夜分の客人
中天になったので、森に入る。
昨日の調子だとエンジュが不調かもしれないと思われたが、彼は絶好調であった。
なんでも親達には昨日のうちに、恋に落ちた事を打ち明けており、ヤジュの家にもラプカを飛ばし、来月の2日に見合いの日程が決まったそうなのである。
森の中を駆けるエンジュは本当に調子が良さそうで、運悪く遭遇した飢えたウスルスと剣を交え、見事討ち取って見せたのである。
もう一頭、ウスルスを追い、罠に追い詰めてタゥがとどめを刺した。
三人で二頭を運び、解体小屋で解体して、分け前を分ける。この時点でほぼ日は暮れており、夜の帳が降り初めていた。
「こっちこっちー! 今日もお疲れさんでしたーっ」
森の入り口にいたのは、マリアだった。
キーヤは「お疲れ様」と、短く言うと一礼し、帰路に着いた。
エンジュがそれに気付いて、マリアに近付いていく。
「出迎えご苦労様。それにしてもお前、美人だな。アスロと見合いをするって本当か?」
「うん。本当だよ。アスロは誠実で優しい男だからね。見合いが楽しみだよ」
「へぇ。珍しい女もいたもんだ。あっちは話を固めたいだろうから、せいぜい注意しておけ」
「うん、わかった。配置転換の話なら、私もちょっとは聞いてるよ。エンジュもリマとのお見合い、日程が決まったんだって? おめでとう」
「ありがとう。リマはなんで前に出て来ないんだ?」
「あはは。なーんか恥ずかしがっちゃってるんだよねー」
「もう、そんな事ないったら。タゥ、エンジュもお疲れ様でした」
「うむ。今日も出迎えありがとう」
タゥはそれだけ言うと、リズに寄っていった。
エンジュとリマは、自然と寄り添っている。それを傍観していると、ちくりと胸が痛んだ。
やはり俺は独占欲が人一倍強いのだろう。
「タゥ、あんまり心配しなくて大丈夫だよ。お姉ちゃん、タゥの子供諦めてないからさ」
「そっか。心配かけてごめんな。ありがとう。でも、リズはいいのか? 男前、好きだろう?」
「私はタゥのほうが好きだから、見合いもナシって決まったの。一応当日は同席するけどね」
「へえ。ダイの家のヤッハもそうだが、好みが別れるもんなんだな」
「そりゃあそうだよ。タゥの事は二人して愛しちゃったから仲良くやってるけどさ。こんなの稀だよ。じゃあ、そろそろ帰るね。明日、朝から待ってるから、宜しくね」
「ああ、また明日。俺も楽しみにしてる」
タゥは帰路を辿りながら、明日の癒しの時間について思いを馳せた。
本日の晩餐はダロを使ったカレーであり、肉はタゥの好物である背中の肉がたっぷり使われていた。ピリ辛具合もちょうど良く、大変美味である。
「今日の晩餐は格別美味いな。ルッケ多めなのもほくほくしていて好みだ。この味はレアの好みに合ったか?」
「はい……。大変美味しく頂いております……」
「そうか。それは良かった」
会話はそれで途切れ、着々と晩餐が平らげられる。
戸板が鳴り響いたのは、レアが晩餐の後片付けをしていた時だった。
「夜分に申し訳ない! 西のトマツの家のガロンという者だ! 家の娘の事で相談があって来た!」
西のトマツと言えば、そこそこ大きな家であるはずだった。
タゥは閂を外し、からりと戸板を開けた。
家に入ってきたのは、タゥより頭二つ分程大きい大男であった。髪は群青色で、左右に三つ編みを垂らしている。瞳は月夜に映える金色で、鼻から下はたっぷりとした顎髭に覆われていた。
ガロンは太鼓腹を叩きつつ広間に上がり、下座に着席した。
「急いで晩餐をかきこんで、ラプカを走らせてきたが、なるほど、なるほど。確かに大層美しい青年だな。綺麗な顔をしているだけでなく、狩人としていっぱしの腕を持っているのだろう。強い気迫を感じるぞ!」
「こちら、振る舞いのアカネの実の酒でございます……」
「ああ、どうもおかまいなく!」
「改めまして、ケラソの家のタゥだ。こんな夜分に、いかな用向きか?」
「実はうちの娘がタゥに惚れ上がってしまっておりましてな! タゥと見合いがしたかったと泣くのです! ようよう婿に入ってくれる相手を見つけた所なのに、見合いすら嫌がってしまい、途方に暮れておるのです! 見合いの謝罪会は不要とこちらからお断りしておきながら誠に勝手ですが、娘に会っていただきたい! そしてなんとか、嫁に行くように説得をして頂きたい!」
ガロンは一気に酒をあおると、レアのほうに向き直った。
「一緒に見届け人としてキリクと下の妹を同席させます。心配は何も要りません!」
「レア、俺は受けてもいいと思っている。付き添い人にサランを連れて行く」
「かしこまりました……。旦那様にお任せ致します……」
「聞いたとおりだ。ガロンよ、会う日程は決まっているのか?」
「婚礼は来月に行いたいのでな! 出来れば今月中に会ってやって貰いたい!」
「では、明明後日はどうであろうか? サランのラプカに乗せて貰うので、早朝のうちに着けると思う」
「了解した!では明明後日、トマツの家で待っているぞ!」
そう言って、ガロンは足履きを履いて帰って行った。
「騒がしいお客様でしたわね、あなた……」
「すっかり時が移ってしまったな、今宵はこのまま眠らないか?」
「そんな……。夜分にお客様を迎えた事を、後悔してしまいそうです……」
「何だレア、お前はこんな事ぐらいで膨れているのか。眠ろうと言ったのは取り消す故、その嫌な目つきをやめよ」
「あなたが……愛おしんでくれない、なんて……、考えたくもありません……。何度でも言いますが……、あなたに愛おしまれることこそが、わたくしの生きがいであるのです……」
レアはすみやかに床を延べて、たおやかに座った。
「あなたの……お好きなように……」
「うむ。今日は先に奉仕してくれるか。お前が俺のものを舐る姿を見ながら、今宵のやり方を考えよう」
「承知いたしました……」
レアは素直に腰に唇を寄せてくる。
「もっと舌を伸ばして舐るのだ」
「はい……」
その後も色々と奉仕の技を教え、その身にのし掛かったのはかなり時間が経ってからだったが──
レアは心底恍惚としており、幸せそうであったという。




