恋心
中天になり、森に入る。
新規メンバーのエンジュ曰わく、狩りのテンポをもう一段階上げれば、狩りの効率も良くなると言う。
しかしあまりテンポを上げると、傷病から戻ってきた時、アスロが追い付けない。それはどうするのか、という話をした際に、エンジュは興味深い話をしてくれた。
「アスロの奴、見合いが控えてるんだって? 元から前線張るより後方支援の方が性に合うこともあって、結婚したら育成部門に配置換えだとさ。ウスノロだけど面倒見は良いし、力も強いから、向こうじゃ引っ張りだこだろうな」
「見合いの話は知っていたが、それ以外は初耳だ」
「タゥは見合いの話を知っていたんだな。アスロに見合いなんて、言ってはなんだが、珍しいな。どこの誰なんだ?」
「幼なじみの、ルネーの家のマリアだ」
「タゥの見合い相手じゃないか。しかも、とんでもない別嬪じゃないか。二重の意味で驚きだ。本家は何とか話を固めようとしてるんだろうな」
「俺は前線向きだけど後方支援もやれるんで、長く出張出来る人間として選ばれたわけだな。だけどどっちみち、良い機会だからさ。アスロは後方支援行きになると思うぜー」
聞いてみると、納得できる話だった。
戦闘のテンポについても、やってみると若干早めたほうが動きやすく、何もかもエンジュの言うとおりであった。エンジュを褒めると「お前達の運動神経が優れてるんだよ」と返されてしまったが、エンジュはその緑色の瞳をきらめかせて得意げにしていた。
その淡い金髪を、三つ編みにした緑色の瞳を持つ美丈夫で、いつも軽妙な態度を崩さないのがエンジュであった。
しかし、それが崩れ去ったのは、なんと出迎えの女達を目にしてからであった。
今日も二頭の収穫を上げ、森の入り口に戻ってきたタゥ達。
今日は出迎えに、ヤジュの家のリマとリズ、ルネーの家のマリアが出そろっていた。
そこに通りがかったエンジュは、余裕の表情で通り過ぎようとしたが、急に立ち止まった。肩に担いでいたウスルスを落としそうになったため、タゥは非難の声をあげた。
「どうした、エンジュ。ウスルスを取り落としそうになっていたぞ。出迎えの女達が気になるのか?」
「お、お前、あ、あの女と知り合いか」
「うむ? 誰のことを言ってるのかわからぬが、皆俺の幼なじみだ。美人で可愛い子達が出迎えに来てくれたであろう?」
「あ、ああ……。解体終わったら紹介して貰えるんだよな?」
「ああ、勿論だ。しかし、エンジュよ。顔が真っ赤だ。なんだか息も荒いし、疲れたか? 解体はキーヤ主導で進めて貰おう」
「任された。臓物は希望者はいるか?」
「じゃ、じゃあ俺が貰う。妹が臓物の鍋を好んでいるんだ」
「へえ、家を分けているのに差し入れに行くのか?」
「ああ。うちは13人家族だからさ。食料は持ち寄りでまかなっているんだ」
「人数が多いなら配当を多くするぞ。胸の肉も持って行け」
「キーヤ、ありがとな!」
「礼には及ばない。それじゃあ、皆リュックに肉は詰めたな。出迎えの女達に一声かけておくことにしよう」
キーヤがそう言って先導したので、エンジュとタゥもついていった。
最初に気付いたのは、マリアだった。
「おーい! 今日もウスルス狩りお疲れ様!」
「今日も皆無事に帰った。出迎え感謝する」
キーヤが挨拶し、礼をする。すると足早で帰って行った。
「キーヤは相変わらずだね。タゥ、その人だあれ? 見ない顔だね」
「俺はナッキの家のエンジュだ。北から応援に来た」
「エンジュは13人家族の長男なんだ。これから仲良くしてくれ」
「ふーん。お綺麗な顔してるけど、収穫を見るに、狩りも得意なんだね。こりゃあ女が騒ぎそうだ」
「エンジュは見合い期間を長く取ってるそうだ。人気のある男の処世術だな」
「そっか。私はルネーの家のマリアだよ。これから宜しくね」
マリアは納得したような顔をして引き下がった。
反対に、リズが身体を乗り出してくる。
「タゥ、お疲れ様。エンジュって男前だねぇ。タゥを見慣れているお姉ちゃんが見惚けてるもの。おおっと、タゥの協力ライバル出現かー?!」
わいわいはやし立てていたリズにエンジュが手を振り、こちらを向かせる。
「お前は誰なんだ?」
「私はヤジュの家のリズだよーっ」
「それで、あんたは?」
「えっ!? あたし?! ごほん。私はヤジュの家のリマだよ」
「お姉ちゃん、大丈夫? っていうかエンジュも大丈夫? 顔、真っ赤だよ?」
俺はというと、ぼんやりとみんなの様子を見ていただけだった。まさに人が恋に落ちる瞬間を目撃してしまったわけだが、エンジュが真剣すぎて茶化すどころの騒ぎではなかった。
「ナッキの家のエンジュと申します。結婚に向けて見合いを申し込みます。毎日待ってるんで連絡下さい!」
そう言って手を伸ばしたエンジュの手を、どうしようか迷っているリマと俺とで目があった。
「リマ、ずるくたっていいんだよ?」
いつぞやの台詞を引用して言ってやると、頷いてエンジュの手を取ったリマ。
やはり三年後に未婚でいて欲しいなんて、俺のただの我が儘に違いない。
「ちょっとちょっとタゥ、あれ、いいの?」
心配してリズが寄ってきた。
「恋する美丈夫って更に美しいんだな。俺、初めて知ったよ」
「そんな呑気な事言ってると、お姉ちゃんが持ってかれちゃうよーっ! あ、タゥは自信があるのか。何たって子供を産んであげるって言われてるもんねぇ」
「自信はなくもないが、やっぱり未婚の身軽さには勝てないな」
「タゥとお見合い出来なかったの、お姉ちゃんすっごいショックを受けてたからさ。これで元気になるといいねー?」
「そうだな。そう願う」
タゥは、出来立ての恋人同士のようなエンジュとリマを見つめながら、そう呟いた。




