劇的な再会
それから、一週間が過ぎた。
暦は8月となり、町の祭の様相も変わらぬままである。
そんな中、新たなる盗賊団が近付いていると、不穏な噂もあった。
少し離れたところにあるガーベラの町は、壊滅的な被害を受け、復興の最中であると聞いても、臆する者は僅かだった。
大抵は、"英雄"様がいるからと、一笑に付して終わりであったが──
真剣に盗賊団の来訪を信じる者が、身近にいた。
誰であろう、ジャックである。
ジャックは古馴染みの娼婦を殺され、意気消沈していた。
タゥも心配であったが、出来ることは少ない。
毎日狩りに励む他、ないのである。
そんなある日、町に来てみれば、町は鎧の剣士に埋め尽くされ、歩くのに支障が出る位であった。
三、四百名はいただろうか。
それは、聖騎士団と呼ばれる国直轄の戦闘集団である。
昨夜未明、アスティの町に潜伏していた盗賊団ウネジ、300名相当を討伐し、これから帰還するとの事だ。
朝だというのにお祭り騒ぎに拍車がかかって、どこもかしこも大騒ぎであった。
「よぉ、タゥ。聖騎士団の登場には驚いたろ。三日前から来てたんだけどさ、なかなかウネジの奴が尻尾を掴ませなかったんだよ。昨夜でかい諍いがあちこちで上がって、ウネジは逃げようとした。それを聖騎士団は読んでたのさ」
ジャックは得意げに話したが、その面持ちは暗かった。
「アカネの実のジュースくれ。これ、鉄粒3つな。盗賊団ウネジの討伐は喜ばしい事だろ。なんでそんな暗い顔してんのか、話しやがれ、親友」
「……おう。さすが親友だな。まず査定しちまうから、リュックくれ。……うん、銀貨2枚と銅貨70枚だ。確認してくれ」
「おう、丁度だ。それで? 一体どうしたって言うんだよ?」
「裏へ行こう。腰を据えて話したい。おーい、店番変わってくれ」
ジャックは店番を変わると、道具屋の休憩室にタゥを呼んだ。
「あのな、聖騎士団を呼んだのって、俺なんだ。俺は、一回だけ使える魔法の鍵を持ってた。貰ったのが10歳の時だったから、記憶もあやふやだけどさ。今回はどうしようもなくって、鍵に祈った」
「娼婦が死んで、泣いてたもんな、ジャック。でもそれぐらいじゃやって来そうもない集団だ。何かあるとは思っていたよ」
「そっか、そうだよな。そんで鍵には魔法がかけてあってな。鍵をくれた奴が俺に会いに来るんだ。俺でもビビっちまうような大物だぜ? 危なっかしくて名前も言えねぇよ」
「そうか。そんな鍵を10歳の時にくれるなんて、太っ腹な奴なんだろうな。どんな会話をしたか、覚えてるか?」
「俺より、年下のガキだった。俺はタゥと親友になったばっかりで、それを自慢したような気がする。金髪綺麗、って言った覚えがあるんだよな」
俺はアカネの実のジュースを飲み下し、ジャックに笑いかけてやった。
「それで、無理難題をふっかけられそうで、青くなってたわけか。でも、300名の盗賊が本気で暴れたら、こんなもんじゃ済まなかっただろう。お前はアスティの町の領主の息子として、正しい事をしたんだ。誇れよ、自分を。なんか手伝える事があったら手伝ってやるからさ」
「おう。わりいな。今回は本気でビビってるみたいだわ、俺」
「たまにはいいさ。何かあったら、必ず俺に相談しろよ? 約束だからな」
ジャックは力なく笑い、ジュースのおかわりを注いでくれた。
道具屋を後にして、家までひた走る。
心臓がどくどくと波打っている。
タゥには、確信があった。
それは誰にも話せないタゥの秘密事で、タゥは一人緊張で唾を飲んだ。
中天になり、森へ入る。
タゥは心ここにあらずであったが、失敗する事なく狩りを務め終えた。
分け前をリュックに詰め、凱旋である。
茜色の空に、鳥が鳴いている。
今日の出迎えはいつもの顔ぶれで、タゥはほっと息をついた。
「今日もお疲れ様ーっ! 怪我がなくて何よりだね!」
そう言ったのは、マリアである。
「出迎え感謝する。では」
キーヤは礼をして去っていった。
「リズはお見合い、終わったんだろう? どうだった?」
「うん、本決まり。いま、婚礼の儀をいつにするか悩んでるの。マリア達もだよね?」
「うん、家もいつでも上げられるんだけど……どうしようね。日が、被っちゃうかな?」
「いっそ、二組一緒に上げちゃう? それなら本家の負担も少ないでしょ」
「いいね、そうしよっか。親に相談して見るよ」
マリアとリズは、婚礼の儀について盛り上がっている。
タゥは、ジャックの疑念についてをねじ伏せて、笑顔を作った。
「おめでとうリズ、マリア」
タゥの言葉に、二人も良い笑顔で笑った。
それから四日経った、ある日の晩餐の事である。
「あなた……。最近物思いにふける事が多いんじゃありませんか……? ジュネと別れた事がそんなに重しになっているんですの……?」
「そういうわけじゃないよ。他にちょっと、気になる事があってな。悪いが、話せない」
「そうですか……。キリクから聞く限り、ジュネは新たな恋人とうまくやっているようですわよ……」
「良かった、安心したよ。新しい恋人はどういう奴だ?」
ハンバーグを噛みちぎり、パンをかじる。
「あなたと同じ既婚者で、優しい人だそうですわ……。一ヶ月で別れる事にも、了承しているそうです……」
レアもハンバーグを咀嚼し、飲み込んだ。
「そうか。それは何よりだ。それで──」
ドンドン、と戸板が鳴らされた。
「道具屋のジャックだ! タゥに会いに来た!」
ジャックの声に、タゥは動いた。
「レア、晩餐を片付けてくれ。お客人だ」
レアは速やかに従った。
閂を外し、戸板をからりと開ける。
「よぉ、ジャック。今日も顔色が悪いぜ?」
「……悪いな、タゥ。決して迷惑をかけるつもりじゃあ、なかったんだが……」
「迷惑くらいかけろよ、親友。そっちの連れも一緒に、中へどうぞ」
ジャックの後ろには、フードをかぶった黒褐色の髪を持つ少年が立っていた。
ふいに、少年がフードをはねのける。
その顔には、ありありと在りし日の面影が残っていた。
「イェーヤ……いや、イェヤクリス」
「僕の幼名を知っているあなたは……やはり兄上なのですか……タゥハリス」
それは、劇的な再会だった。




