祝報
いつも通り中天から森に入り、夕刻までに二頭を仕留めたタゥ達である。
解体小屋で解体し、分け前を分け、凱旋する。
するとマリアが進み出てきて、キーヤに言った。
「キーヤ、奥さん、産まれたって連絡が入ったよ」
「っ! ありがとう。すぐに帰る」
キーヤは礼をして、足早に去っていった。
「赤ちゃん、可愛いだろうなぁ」
と、声を上げたのはリマだ。
「もうすぐ俺たちにもコウノトリが運んできてくれるよ。早く子供が欲しいって? 可愛いおねだりだなぁ」
エンジュは満面の笑みで、真っ赤になったリマを見つめている。
「お姉ちゃん達は相変わらずだね。それにしても、無事に産まれて良かったね」
「ほんとだね。私も早く、赤ちゃんを抱きたいなぁ」
「うわぁ、マリアもおねだり? 大胆だなぁ」
「もう、そんなんじゃないったら。リズはいいお相手、いないの?」
「見合いの準備はしてるみたいよ。今度は真面目な人がいいって、言って置いたけど……どうなるかわからないよ」
「予定があるだけ、いいよね。私とアスロの結婚は、苦渋してるの。アスロがヤジュの家に婿入りする事について、一言ある家が多いんだぁ」
マリアの言葉に、タゥは驚いた。
「何? アスロはヤジュの家に婿入りするのか? 初耳だ」
「あ、レアから聞いてない? 実は、そうなの。だから、族長の後継者争いからは、事実上の敗退だね。これも、アスロが決めたことだよ」
「しかし、そうすると本家に残る妙齢の男児は俺だけになってしまうな」
「うん。だから次の族長はタゥだね。結婚が決まったら、本家からも通達があると思うよ?」
「そんな……。皆は、俺で良いというのか?」
「まぁ、実際ラピグゥと交代すんのは、三年後、タゥが再婚してからになるだろうって話だけどな」
エンジュの言葉に、タゥはほっと息をついた。
「そう……だよな。だいたい族長襲名は20歳前後とされているものな。俺はそれまでアスロと競うものだと思ってたし、アスロが族長になるものだと思っていたぞ」
「アスロはね、一族全てを守るより、あたし達家族だけを守って行きたいんだって。アスロらしい、優しさだよね」
「だがしかし、優しいだけじゃやっていけねぇからな。俺はタゥが適任だと思うぜ。ちっと女に手は早いが、英雄色を好むって言うしなぁ」
「あたしはねー、アスロじゃちょっと頼りなく思えちゃうんだよね! だから、タゥを支持してるよ! そう言う人、きっと多いと思うなぁ」
「わかった。本家から話が来たら、心して話を聞こう。……皆、ありがとう」
皆は、納得したように笑ってくれた。
その後、解散して家路につく。
今日も家には、静かにレアが待っていた。
「……というわけで、今日はジュネの処女を頂く事は出来なかった。ジュネは美少女めいた美貌をしているが、しっかり男だった。今日はそれを確認した所までだ」
「あら、残念でしたわね、あなた……。それにしても、女性に犯されそうになった経験がおありなんて、痛ましいわ……」
「うむ。13の時だったらしい。相手は15歳の未婚の娘だった。出来心だったという話だが、両家の親はこれを重く見て、東へ娘を嫁入りさせた。物理的に距離を離したわけだな」
「それが……最善だったのでしょう……。では、女性への興味も減じてしまったのでしょうか……?」
「それもあるが、もう三年経っている事だし、なよやかな女性には心惹かれるそうだ。逆に、元気な女性は苦手らしい。件の娘の影響だな」
タゥはジュネから聞いた話を、晩餐を食べながら語っていた。
レアも興味深そうに聞いており、機嫌も良さそうである。
「ただ、男性への興味は尽きないらしい。男を好きになった事はないが、性的興奮を覚えるのだそうだ」
「あらあら……。まるで、性教育ですわね……。あなたがたっぷりお相手してあげれば、興味も落ち着くのではなくて……?」
「そうだな。そうあれるように頑張るつもりである。逆にもっと男に興味が出るようなら、男と見合いしたっていいんだしな」
「男夫婦が生まれるのなら、ラプカを得る条件も変えねばなりませんね……」
「ふふ。それは族長の仕事だな。そう言えば、聞いたぞ。アスロは族長争いから身を引いたそうだな」
「ええ……。もとよりアスロには、人を率いる気概が足りていませんでした……。あの子は底抜けに優しくて、そこが良い所だけど……族長には向いておりません……。わたくしは、結婚した時からあなたの勝利を確信しておりましたわ……」
真っ直ぐ、疑いのない眼差しが向けられる。
タゥはそれを浴びながら、薄く微笑んだ。
「どこまでやれるかはわからぬが、精一杯やってみよう。とは言え、本家の仕事などさっぱりわからぬがな」
「うふふ……。照れ笑いが愛らしいですわね……。大丈夫、あなたにはやれますわ……」
俺が族長を襲名するとき、レアはこの世にいないだろう。
それを、物悲しく思う。
レアもわかっているのか、詳しく語ろうとしない。
今ではレアも、立派な俺の嫁だ。
結婚当初はうざったくて仕方なかったものだが、今では会話もよくするし、愛着があるように思う。
レアが死んでしまうなんて、考えたくもない。
しかし、その日は着実にやってくるのだ。
その日は、俺も泣かずにいられないだろうな。
そんな事を考えながら、晩餐を片付けた。




