恋人ごっこ
「……大騒ぎの所悪いが、俺達は合意の上行為に臨んでいた。乱心はしておらん」
タゥが冷静に言うと、兄の方が激昂してきた。
「ジュネを犯そうってやつは皆そう言うんだ! ジュネ、怖かっただろう。お兄ちゃんがついているからな」
「ジュネ、その男が恋人だというなら、俺達に紹介しなくてはおかしいぞ」
「……っもう! 僕に恋人が出来なかったのは兄さんと父さんのせいだからね! 男同士なんだから、一夜の恋だって、いいでしょ? 紹介なんてしないよ!!」
ジュネは仕方なさそうに服を身に付けた。
タゥも残念だったが、ジュネはもっと残念そうな面持ちである。
「お客人とジュネよ。広間にて待つ故、衣服を整えたら来い。では、待っているぞ」
どたどたと二人が去っていき、沈黙が降りる。
準備を終えたタゥは、ジュネを見て驚いた。
そのなめらかな頬に涙を流していたのである。
「ひっく……ひっく……せっかくタゥがその気になってくれたのに……っ、台無しだよ……っ」
これに焦ったのはタゥである。
そんなに処女喪失を楽しみにしていたとは思わなかった。
泣くジュネにちゅっと口吸いをすると、明るい口調で話しかけた。
「ジュネ、ご家族を説得してもう一度試みよう。そう泣くな、まだ好機はある」
「ほんと……? 僕、タゥに嫌われちゃったかと思った」
「この程度で嫌ったりせん。それより、服を着て広間へ行くぞ。まずは事情を説明せねばな」
ジュネは頷くと、涙をふいて身支度を整えた。
その様がなんともいじらしくて、タゥはジュネを抱きしめてしまった。
さて始まった弁明会であるが、話はなかなか進まなかった。
「ジュネの処女を得る者は、ジュネを一生守ると誓える紳士が相応しい。妻を持つお前に誓えるのか、タゥよ?」
「だから! 僕らは一夜の恋だって言ってるじゃん! 奥さんに黙認して貰ってるんだから、ガイ兄さんは余計な事言わないでよ!」
「そんなものを許す親がどこにいる! 男と見合いがしたいなら、叶えてやるぞ!」
タゥはおお、凄いな、と思った。
ケラソ族で男同士の見合いは普通ではない。
ジュネはよっぽど愛されているんだなと得心した。
「だから僕はエッチがしたいの。男に抱かれてみたいんだよ。見合いは女の子としたいと思ってるから、余計な事しないでよね」
「ジュネ、お前はもっと自分を大事にしろ。今日のように俺が踏み込まねば危うかった事は、片手の指では数え切れまい」
そう兄ガイに諭されて、ジュネは頬を膨らませて不機嫌に答えた。
「僕は男に襲われた事はないよ。みーんな、エッチな事を楽しもうとした相手だもん。兄さんに邪魔されなきゃ、こうしてタゥに頼むことはなかったろうさ」
ジュネはジュネなりに、頑張っていたようである。
そりゃあ、こんな美少女めいた少年が近所にいたら、ふらりといくか。
タゥはジュネが今まで無事だった事に、心から感謝を捧げた。
「俺は、一夜の関係だと思ってここに来ている。それはキリクも認めている事であるから、少しは一考して貰えないだろうか」
タゥがそう言うと、父兄は、弱りきったように眉を下げた。
「キリクか……キリクには世話になっているからな……」
「でも父さん! こんなふらっと現れた男に守り続けたジュネの処女をやっちまって、本当に良いんですか? いくら"英雄"だって、妻の他に子供を産ませるような男だぜ! ジュネが泣くことになりそうで、俺は反対だ!」
「ああもう。僕の好みにケチを付けないでよ。だいたい、エッチしたぐらいで何を泣くって言うのさ? 万全を期してキリクにも相談したし、これ以上どうしろって言うんだよ?」
そうだな、後はどうしたら良いだろうか。
家長の父をジュネと一緒に見つめると、父は仕方無さそうに条件を出した。
「よしわかった。では、しばらくこの家に通って貰おう」
「え? なんでさ。タゥにそんな迷惑をかけようっていうの?」
「ジュネ、お前は本当に一度で済むと思っているのか。周囲の男はお前の変化に敏感だぞ。経験したら、また誘いをかけられるはずだ。タゥ以外は邪魔して良いと誓えるか?」
「そんな……。ちょっとぐらいいいじゃん。せっかく綺麗に生まれついたんだから、綺麗なうちにちょっと危ない事だってやってみたいよ!」
「では、そういった欲求もタゥに満たして貰いなさい。どうだ、タゥよ。うちの危なっかしいジュネをひと時恋人にして貰えぬか。キリクにもしっかり宣伝して貰う故、心して答えよ」
「期間はどれぐらいだ?」
「少なくとも、今月いっぱいは通って貰いたい」
「そうだな。まずはジュネの意志が大事だと思っている。ジュネ、俺達は会ったばかりで愛し合ってるわけじゃない。だが、性教育の延長線上で恋人ごっこなら出来ると思う。しばらく俺と会うことを了承するか?」
「タゥ、迷惑かけてごめんね……。恋人ごっこかぁ、楽しそうだね! 僕、タゥみたいな美しい恋人が出来るなんて、嬉しいよ! うん、了承します」
「聞いた通りだ。これで問題はないな」
タゥがそう言うと、父兄もしぶしぶ頷いた。
「じゃあ、初夜は明日だな。明日の午前中、俺の家に来い、ジュネ。嫁は実家に返しておく」
「何?! じゃあ俺達が様子を見ることが出来ねぇじゃねぇか!」
全くちっとも似ていない兄ガイが吠えた。
「うわぁ、兄さんが邪魔に入らない閨ごとって初めてだ。分かったよ、明日伺うね」
ジュネはにこにことしてタゥを甘えた目で見た。
「あのね、タゥ。……そろそろ時間だよね。お見送りします」
タゥを玄関まで送り届け、ジュネはほっぺたを朱に染めて言いつのった。
「きょ、今日は邪魔が入ってごめん。明日は……宜しくお願いします」
「ああ、楽しみにしてる」
ちゅうっと口吸いすると、ジュネも舌を絡めてきた。
軽く舌を吸い、そっと離れる。
至近距離で見ても、これが男なんて信じられない。
抜けるような白い肌を暴き立てる明日を夢見て、タゥは家路に着くのだった。




