貴公子
「……そんなわけで、"英雄"様として、二人の少女を抱いてきた。ジャックとの勝負は燃えたぞ」
現在はレアと晩餐を囲んでおり、今日の感想をほり葉ほり聞かれた後である。
レアは上機嫌で聞いており、浮気にも文句はないようである。
「そんな遊び方、了承しかねますわ……」
「レアはそう言うだろうな。だが、良かったぞ」
レアは、タゥの言いように目を細め、微笑んだ。
どうやら、晩餐の片付けを始めたようである。
「あなたがそう言うのなら……仕方ありませんわね……。それに、明日の"王子様"も楽しみですわ……」
「一体何をさせられるんだろうな」
「うふふ……。前回は貴族でしたし、今回も貴族かもしれませんわよ……」
「レアは随分と楽しげだな。貴族に興味でもあるのか?」
「いいえ……。タゥの話すお話が楽しいのですわ……。わたくしの知らない世界が広がったようで楽しいの……。キリクも同じ事を言っていましたわ……」
「キリクが何だって?」
聞き咎め、聞き返すと、レアは猫のように笑った。
「うふふ……。最近、あなたの教えてくれた感想をお喋りしているの……。あなたに、あんな跡をつけた男の話もしたわ……。男同士の話は刺激的で盛り上がりましたわ……」
「俺の居ぬ間に何を話してるんだ。俺の話す感想は、秘密の話であるのだぞ」
「キリクなら秘密を守れますわ……。だってあなたは午前中、いらっしゃらないんだもの……。私だって、話し相手が欲しいですわ……」
それを言われると弱いタゥである。
「仕方ない、キリクだけだぞ。他はおるまいな?」
「ええ……。あなた……」
今夜はレアに軍配が上がったようだ。
タゥはご機嫌なレアを抱きながら眠りについた。
翌朝、ご機嫌な妻に見送られ、タゥは町を目指していた。
セグの走りは軽やかで、タゥは何にも邪魔をされず、ラプカを走らせた。
道具屋に到着すると、一種異様な光景が広がっていた。
大きなラプカが二頭、首をにゅっと出している。
後ろには大きな箱馬車が繋いであり、ぱりっとした御者が手綱を握っていた。
これは一体どうした事だと眺めていたら、道具屋から、いつもと違うスカーフのシャツを着たジャックが出てきた。
「タゥ! ラプカを繋ぐから、こっちな!」
呼ばれて、道具屋にラプカを預ける。
「あの馬車、なんなんだ? 貴族の旗が見えるけど……」
「あああれ、うちの馬車。さぁ、乗ってくれ」
うちの馬車?
聞き返す暇もなく、ジャックと共にタゥは馬車に乗り込んだ。
馬車の中には、三人の女性が乗っていた。
いずれも髪を引っ詰めて、黒の膝丈まであるワンピースドレスを着用している。どう見積もっても、彼女たちはメイドだった。
「時間がないから手短に話すと、今日のタゥには貴公子になって貰う。髪も一旦解くけど元通りにするから、勘弁な。さぁ、一度全裸になってくれ。服は用意してある」
それを聞いたとたんメイドの手が伸びてきて、タゥは全裸にされてしまった。
代わりに仕立ての良い、柔らかな下着を履かされる。
一枚一枚、重ねられ、ボトムスは細身の黒、上衣は真っ赤なフリルシャツだった。
靴は革靴で、どれも肌にぴったり吸いつくようであった。
その間にもタゥの細かく編んだ髪が解かれ、香油をつけて櫛けずられていく。
手の指の爪まで磨かれ、タゥは目を白黒させた。
「今日の相手はもしかして……貴族か?」
「ご名答。現役の貴族だからこんな支度が必要になるわけだ。んー、いいねぇ。美男子の男娼には赤のフリルシャツが似合うぜ。ってゆーか、髪を結ったら貴公子にしか見えねぇな」
タゥの髪はオールバックに纏められ、後ろで一つに括られている。今まで久しく見ていない素の金髪は美しく、背中まである。
タゥは姿見を見て、誰だこいつ、と思った。
それぐらい、金髪に青い目の青年は美しかったのである。
「いま……男娼っていったか」
「ああ。とびっきり美しいなぁタゥ。俺の方こそ食っちまいてぇ。……まぁ、それはさて置き、今日のお前は男娼だ。相手は訳ありの貴族だ。そんで、一言も喋らなくて良い。お前のする事はただ一つ、爪先に口付けする事だ」
「へえ、なんか洒落てるな」
「俺も見てるし、お前が終わったら俺も突っ込むからちょっと待っててな」
「分かった、男娼ごっこだな。ところでジャック、貴族だったのか?」
「あれ、言ってなかったか。この町の領主の息子だよ。道具屋に就職してる三男だけどな」
「そうだったのか。覚えとくよ」
「さぁ、そろそろ着くぞ。俺が先導するから、着いてきてな」
やがて到着した場所に降り立ったタゥは、まるで別世界のような庭園に面食らった。
見渡す限り、全てが庭園で、美しく整えられている。こんな場所は見るのも初めてで、興味深く見渡した。




