修行開始
「私は結婚って、突然やってくるものだと思ってるの。お姉ちゃんがエンジュと纏まりそうだし、ひとり残ってから、じっくり考えたいかも」
「リズ! わ、私にはタゥってひともいるんだからね!」
「リマからタゥを忘れさせるってのが無理なんだよなー。幼なじみだし。友達関係は許すからさ、俺だけに絞ってくれない? リマ」
「えっと……、い、今は無理です……」
「どんくらい待てばいいの? 俺、今すぐ婚礼の儀を上げたい位よ?」
エンジュは嫌みなく、いい男である。
こんな真っ直ぐ愛情を向けられて、嫌な気持ちになるわけない。
タゥはいよいよ白旗を上げる気持ちになっていた。
タゥは既婚者だ。
当たり前だが、何も言う権利はないのである。
「タゥ。既婚者はつらいとこだね。でもまぁ、あたしがいるじゃん! あたしも見合いを控えているけどさ、タゥのこともおざなりにするつもりはないよ」
「マリア……。ありがとな、気を使ってくれて。でも、マリアの事だから、アスロの事本気だろう? 来週は会いに行かないから、次は来月な」
「はーい。ちょっぴり寂しいけど、私も身をつつしまないとね。来月、お見合いが終わったら会いに来てね?」
「ああ、勿論。日取りはもう、決まったのか? アスロの怪我もだいぶ良くなってきただろう?」
「うん。怪我はだいぶ良くなったみたい。どうせだからね、エンジュの見合いと同じ、来月の2日にして貰ったんだ」
「そうなのか。リマもリズもマリアも、見合いが楽しみだな」
三人は、屈託のない笑顔で笑っていた。
タゥはリマに首ったけなエンジュに挨拶をして、レアの待つ家に帰った。
翌日、とうとう緊縛の修行開始の朝である。
期待に満ちたレアの眼差しに見送られ、タゥは家を出た。
一刻程して道具屋にたどり着き、ジャックに挨拶をする。
「やあ、ジャック。今日は宜しく頼むよ」
「エーニャにはきちんと言って置いたからよ。俺もかぶりつきで見学出来るぜ」
「好き者だな。ジャックの秘密を知ってしまった気分だ」
「この程度で何が秘密だよ。俺は奥の深い男だぜ?」
道具屋をかわりの人間へ託し、一本裏通りに入る。そこから西にしばらく進み、右に折れた所に店はあった。
ウラディカの泉と看板に書かれた建物は二階建てで、香水の香りが強く香っていた。
ジャックに促され、二階に足を踏み入れる。
通された部屋は革張りの高級感溢れる部屋で、大きなベッドと簡素な椅子が見えた。
ジャックは「俺はここでいいから」と入り口に陣取り、タゥは椅子に腰掛けた。
「思ったより、静かな場所なんだな。俺はもっと騒々しいと思っていたよ」
「そりゃあ、早朝だからな。娼婦も本番は夜さ。エーニャには特別に朝から予約させて貰ったんだ」
「そりゃあ、ありがとう。俺は朝しか時間がないから助かるよ」
「おはよう、ジャック。そして、ケラソ族のタゥ……。私の弟子になりたいって事でいいのよね……?」
ジャックと話していた所に、肉感的な黒髪の美女が入ってきた。
ふんわりとした緑色のワンピースを纏い、ゆったりと近付いてくる。
「嬉しいわぁ……。タゥみたいな男前が身も世もなく喘ぐところをぜひ見たいわぁ……。ねぇ、ジャックもそう思うでしょう?」
「お、俺に振るなよ……。っていうか、怖がらせてどうすんだ」
「覚悟の上だ。是非ともお願いする」
「あら、良いお返事ねぇ……。じゃあ、まずは全裸になって貰おうかしら……」
タゥは言われた通り、着ているものを全て脱いだ。サンダルも脱ぎ捨て、素足になる。
見ると、エーニャも服を脱ぎ、全裸となっていた。
均整のとれた、美しい裸体だ。
それよりもまず、彼女の手にしている朱色の縄が気になった。
「ああこれ……? ケラソ族ってみんな朱色の糸で髪を括っているでしょう……? だから縄も朱色にしてみたの……。ふふ、美しい裸体ねぇ……。そこの椅子にかけて頂戴……」
タゥは言われた通り、木製の椅子に座った。
「じゃあ、始めるわねぇ……。今から縛っていくから、固定した後は動かないでねぇ……」
「あの、エーニャ。俺は女を縛れるようになりますか?」
「そのために、私がいるのよぉ……。ふふ、一度極めたら男も女も縛りたい放題だから、初期は私に任せてねぇ……」
エーニャはくるくると縄を巻き付け、複雑な形に結っていく。腕は後ろ手に縛られ、足も椅子に沿って縛り付けられていく。
縛られた後、軽く腕を動かしてみたが、少したわむ程度で身動きは出来なかった。
「出来たわ……。やっぱりすごく綺麗……。朱色の縄にして正解ね……。まずは、楽しみましょう……」
全身縛られた状態で、タゥはまだ楽観視していた。あんまり怖くなかったから、安心していたのである。しかし身動き出来ないのは不快であり、不自由である。
そこでタゥはぎくりとした。エーニャが、玩具を鞄から取り出したのである。
「玩具は、お嫌いかしら……。大丈夫、優しく舐めてあげる……」
肉厚の舌がタゥの自身に絡みつく。好きなところを探られ、暴かれ、タゥは唾を飲み込んだ。
「あら……。ここは、好きみたい……。うふ。たっぷり遊んであげる……」
玩具の電源が入れられる。タゥは玩具を嫌いどころではない、あえていうなら大好きだ。先日もレアに散々責めさせた思い出が浮かんで、消えた。
敏感な場所を舐められながら、玩具を使われる。的確に気持ち良い場所に当ててくるのには、舌を巻いた。さすが娼婦である。
さすがにすぐいってしまうのは恥ずかしいので、限界まで我慢する。
我慢している所に、一番好きな場所に玩具が押し当てられる。
「……っ、あっ、……っ、あんっ、ああ……」
我慢しきれず、声が漏れた。
エーニャは笑みを深めて、攻め手を強くした。




