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ケラソの家のタゥ  作者: yahagi
無理矢理な結婚
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目一杯の笑顔

 レアのいない家であるが、念の為名乗りを上げる。


「ケラソの家のタゥだ! 今帰宅した!」


 中で閂が外され、戸板がからりと開かれた。


「お帰りなさいませ……」


 家の中から顔を出したのは、本家のまだ11歳の次姉であった。


「今日もご苦労さま。レアは大丈夫か?」


「はい。姉さんは薬を飲んで眠っていると聞いています。あの、晩餐の支度は整っておりますので、私はこれで失礼致します」


「ああ。ありがとう」


 タゥが礼を言うと、仄かに微笑んだ次姉が足早に立ち去っていった。


 用意されていた晩餐はルッケ多めで、大変美味しかった。パンを三枚も食べてしまったが、備蓄は大丈夫だろうか。


 レアが戻って来たら聞こうと心に決め、後片付けをして床を延べた。

 久しぶりの一人寝は穏やかで、すぐに寝入ってしまった。


 翌日、食器の後片付けに来た次姉を家にいれ、肉と角と皮をぎゅうぎゅうにリュックに詰めて、出発だ。リュック二つを背負い、町まで一刻の距離を歩いていく。


 町が近くなると、緑が減り、石畳の道を数多くの旅人が、ラプカに乗って行き交っていく。

 まだ早朝の為、野菜市くらいしか賑わってないはずであったが、どこからか笛の音が聞こえてきており、常と違う様相だった。


 ジャックの店に到着し、まずは角と牙と皮を売り払う。

 ついでに鉄粒3つでアカネの実のジュースを買い、喉を潤した。


「毎度。全部で銀貨3枚と銅貨20枚だな。確認してくれ」


「どうも。うん、丁度だ」


「町が浮き立ってる理由が知りたいだろう? まずは肉屋にウスルスの肉を売ってくるといいぜ。俺も腰を据えて話したいからな」


 ジャックの助言に従って、肉を肉屋に売りに行った。肉は状態も良く、銀貨3枚で売れた。


「さてジャック。話を聞く前に用事を済ませてしまいたいのだが良いか? 確か精霊石で動く道具があったであろう」


 そう尋ねると、とたんにジャックは悪い顔をして道具屋の奥に手招きした。


「これが精霊石で動く性具だ。値段は高いが性能は娼婦の折り紙付きだ。ほら、持って見ろ」


 ジャックに渡された筒状のものは、男の性器を模したものだ。

 それは両手の手のひらに収まる位の大きさで、柔らかい素材で出来ていた。

 教わるままにスイッチを入れると振動し、これは良さそうだ、と思う。

 更にスイッチを入れると、いやらしくくねり出したが、その動きもなかなか良かった。


「動力は、どれ位保つんだ?」


「これは消耗品で、1ヶ月で使い切りだ。お試し用に三日で切れるのもあるが、どうする?」


「1ヶ月のを二本くれ。置いておく分には動力も消費されなかろう?」


「毎度あり。銀貨1枚だぜ。嫁さん孝行だろ? タゥがこの時期に散財するなんて意外だな」


「ラプカの費用はほぼ貯まっているんだ。とはいえ、いいラプカが欲しいからまだ貯めていく」


「やっぱりそうだよな。速いラプカは高いもんよ。今年の祭りは、期待してるぜ? タゥ」


「ああ。精一杯頑張るよ」


 買い物が一段落ついたので、軒先に戻る。

 そこに、ふわりと女の声がした。


「あらぁ、ジャック。男前のお兄さんと道具屋で密会かい? 私も混ぜておくれよ」


 それは真っ直ぐに背を伸ばした、艶やかな黒髪の肉感的な美人だった。水色のワンピースを着ているが、その豊満な肉体は衆目に晒されている。

 少し化粧は濃いが、十二分に若く、発達した筋肉が垣間見えて、タゥは思わず喉を鳴らした。


 タゥはとにかく、健康的な美女に目がないのである。


「エーニャ、商談は終わりだ。お前に用はねえよ」


「あらぁ、つまんない。お呼びの時は店に来てね、約束よぉ……」


 エーニャは、甘やかな香りを残して去っていった。


「……察するに、エーニャも娼婦か」


「ご名答。しかも、緊縛のプロだ。下手に近付くと火傷するぜ?」


「きんばくって何だ?」


「縄を使って、人体を縛るんだ。縛ったまんま性交しても良いし、玩具で遊んでもいい。上級者は、縛られるだけで結構良いらしい」


「へえ。弟子入りしたいな。俺も女を縛れるようになるかな?」


 それに、ジャックはぎょっとして周囲を仰ぎ見た。


「ふー。エーニャに聞かれてたら這ってでも店に連れていかれちまうぞ」


「どうしてそんなに挙動不審になるんだ? そんなに高いのか?」


「値段はそこそこするけど、本当に通うつもりなら俺が格安にしてやるぜ! まあ、緊縛の初歩は自身が縛られる事から始まるんだ。素っ裸にされて縛られるとな、不安でいっぱいになるんだよ。初日なんか泣いちまうだろうぜ」


 縛る方がやりたいなら、やる気なんざなくなっちまうだろう?

 そう聞かれたが、まず自分の身体で学べるなら僥倖だと考えていた。

 ただ、覚えてもレアに活用出来やしないだろう。結局無駄遣いになってしまうだろうか。


「病弱な奥さんに緊縛は出来ねぇって考えてたりするか? それならこっちで縛られたい女を用意してやるよ。それならいいか?」


「修行代も含めて銀貨1枚で足りるか?」


「本当は全然足りねぇけど、男前は得だな。まず、エーニャに食われる事を了承しとけよ。あいつは緊縛した相手を食うのが何よりも好きなんだよ。それと、俺の見学を許す事。それで銀貨1枚にしてやる」


「ジャックも緊縛に興味があるのか?」


「俺は縛られるお前に興味があるんだよ。俺は女大好きだけどさ、男娼も時たま買ったりするわけ。少年の美しさってのもわかるわけよ。お前みたいな美青年、喘がしてぇに決まってんじゃん。強気な女に攻められる様を、俺に見せてくれよ。嫁さんだって、絶対見たいって言うと思うぜ?」


「……そんなに見つめられると、照れる」


 タゥは木漏れ日のような金髪の髪をくしゃりとつぶし、その真っ青な瞳を羞恥に染めた。

 言われずとも、レアは興味を持つだろう。しかし、連れてくる気はさらさらなかった。

 タゥはジャックに銀貨一枚を手渡しつつ、「俺が泣いてても見なかった事にしてくれよな」と頼んだが、「忘れてやらないから遠慮なく泣け」と諭されてしまった。


「じゃあ、色々お膳立てしとくからさ。来週また道具屋まで来てくれ」


「修行はどれ位かかるんだ? 来週は一週間、ずっとあいてる」


「じゃあ、一週間ぶっ通しで予約入れとくよ。それでどこまで習熟出来るか、だな」


「早めに習得出来るように頑張るよ」


 タゥはジャックにそう約束してみせた。タゥは子供の頃から物事の物覚えが良く、習熟に困った試しがなかったのだ。


 値引きしてくれた恩も含め、目一杯の笑顔を届けると、ジャックもにこやかに笑顔を返してくれた。

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