レアの対処
実際、エンジュは大したものだと思う。リマが俺にした提案──子供を産んで、三年待つというもの──を聞いても、「さすが愛情深い女だぜ!」と言って、平然としていたという。
ちなみに、顔はそっくりなリズに何で見向きもしないのか、というと、「一目惚れだったし、中身は結構違うだろ。俺はリマしか考えられない」と、真剣な顔で述べたという。
思うに、一途さという一点に置いて、タゥはエンジュに負けている。
既婚者の時点でどうしようもないが、三年後に結婚しようと約束する事は出来るはずなのである。
それをしないのは、ただタゥがずるいだけで、他に理由はない。
愛情深いリマにぴったり合うのは、エンジュではないか。
そんな想念が、後から後から沸いてくる。
「……なんか、寂しそうな瞳をしてるよ、タゥ?」
仲の良さげなリマとエンジュを見ていて、物思いに浸っていたようだ。
近付いてきたリズが心配そうに顔を覗き込む。
それに気付いて、マリアも傍にやってきた。
「ありがとう。ちょっと物思いにふけってただけなんだ」
「そりゃあ、あれだけ見せつけられちゃあね」
マリアが腕を組んでリマとエンジュを見やる。
「お姉ちゃんが嬉しそうだから、私は嬉しいよー。タゥ以外でこんなに仲良くなるの、初めてだよ」
リズはにこにことしていて、楽観の構えのようだ。
「そうだな。俺達幼なじみ以外でこんなことになるなんて、びっくりだ」
三人の見つめる先では、エンジュが頬を染めてリマに熱烈アピールをしていた。
今日も日没には家に帰り着いたタゥである。
「お帰りなさいませ……」
出迎えたレアにひとつ口吸いをしてから、晩餐に取り掛かる。
今日は足肉のハンバーグに、具だくさんのシチューに焼きたてのパンである。
タゥは食前の文言を唱えてから、食べ始めた。
「今日も俺の好物ばかりだな。うむ、美味い。特に今日のパンは格別なのではないか?」
「今日のパンは……母ユキノが焼いてくれました……」
「パン焼き名人と名高いユキノの作か。なるほど、美味い。いつものパンも美味いから、誤解なきようにな」
「はい……。ありがとうございます……」
「ところで、体調は大丈夫なのか。月に二度は熱を出していただろう」
「はい……。そろそろかと思います……。それで、母も様子を見に来てくれたのです……」
「そうか。何か変わった事はなかったか?」
「どうやら町が……祭を迎えるようでございます……」
タゥは、その言葉が引っかかった。
「祭りとは? 町での祭りも雨期が開けてからであろう?」
「詳しくは……わかりかねます……」
「わかった。明後日町に出掛けた時に聞いてくる」
タゥはそう言うと、残りの晩餐をかきこんだ。
レアが所望したので、今夜も夜伽を行う。
レアの服を剥ぎ取り、首筋に噛みつきながら組み敷いた。
レアは恍惚の眼差しでかき抱いてくる。
レアはひどくされたがっていたが、やはり体調が心配だった為、普通に抱いた。
それで寝ようとしたが、レアは納得せず、なんとタゥの上に乗ってきたのである。
それが思いのほか良かったので、希望どおりしばらくいじめてやった。
下から見るレアのいき顔も悔しそうで良いなぁと眺めていたら、珍しく笑顔のレアに言われた。
「あなたが……わたくしの下で喘いでいるのが……大変愛らしかったです……」
それはなんだか、大層恥ずかしかった。
翌日、レアはあんなに動いたのに、健康そうに見えた。
熱が出なければいいが、と案じておく。
「ではタゥ、そろそろ向かおうか?」
声をかけて来たのは、サランだ。
今日は、西のトマツの家に謝罪会に向かうのだ。
「あなた……行ってらっしゃいませ……」
「レアも、息災でな」
家を出て、ラプカに乗り込む。
サランの後ろに跨がって、出発進行だ。
しばらく走ると、サランが語りかけてきた。
「タゥよ、新婚生活は落ち着いたか? 何ぞ困った事があるなら、何でも相談するが良い」
「……それは、閨の事でも良いのか?」
「勿論だとも。閨は大事だからな。言うてみよ」
サランの言葉に甘えて、タゥはレアにいじめるような性交をしてしまうと告白した。
相変わらず心から愛する事が出来ぬまま、夫の役割を果たし続けている事も。
病弱の身体を慮る気持ちはあるものの、時として嗜虐心がそれを上回り、それをレアが喜ぶ。その繰り返しだ。
産まれた子供を本家へ預けなくてはいけない事も、不本意極まりない事である。
「なるほど、子供の件は知らなかった。しかしタゥよ、レアが喜んでいるというならば、問題はないように思うぞ」
「……父さんには叱られるかと思っていた。いくら見知らぬ娘を娶ったとはいえ、父さんと母さんを見習って、愛し愛される家庭を作るって、思ってたのにさ」
「お前の結婚を決めたのは、この俺だぞ? お前がどれほど無念であったか、それはこの目で見届けている。お前の理想を壊したのは、俺であるのだ。母さんも天から見守っていよう」
「父さん……」
「レアは、自分をどのように扱っても構わないと言っていた。最悪を考えるなら、手を上げても構わず、死んでも構わずと言ったところだ。それが、閨で意地悪をする程度で済んでいるのであろう? 俺は随分仲が良いように感じたな」
「仲良し……。そうかもしれない。ただ、閨だけだ」
後悔に沈むタゥの声とは別に、サランの声は、穏やかだ。
「まぁ、タゥの思うとおりにするが良い。きっとそれがレアの望むところなのであろうからな。レアはとにかくタゥを愛しすぎている。タゥさえいれば、子供さえ邪魔になるのであろう」
サランの言葉は、胸にストンと落ちた。
レアの対処は悩みの種だが、サランの許容内に収まっているのならと、胸が軽くなったのだ。




