浮気
残されたタゥは、改めて水色の髪の女を検分してみた。
身長は俺より頭半分程低く、胸が大きく、腰がくびれている。たおやかな美人、と言ったところだろうか。水色の髪は三つ編みで一つに括っており、金色の瞳は鋭くタゥを見つめていた。
「ケラソの家のタゥだ。トマツの家は明後日訪問予定だが、イズカがもしかして……」
「はい。私が結婚を拒んでいる長姉になります。父ガロンがタゥに会いに行ったと聞いて、とても驚きました。今日は手数をかけてしまう事を詫びに参ったのです」
「しかし、原因は俺なのであろう? であれば、知らん振りするわけにいくまい。俺は結婚を説得しに行くわけだが、大事ないか?」
イズカは頬を昂揚させてタゥを見つめており、強く両手を握っている。そのまなざしは、確かな恋情をたたえていた。
「私は、誰に説得されようと嫁に行く気になれないのです。だから謝罪に参りました。もう18になってしまった故、ゆっくりしてはいられないとわかっているのですが……どうしても恋情を諦められないのです」
「しかし俺は既婚であるし、出来ることは少ない。見合いも断っているようだが、新たな出会いがあるやもしれんぞ」
「見合い相手は、弟の友人で、見知った相手であるのです……。嫌いではありませんが、結婚となると考えられない相手であるのです……」
「そうなのか。では明後日に俺が来訪する事も、迷惑でたまらないであろうな。しかし、出来ることと言えばそれくらいだ。当日は心して説得させて頂く」
イズカは残念そうに目を細めたが、薄く笑ってそれを受け入れた。
「分かりました。タゥに会えるだけ、私に取っては幸福な日です。明後日を楽しみにしていますね」
「イズカ!」
ラプカで駆け込んで来たのは、まだあどけない顔立ちの狩人で、燃えるような赤い瞳に黒褐色の髪をした少年だった。
「ポーラの家のルキ……。どうしてあなたが……。迎えは弟に頼んでいたはずよ。それにそのラプカは……」
「ラプカはトマツの家のガロンに借りた。俺はイズカの婚約者なのだから、迎えに来るに決まっているだろう。勝手な真似をしたとガロンはご立腹だ。さぁ、後ろに乗れ。帰るぞ」
イズカは躊躇っていたが、仕方無さそうにラプカに横座りで座った。
「ラプカの上から失礼する。俺はポーラの家のルキ。あなたがケラソの家のタゥだな。俺の婚約者が失礼した。明後日は足労をかけるが宜しく頼みたい」
「ああ。俺に出来る事は頑張らせて貰う」
「ありがとう。では、失礼する」
そう言ってルキはラプカで駆け去っていった。
「ありゃあ、大きくなったらいい男に育つぜー? なんか、タゥを気にしてたな。恋敵か?」
「エンジュ、よくわかったな」
「わからいでか! っていうか、俺もタゥは恋敵なんだぜ? 俺、リマの事本気だからさ。しっかし、リマはタゥが大好きだよなぁ?」
「うん。お姉ちゃんはタゥが大好きだよ。でも、エンジュのことも好きだから、そんな風に言うと困っちゃうよ?」
「ちょ、ちょっとリズ。それじゃあ私が二股かけてるみたいじゃない」
「おおー、本当に困ってる。困らせるぐらいには俺のこと好きって事だろ? 尚更負けらんねえな!」
エンジュは嬉しそうに破顔した。タゥとしては、こんな男前に恋敵と言われて光栄なばかりである。
「全く、恋につける薬はないって、本当だよね。イズカも思い詰めてたし、タゥって罪な男だね」
マリアはそんな言葉を言い残して帰って行った。
タゥも暗い帰路を辿りながら、レアのもとに帰るのだった。
翌日、ルネーの家に行くと言ったタゥに、レアは良い顔をしなかった。
「最近……、午前中にあなたの姿がなくて……寂しいのです……」
「午前中は出掛ける用事が多い。用事があるならあらかじめ伝えてくれるか」
「用事では……ないのです……。引き留めてしまって……申し訳ありませんでした……」
用事はないと言いながら、なんとも恨みがましい様相である。
レアの日も作る必要性を感じつつ、気にしないふりで家を出た。
これも浮気だ、という意識がタゥにはしっかりあった。
悪いことをしているというのに、これほど胸が浮き立つと言うのは、人としておかしいのだろうか。
しかし、レアと一緒にいると、嗜虐心ばかりが刺激され、平常心でいられない。
前途多難だな、とひとりごちると、到着したルネーの家の戸板を叩いた。
「ケラソの家のタゥだ! マリアに会いに来た!」
しばらくして、家の中から出て来たのは、にこやかなマリアだった。
「いらっしゃーい。待ってたよ、タゥ!」
マリアの案内で通されたのは、マリアの部屋だった。
すっきりと片付いた部屋で、お互い腰を下ろした。
「改めて、いらっしゃい、タゥ。えっと、改めて聞きたいんだけど……股を舐めるってほんと?」
「本当だよ。主に俺がやりたいだけなんだが……呆れちまったか?」
マリアはせわしなく目を瞬かせると、小さく微笑んだ。
「恥ずかしいけど、タゥのやりたい事だったら、許してあげる」
「マリア。ありがとう」
「ただし、お布団はナシだよ。母さんにも内緒なんだから、そーっとやってよね」
「俺はいいが、マリアには寝転んで貰うぞ?」
「わかった。すぐに……する?」
マリアは真っ赤になってそう言うと、スカートの上の手を握りしめた。
「マリア。まずは、抱きしめさせてくれないか?」
「う、うん。でも、覚悟を決めている内にやって欲しいかも。言っておくけど、すっごく恥ずかしいんだからね!」
真っ赤な顔で言いつのるマリアを愛おしく思いながら、優しく抱き寄せる。
そのきらめく水色の瞳に口付けを落とし、ゆっくりとマリアのスカートに手をかけた。




