたの名はこれで、全てのケラソ族に、行き渡った事でしょう……。あなたは偉業を成し遂げたんだわ……」
「優勝したわけでもないのに、随分な評価だな。まぁ、レアが嬉しいならそれで良い」
やぐらの外では、未婚の娘達の舞が披露されていた。
華やかで激しいその舞は美しく、タゥの目を楽しませた。
やがて夕刻となり、宴料理が届き始める。
かぐわしい香りがやぐらを満たし、まずは優勝者夫妻から料理が届けられているようだった。
「こちら、ホプマの実入りのシチューです。お熱いのでお気をつけ下さい」
「ああ、ありがとう」
娘達は料理を配膳して去っていく。
「ホプマの実入りのシチューなんて、気が利いてるな。……うん、美味い。レアもこの味は好きだろう?」
「ええ‥…。大変美味しいですわ……」
レアも幸福そうに微笑んだ。
肩肉の煮込みや、胸肉と卵のサラダ、ハンバーグに揚げ物、付け合わせのパンまで食べて、今日の特別料理がやってきた。
ウスルスの丸焼きである。
「こちら、特別料理のウスルスの丸焼きです。どの部位がお好きですか?」
「背中の肉を貰おう」
「わたくしは……モモがいいですわ……」
望みの部位を貰い、さっそくかぶりつく。
脂がじわっと甘く肉も旨味が強く、最高に美味しかった。
ケラソ族の祭は日没を迎えても続き、実に華やかな様相であったという。
タゥはケラソ族で二位の称号を手に入れ、益々その名を轟かせる事になったのである。




