エンジュとの見合い
それから三日が過ぎ、7月の4日である。
今日はヤジュの家に行くといって出てきた。
お見合いも終わったし、そろそろ良かろうという心づもりである。
ちなみに、緊縛の件はキリクに正直に告白した。キリクは秘密の話を他者に漏らさないので、秘密の会話に打ってつけだ。
俺の場合レア公認なのが大きいが、縛られたい娘がいた場合、密かに教えてくれる事になった。
キリクは性教育の先生をやっているので、こんな話にも寛容である。
その弊害として、男を抱いた話を、根ほり葉ほり聞かれた。ケラソ族で男色はいないとされているが、後学の為とのことである。レアも楽しそうに話を聞いていた。
ちなみに緊縛で成敗したルドの家のケディであるが、キリクの評判も最悪であった。
遠慮なく縛り上げてやったが、やっぱりクズだな。タゥは悪者の退治方法をひとつ学んだ。
また犠牲者がでないように、ペットコースの先生方には念入りに調教してやって貰いたいものである。
そんなちょっと普通じゃない成敗方法にキリクは苦笑していたが、マロンの家のミクが助かった事は事実なので、不問としてくれた。
昨日キリクが来たときに聞いたが、ヤジュの家のリマとナッキの家のエンジュのお見合いは成功し、婚礼の儀も秒読みとのことである。
やっぱりそうなったか、という気はしている。
ただ、寂しいだけだ。
実を言うと結構悔しいが、敗者は黙して去るべきである。
負け惜しみなんて言っちゃいけない。
では、ルネーの家のマリアのお見合いはどうなったのか?
それは、マリア本人に聞いてくれと言われてしまった。
キリクならばどうなったか知っているはずだが、秘するには意味があるはずである。
それは明日マリアに会って聞こう。
ヤジュの家にたどり着き、戸板を叩く。
「ケラソの家のタゥだ! リマとリズに会いに来た!」
中から閂が外される音がして、やがて出てきたのは、リズだった。
「あーっ! タゥ! やっと来たね! 待ってたよーっ! さぁ、中に入って! お姉ちゃんも待ってるからさ!」
リズは跳ねるような足取りで近付いてくると、タゥを急かして急がせた。
リマとリズの部屋に入ると、上座にリマの姿が見えた。
「あっ、タゥ……」
リマはほっとしたように微笑むと、下座に座ったタゥを焦がれるように見つめた。
「タゥ、話したい事がいっぱいだよ! どれから話そうか?」
リズの元気いっぱいの声に促され、タゥは唇を開いた。
「じゃあ先週の見合いから教えてくれるか。リューナンの家のライチと、アシバロの家のカサザだったな。見合いは楽しかったか?」
「思ったほど顔は良くなかったよ。細目と強面ってかんじだった。胸をジロジロ見られるし……いまいちぱっとしなかったな」
「お姉ちゃんにはエンジュっていう男前が待ってるもんねぇ。私は普通にいい男だと思ったよーっ。ただ、胸ばっかり見てくるのには困ったよねぇ」
「まぁ、あまり評判の良くない男達だったからな。特に何もされていないのなら良かったよ」
「それで、2日のエンジュとのお見合いなんだけど……色々あって成功しちゃったの。私とエンジュで今度、婚礼の儀を上げるんだ……」
「うん、おめでとう。エンジュと結婚するんだな。正直結構寂しいけど、リマの幸福を祈っているよ」
「お姉ちゃん、それだけでいいの?! あんなに頑張ったじゃんか! 三年間、タゥの恋人でいる権利をエンジュからもぎ取ったじゃん!」
「あのねタゥ、私ね……」
そうして話し始めたリマの話に、タゥは驚嘆の意を隠せなかった。
──7月2日、お見合いの日。
エンジュは朝から張り切っていた。
今日こそリマの心を射止めると心に決めていたのである。
両親とともにヤジュの家にたどり着き、戸板を鳴らした。
「ナッキの家の両親とエンジュだ! リマと見合いに来た!」
閂が外され、中から出て来たのはリズだった。
「いらっしゃい。ようこそ、ヤジュの家へ。ご両親は広間へどうぞ。うちの両親も待っています。エンジュは私とお姉ちゃんの部屋にどうぞ」
エンジュはリズに導かれ、部屋の下座に座った。
リマとリズは上座に座っている。
「あっ、今日のお見合いは私が同席するから宜しくねーっ」
エンジュは頷くと、リマに向き直った。
「じゃあ、改めまして、ナッキの家のエンジュだ。年は17歳で、未婚。今日は見合いに応じてくれて、感謝してる」
「私は、ヤジュの家のリマ。私も……お見合い出来て嬉しい、です」
リマはぽーっとエンジュを見つめている。
そんな姉を一瞥し、リズは会話を試みた。
「エンジュって、たくさんお見合いしてるんでしょう? 何人位と会ったのー?」
「16の時から見合いを始めて、一年ちょっとか。全部で16人だよ。殆ど、北の連中だな」
「可愛い子もいた?」
「いた、いた。でもなんか合わなくて、今まで話が決まりそうになった事はないんだよ」
「そっか。良かったねぇ、お姉ちゃん。お姉ちゃんて実はすんごい嫉妬深いの。エンジュはお姉ちゃんに、一目惚れしちゃったんだもんねぇ」
エンジュはきらりと瞳をきらめかせて、リマに語りかけた。




