ラプカを得る
「……そんなわけで、ジャックに処女をやる約束をしたんだ。三年以内って期間を区切ったから、レアも楽しみにしといてくれ」
晩餐の最中である。
タゥは今日あった出来事を、復調したレアに話して聞かせていた。
「今日の貴族の娘の話も興味深く聞いておりましたが……そのお話はもっと素晴らしいですわ……。あなたの大切な処女を……わたくしに感想を話す為に……三年以内として下さったのですね……」
「ああ。レアが喜ぶと思ったんだ。読み間違えたか?」
「いいえ……。愛を感じました……。わたくしは……とてもうれしゅうございます……。その日を楽しみにしておりますわ……」
「喜んで貰えて良かった。まだいつになるか分からないが、楽しみにしといてくれ」
レアは幸福そうに微笑んだ。
晩餐が終わり、共に床につく。
柔らかなレアの身体を抱きながら、タゥは眠りについた。
翌朝、早朝からタゥは町を目指していた。
一刻ほどかかる道のりを、てくてくと歩いていく。
やがて石畳の道が見え始め、その奥に道具屋が見えた。
相変わらず祭のせいで人出は多いが、午前中は人通りもまばらだ。
そんな中、道具屋ではアカネの実のジュースを売っていた。
「おおタゥ、待ってたぜ。まずは、うちの特性ジュースを飲んでくだろう?」
「ああ、頂くよ。……うん、うまいな」
「あったり前よ。……じゃあ、ラプカだな。とびっきりのラプカを用意しといたぜ。とにかく速いヤツだ。持久力もそこそこだし、おすすめだ。じゃあ、ラプカ牧場へ行こうぜ」
店番を交代し、ジャックと一緒に、ラプカ牧場まで歩く。
半刻も歩くと、木の柵で囲まれた大きく開けた牧場があった。
たくさんのラプカが、至る所にいる。
タゥは目を瞬かせながら、ラプカが通り過ぎていく所を眺めていた。
「おーい、ジャン! 上客を連れてきたぜ!」
ジャックがそう言って声をかけたのは、ずんぐりとしたラプカに乗った壮年の男性だった。
「よぉジャック。ははん。例のラプカの買い主だな。今、連れてこさせる。入ってこい」
ジャックと二人で牧場に入ると、しばらくして、一頭のラプカが連れてこられた。
前足と後ろ足が発達していて、足が太い。それと、尻尾が細い。体は赤褐色で、目は鋭い。
「まぁ、乗ってみない事には何もわからんだろう。ほれ、手綱は付けてあるから、一度乗ってみな」
タゥはジャンの言うとおりに手綱をピンと張り、ラプカに乗った。
「おう、姿勢がいいな。そのままの姿勢で手綱を右に引いて見ろ。そら、歩き出すぞ」
ジャンの言うとおり、ラプカは右に歩き出した。ゆっくりとだが、安定感がある。
「左に曲がる時は手綱を左に引いてくれ。まっすぐの時は、手綱をピンと張ってな」
タゥは左右にゆっくりと歩いて見せた。
「ケラソ族は兎に角習得が早いな。上出来だ。あと、コイツは兎に角早いのが特徴だ。あの東の丘までひとっ走りして来い。足で腹を蹴ってやると、走り出すからな」
ジャンに指し示された方角には、数頭のラプカの他に、何の遮蔽物もない。
タゥは喜び勇んで、ラプカを駆けさせた。
スピードを出してみると、それは顕著だった。
このラプカは、風のように軽々と丘まで疾走した。更に速度を上げ、丘を往復する。
少なくとも、サランのラプカ、ジルとは比べ物にならなかった。
ジャンとジャックの場所に戻り、ラプカから降りる。
タゥは頬を高揚させて、満面の笑顔を見せた。
「最高だった! こいつを買いたいがいくらだ?」
「こいつは特別鍛えてあるから高いぜ! それにしても、見事に乗りこなしてたなぁ、兄ちゃん。こいつも走りやすそうだったぜ」
「銀貨240枚だ。足りるか、タゥ?」
「た、足りん……! もう一声!」
「うーん、せっかくの良主人に会えたんだ。売ってやりたいが……うちは値引きをやってないんだ。どうするよ、ジャック」
「じゃあ、ぎりぎりまでまけて、銀貨220枚な。俺が身銭を切るから、ただで済むと思わないでくれよ?」
「助かる! ジャックの言うことなら、いつでも受け付けるさ」
「その言葉を忘れんなよ。……交渉成立だ、ジャン、銀貨を数えてくれ」
タゥも銀貨220枚を出し、すっからかんだ。
「よし、丁度だな。焼き印を入れちまうから待っててくれ」
そう言って、タゥのラプカを奥の小屋へ連れて行った。
戻ってきたラプカは耳の裏に刻印がしてあり、これが売買済みを示すのだと教わった。
「取引はこれでおしまいだ。兄さん、駆け比べに出るんだろう? こいつに乗れば優勝間違いなしさ」
「ああ、ありがとう。行けるところまで行ってみるよ」
牧場を後にし、道具屋に戻る。
ジャックとラプカを二人乗りにして戻って来たが、ラプカはすいすいと人混みを歩き、随分と快適だった。
「俺まで乗せて貰ってありがとな。今日からタゥもラプカ持ちだな!」
「ああ。明日からは、集落中を見回る事になるだろう。それも楽しみな事だな……それと別件なんだが、いいか? 男同士の性交渉で使う香油を売って欲しい。量は多めで頼む」
「ああ、あるぜ。今、持ってくる。しかも薔薇の香り付きだ。知ってるぜ、南のジュネだろう。キリクから聞いた。うまくやったな、お前。あいつって、本当に美少女にしか見えないよな」
「ああ。ジュネと恋人になったのは性教育の一貫だが、抱いた後でも、美少女にしか見えない。エッチな事に興味があって、やたらと危なっかしいんだ」
ジャックは大きめな瓶を持ってきて、台座に置いた。
「銅貨2枚だ……毎度。おうおう、のろけてくれるねぇ。ジュネが男に食われたって聞いて、枕を涙で濡らす男共がどれだけいるかって話だよ。ジュネはついこないだ査定に来たけどよ、やっぱり可愛かったわ」
「そうだろう? 俺と別れた後の事が、心配だ。いい男がいると良いんだけどな」
「余裕のある男は違うねぇ。お前みたいな奴は閨でがっついたりもしないし、初心者にはちょうど良いだろうな。思い詰めた男って、兎に角重たい奴ばっかりだ」
げに恐ろしきは、ジュネの美貌という事だ。
タゥは頷くと、香油の瓶をリュックに詰めた。




