金色の鍵
「よく来たね、キリク、ジャック。まずは座ってくれ」
陛下に促され、椅子に腰掛ける。
雰囲気の良い調度品は漆塗りの逸品であり、花瓶には花が活けられていた。
「アカネの実のジュースを振る舞おうか。この町の名産なんだろう?」
「只今お持ちいたします」
部屋の片隅にいたメイドが動き出す。
あっという間に用意されたアカネの実のジュースで乾杯して、本題に入った。
「じゃ、これが魔法の鍵だよ。一回限り、どんな願いも叶うからね」
メイドを経由し、キリクの手に届いたのは、黄金色の小さな鍵だった。
「使うときは、ジャックに渡すといいよ。キリクの願いがどんなものか、楽しみにしているからね!」
陛下は、あくまで屈託がない。
キリクは頭を下げて礼を述べた。
「ありがとうございます、陛下」
「うん。じゃあ次は兄さんの話だね。何でも良いから、話してみてよ」
そう言われ、タゥが類い希な美貌の狩人で、凄腕である事、大変人気がある事。
そして、レアとの結婚は本位ではなかった件が語られた。
レアは、もって三年の命である。
レアの懇願を受け、サランが結婚を命じたくだりでは、陛下は興味深そうに頷いていた。
「へえ。市井の人間はみんな好きあって結婚するもんだと思ってたよ。無理矢理な結婚だなんて、良い結果が出るとは思えないな。あ、だから浮気してるの?」
ジャックに向けて発言されたので、ジャックが答える。
「そういう向きはあるだろうな。それでタゥは緊縛の趣味を始めた。嫁さん公認で、浮気してるよ。なんたって嫁さんは病弱で、縛れないからな」
「へえー。緊縛かぁ。ま、兄さんだったら何でもありか。兄さんって昔から何でも出来たんだよ。だから危険視されてたんだけどね。ま、それはいいか。お嫁さんとの仲はいいの? 子供は望めそうかな?」
「やっぱり、タゥの子供に爵位を継承させるつもりか?」
ジャックが尋ねると、陛下は「勿論」と微笑んだ。
「兄さんの子供の養育については、乳母から借りの父母まで、何でも用意するからね。当たりはつけてあるから、後は生まれるだけだよ!」
「それでしたら、体の弱い本妻より、子供を産む別の女がおりまして、そちらの方が力になれるやもしれませんな」
そうしてキリクは、マリアの事を説明した。
レアが自ら子供を育てず、両親の子として育てると豪語している為、そうなったと話す。
「しかし赤ん坊を移動させるとすると、タゥの身の代を少しは開かさねばならないでしょうな」
「さるお方の落とし種だったって言えば良くない? それで、爵位を継承させる為に子供が必要なわけ。納得してくれるように説得を頼むよ、キリク」
「はっ。任されました」
気の重い案件であるが、やり遂げるしかあるまい。
「それで、兄さんの好みはどんな女なの?」
「気の強い女かな。後、男の恋人もいたぜ。なっ、キリク」
キリクは頷いて、ジュネの事を話した。
美少女の如き風貌で男を惑わせる、魔性の男である。
性格は可愛らしく、従順で大人しい。
「へえー。兄さん、男もいけるんだね。なんだが、充実した性生活を送っているようで、何よりだよ。僕はツンケンしたお嫁さんしかいないからさ、お話だけでも面白いなぁ」
その後、いくつか話をしたが、一番ウケたのは、タゥが処女を貰いにいった男の話で、奥さんに怒られるほど跡をつけられて帰ってきたという話だった。
「あっはっは。襲われたみたいになってた訳だよね。そりゃあ奥さんも黙ってないさ。それとも、そんなに熱く求められる兄さんの魅力が凄いのかな」
とにかく陛下はご満悦であったので、キリクも安心した。
昼食の時間になったので、一緒に昼食を食べる。
焼きたてのパンは香ばしく、肉は柔らかでジューシーだった。
さて、午後になり、話は猥談ばかりに成り下がる。
特にジャックの話してくれたマダムとの一夜の恋、爪先に口付けする男娼の話が秀逸だった。
「兄さんってどんな顔して女を抱くんだろ? そんなに魅力的なのかな」
「ああ。とびきり色っぽいぜ」
ジャックも上機嫌だ。
話はタゥに惚れた女の末路にまで及び、興味深く聞かせて頂いた。
「おっと、そろそろ夕刻だな。キリクを送ってくるよ、陛下」
「はーい。キリク、楽しい話をありがとう」
「こちらこそ、楽しい時間を、ありがとうございました、陛下」
キリクは礼をして、その部屋を後にした。
長い廊下を歩き、階段を降り、また長い廊下を歩く。
やがて着いた馬車止めで馬車に乗り、ほっと息をつく。
「キリク、今日はご苦労だったな」
「ジャックこそ。楽しい話をありがとうな。心配しなくても、他には漏らさん」
「あっはは。陛下も満足してたし、良かったよな。だからキリクは頼りになるんだよ」
ジャックの笑顔は明るい。
キリクも笑顔を返し、外の景色を眺める。
キリクはこれから、平常に戻るだろう。
しかし今までと違うことが一つだけある。
金色の鍵が、キリクの手中にあることだ。
何でも願いを叶える鍵。
これに飲み込まれず、生きていこう。
情報のやり取りに人生をかけるキリクである。
金色の鍵はそんな人生に褒賞を与えるように、きらきらと輝いていた。




