お茶会にて
三日後、タゥはウナルディ家の客室にいた。
雨期で下がった気温を、暖炉が適温に温め、ちょうど良い。
眩いシャンデリアは、光を零すタゥの美しい金髪を、存分に輝かせていた。
「あなたは奥様がおありなのに、どうしてあのような手紙を送っていらしたの?」
燃えるような赤い巻き毛に深い青の瞳。オフィーリアは今日も美しかった。
先日と違い、いきいきとしたその瞳は躍動感に満ちており、タゥの心も弾ませた。
タゥはとにかく強気で元気な娘が大好きなのである。
「いきなり本題だな。自己紹介をさせて欲しい。タゥハリス・シルベスターだ。どうかタゥと呼んで欲しい」
「オフィーリア・ウナルディよ。先日はみっともないところを見せたわね。……あなた、アスティ家の三男と親友なんですって? 情報通で有名な彼と付き合いがあるなら、私に何が起こったのか知っていて?」
オフィーリアは紅茶をこくりと飲んだ。
何気ない所作も気品に溢れていて、素晴らしい。
タゥはオフィーリアを組み敷く日を夢見て、お行儀良く座っていた。
部屋には、他に誰もいない。
ジャックも付き添いは出来なかったので、タゥ一人だ。
「婚約破棄をされたと伺っている。公衆の面前でこき下ろされたそうだな。ひどい浮気男もいたものだ。とはいえ、天罰は下されたと聞いている」
「その通りよ。浮気相手の令嬢は修道院行き、浮気男は市井に落とされるの。5年も婚約していたのに、私を傷つけた報いよ。地獄に落ちればいいんだわ」
「その通りだな。……それで君は……その男を、好きだったのか?」
「好いていたわ。でも、悔しくて悔しくてあの日は涙が止まらなかったの。恋心なんてもう微塵もないわ」
「はは。その意気だ。俺は結婚しているが、君の泣き顔が頭から離れなくてね。……すぐに恋に落ちてしまったよ。君がもう、泣いていないのなら、幸いだ。どうしてもそれが気にかかっていたんだ」
タゥは真摯に思いを伝えた。
「タゥ……、私ね、嫁ぎ先がないの。近い年の子はみんな婚約してて、空いていないのよ。それに、婚約破棄されてて風聞が悪いの。私、高飛車姫って呼ばれる位評判が悪いのよ。知っていたかしら?」
「いや、知らない。俺は高飛車なところも愛らしく思っているぞ」
「……そう。いっそあなたが未婚だったら良かったわね。でも、そうではないなら話は終わりよ。私は後添えか修道院しか行き場はなくとも、既婚者に身体を許す事はないわ」
「えっ?」
「あなたの事を調べさせたの。居候先のアスティ家で、随分派手に遊んでるようね。私の事もそうやって遊ぶつもりだった?」
それは意図的にジャックが流した噂であったが、オフィーリアは苦々しげに尚も続けた。
「私のような小娘、すぐにやれると思っていたんでしょうけれど、お生憎様。私は身持ちが固いのよ。用事がそれだけなら、どうぞお帰りになって?」
「オフィーリア、それは違う。俺は本気で君に恋してしまっただけなんだ。下心はないよ。信じてくれ」
「信じられないわ。あなたみたいな人がただ恋心を告げに来ただけなんて……。どうせ、ふざけているだけなんでしょう?」
「俺は手紙を、本気で書いたよ、オフィーリア。恋文を書くのは初めてだった。どうか俺の想いはあの手紙と共に受け取ってくれ。俺は、それだけでいいんだ。どうか、笑ってくれないか、オフィーリア。君の笑顔を覚えていたい」
「……ふんっ、取りあえず信じてあげるわ。かといって、あなたに惚れたわけではないわよ。ただ、私も一つだけ。あの日のダンスは素晴らしかったわ、タゥ」
「そうか。ひとつでも、君の気にいる俺であったなら嬉しい。さようなら、オフィーリア。会ってくれて嬉しかった。それと、後添えか修道院なんて言わずに、真っ当に幸せになれ。この俺が惚れたんだ、君はとっても魅力的な女の子だよ」
「あなたがそういうなら、吉報を待ってみるわ。タゥって不思議ね。会ったばかりなのに、信じてみたくなるの。私も会えて良かったわ。シルベスター卿。さようなら」
そうして、俺の恋は終わった。
「えええ、それで終わりかよ?! 帰り際ちゅっとやってきたんじゃねえのか?」
「残念ながら、そんな隙はなかった。手も握れずに終わる恋もあるんだな」
タゥはアスティ家に帰宅後、ジャックに何があったかを説明していた。
そして、ジャックに改めて向き直る。
「ジャック。オフィーリアに縁談を用意してやりたいんだが、可能か?」
「うわ、言うと思ったよ。調べといて正解だったな。この俺様だぜ? 縁談を用意するぐらい、簡単だぜ。だが、お前にも身を汚してもらうぞ」
「覚悟の上だ。宜しく頼む」
「良い返事だ。じゃあ、早速今夜、女の所に行って貰おう。うーん、ジャケットは黒でいいけど、シャツが白じゃ綺麗すぎるな。シャツは青で、ボトムスはグレーにしようか。……おーい、着替えさせてくれ!」
ジャックが呼んだメイドに、すぐさま着替えさせられる。
タゥの私服は10着に及び、全てオーダーメイドである。
タゥは髪をオールバックで流し、背中で一つに纏めている。
タゥの美しさは益々磨きがかかり、ジャックも満足げに微笑んだ。
「よし、まずは夕食にしようぜ。腹が減っては戦は出来ぬっていうだろう?」
食堂で料理長の心尽くしを頂く。
今日も大変美味な食事を用意され、タゥは満足だった。
夜、日没後に馬車を走らせ、ある一軒の屋敷に止まった。
金髪の青年は、吸い込まれるように屋敷の奥へと消えていった。
それから、二刻が経っただろうか。
タゥは大きなベッドの上に寝かされ、上で女が喘いでいた。
「ああ……素敵。素敵よぉ……」
女に責められ、タゥも声を漏らす。
柔らかな責め苦はまだ序の口で、夜はゆっくり更けていく。
そんな折、不意に女の声が響く。
「あなたって、サフラン家のご令嬢とダンスを踊っていた男よね? ウナルディ家とはどんなご関係なのかしら。縁談を用意するのは私だわ。教えてくれてもいいわよね?」
「……は、あ……っ、家は関係ない。ただ、俺はオフィーリアに惚れたんだ。幸せになって欲しい」
「そう。オフィーリアの為なのね。健気なこと……」
女は腰の動きを早めた。
「さぁ、今は私の為に鳴きなさい。今夜のあなたは私のものよ……っ」
タゥは激しい快楽に耐えながら、女の首に腕を回した。
熱く激しい夜が終わり、朝が来る。
朝方まどろみの中で、タゥは口吸いを楽しんでいた。
外で、ラプカの足音が聞こえた。
そろそろ時間が来たかと、女から離れる。
「あん……、もうお帰り……?」
「ああ。迎えが来たようだ。世話になったな」
タゥは、服を身につけ始める。
「ねえあなた……オフィーリアを裸にむいて連れてきてあげましょうか……? きっと楽しいわよぉ……」
そりゃあ楽しいに違いないが、タゥの望みは違うところにある。
「断る。余計な事をするな」
「あら、こわぁい……。恋する男って重傷ね。恋する女のために一途なのは買うけど……、それじゃあ、見返りが何にもないわよぉ……」
「見返りが欲しくてやってる事じゃない。俺は、オフィーリアが幸せになってくれれば、それで十分だ」
「わかったわぁ……。ジャックにも宜しくねぇ……」
タゥは女と別れると、馬車に乗って朝靄の中を駆け抜けていった。
アスティ家の客室に戻ると、湯が用意してあった。
タゥの身体には至る所に口紅がべっとりとついている。それをメイドに手伝って貰いながら、丁寧に清めた。
あまりにキスマークが多すぎて、レアに叱られたのは余談である。




