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ケラソの家のタゥ  作者: yahagi
劇的な再会
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ダンスレッスン

 タゥは一週間のうち三日は女に当てていた。

 リマとマリア、緊縛で縛る女である。

 リマは結婚後二人きりで会うのは初めてであったが、ヤジュの部屋でこっそり会い、逢瀬を楽しんだ。

 マリアとの子作りも順調である。

 ただ、子供の処遇については、涙で語られる事になった。

 もし子供を産んだら、ルネーの家で育てるのではなく、貴族に里子に出さねばならない。

 マリアは苦心の上、納得してくれた。


 ちなみにタゥの血筋の話は、静かに広められる事となった。

 次期族長がタゥである話とともにそれは浸透していったが、意外な事に反発は見られなかった。

 タゥは、ケラソ族の英雄であり、愛されているのである。


 平穏無事にひと月を過ごし、暦は9月、町の祭りも終わりが見えてくる頃である。


「タゥ、頼む。ダンスを覚えてくれ」


 ジャックがそのように言ったのは、9月も終わり頃になってからだった。


 いつもの道具屋でアカネの実のジュースを飲んでいたタゥは、慌てず聞き返した。


「ダンス?」


「来月でかいダンスパーティがあるんだけど、俺は先約で埋まってるのよ。でも当日、どうしても一人っきりにさせられない女がいる。ダンスパーティの日はその女と踊って貰いたい」


「いいよ」


「軽っ! わかってんのかタゥ、来月までもう時間がないぜ?」


「来月なら雨期で三日に一度狩りが休みで時間がある。今月今から習えば形にはなるだろう。それに、誰にものを言ってんだ? 幼少から神童と謳われた俺だぜ? 一週間で覚えてやるよ」


 ジャックは本当に弱り切ってるようだったので、殊更明るい声で答えてみせた。


「タゥ……! ありがとな、家によりすぐりの教師呼んであるし、いつからでも始められるぜ。今日は、女縛りに来たんだろ。明日からでいいぜ。頼りがいがある親友で惚れ直しちまうわ」


「そりゃあ、お互い様だな。いつも世話になってるぜ、ジャック」


 タゥはその日も好みの女を縛り、気持ち良く射精した。


 翌日のことである。

 道具屋に止められていた馬車に乗り込み、ジャックの家の別邸に着いた。

 ここがジャックの家だと聞いて、ドキドキしたタゥである。


 早速、引っ詰め頭の気難しそうな教師に引き合わされ、タゥは全身を検分された。


「ふむ、姿勢は宜しい。でも、服が駄目ね。すぐに礼服を着せて差し上げて」


 別室でメイドに脱がされ、着せられ、採寸され。髪も解かれ櫛けずられた。貴公子タゥの出来上がりである。


 先生は、容赦なかった。


「頭の上に本を載せて歩きなさい。ああ、ノン、軸がぶれていてよ。まずは真っ直ぐ歩きなさい」


 タゥはピアノの音を聞くことなく、半日じゅう、ぐるぐると歩き続けた。


「宜しい。ダンスレッスンに入りましょう。タゥ、どうやらあなたはワイルドだけどもダンスはエレガントに。それを忘れては駄目よ。さぁ、一緒に一、二、三のステップを踏みましょう」


 先生の手を取り、型の通りに動く。ダンスは5歳の頃から習っていたはずだが、記憶は遠く彼方だ。タゥは実直に教師の教えを守り、型を繰り返した。


「なぁ、一旦休憩で良いだろ? もう4時間はぶっ通しで踊ってるぜ? しかも基本の型を繰り返すばっかりでまだちゃんと踊ってもいねぇ。タゥ、大丈夫か?」


 ジャックが見かねてそう言ったのは、四日目である。

 タゥは美しい姿勢を保持しながら、教師の前でターンを、して見せた。


「姿勢はマシになったと思うんだけどな。でも、俺は大丈夫だよ、ジャック。ヒールを履いてる先生の方が大変だ。女を気遣えない男はエレガントじゃないんだろ?」


「その通りです、タゥ。基本が身に付いて来ましたね。とにかく女性をリードしうる立派な紳士にならねばなりません。さぁ、基本を身体に叩き込みますよ。さぁ、手を取って」


「はい、先生。ジャック、やれるだけやって見るから、どうか見守っていてくれ」


「ああ、わかったよ。俺は邪魔しないよう自室にいるからな。メイド達にも不自由がないように言付けとく。タゥ、頑張れ!」


 親友の激励を受けてやる気が更に沸いてきた。

 厳しい声をあげる教師がタゥを待っている。

 タゥは礼をしてゆっくりと片手を差し出し、教師へと向けた。


「踊って頂けますか? 先生」


 先生はタゥの誘いに乗り、手を差し伸べる。

 タゥはステップを踏み続け、身体に基礎を叩き込んだ。


「大変結構です。では、曲に合わせましょう」


 先生がそう言ったのは、六日目の事だった。

 メイドがピアノを鳴らし、先生と二人で踊る。即興にしては、まずまずだった。


「さぁ、更に華やかに踊りましょう。基礎を忘れず、一、二、三ですわよ。さぁ基本姿勢を保って」


「はい、先生」


「大変良く基礎が身に付いています。あなたの頑張りが報われましたね。では、三曲覚え込みましょう」


 まだまだスパルタ教育は終わらない。

 タゥは全身全霊をもって、厳しい教師に食らいつく。

 まだまだ、先生にリードされている。

 その事実を噛み締めながら、タゥはステップを踏んだ。



 閑話休題──


「何故か、家の中が浮ついてる気がせんか、エリザベス」


「まああなた、今更気付いたんですの? 別館にお越しになるのが久し振りとはいえ、今更お気付きとは思っていませんでしたわ」


 エリザベスは、ころころと笑う。

 アスティ家当主、ギエンザロは、妻の言葉を反芻し、反省した。


「何がおきているのか、教えてくれるか。俺は先日の陛下がお越しになった件で総毛立ったからな。ジャックは陛下の為に良く働いているようだが、問題でもあったか」


「その件は問題ありませんわ。今回はジャックのいつものお節介ですの。パートナーのいない女性に素晴らしいパートナーを用意するんだって、家に可愛い子を連れ込んだの。その子の踊るダンスが魅力的で、皆浮き足立っているんですわ」


「それはもしや、陛下が爵位を用意された、ジャックの親友なのではないか?」


「あら、ご名答ね。もううちに通って一週間が経ちますけれど、無知な状態からあっという間に基礎を身に付けて、今は三曲続けて踊れるそうよ。教師もその熱情と覚えの素晴らしさに感嘆してましたわ」


「こうしてはいられん。俺もその彼に挨拶をさせていただこう。うちに通う事をお前が許したなら、性格にも期待が出来るんだろう?」


 エリザベスはくすくすと笑いながら話を続けた。


「あら、親が出ていっては悪戯がジャックにバレてしまうわ。こういった事は、秘めやかにするから楽しいでしょう?」


「ダンスを覚え立ての少年が秘め事を楽しんでいるというのか。それは驚異的な覚えの良さだな。その少年は、そんなに魅力的なのか?」


「未だ16歳なれど、あれは立派な貴公子ね。本業は狩人だそうだけれど、粗野な所が全くないの。気が利いていて優しくて、なんと言ってもとびきりの美男子よ。爵位も持っているし、ダンスパートナーとしては最高ではないかしら」


「ふうむ。ますます会ってみたい。しかし、まずはジャックに了解を取らねばすねてしまうな。おおい、ジャックを呼んでくれ!」


「あらあら、ジャックはどうするのかしらね。ふふふ、私も一緒に会わせて頂くわ。うちのメイド達の噂話が、耳に入ってなければいいんだけど……」


 やがて呼ばれたジャックは問われたが、何も知らなかったという。秘密な関係を守り通せて、メイド達は手に手を取り合って喜んだという。

 タゥはアスティ家でも、人知れず人気者であった。

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