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ケラソの家のタゥ  作者: yahagi
無理矢理な結婚
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告白会

 今朝は早くから、ジャックとソニアの二人が来客として訪れていた。

 今日は、告白会の日である。

 ソニアがダイの家のヤッハに、愛してしまったと心情を延べる為の会である。


「朝早くからごめんね、タゥ。この格好で良いか一度見て欲しかったんだ」


 ソニアはいつものだぶだぶのズボンではなく、花柄のワンピースを着用していた。


「素敵なワンピースですね……。とてもよくお似合いです……」


 上座に座っていたレアが発言した。全員ひととおりの挨拶は済ませた後である。


「タゥのお嫁さん、ありがとう。ねぇ、タゥは? どう思う?」


「俺も似合ってると思うよ。清楚な感じだな」


「そっかー、へへっ。三刻も粘ってやっと一枚を買ったんだ。ヤッハに気に入って貰えると良いな」


「安心したところで、ヤッハの家に行こうぜ。あちらさんも朝から待っていてくれてるはずだからな」


 ジャックの号令に、皆腰を上げた。

 レアに見送られ、ヤッハの家に向かう。


 ソニアはしきりにワンピースの裾を気にしている。どうやらズボンに比べて股がスースーするようだ。そんな、彼女の良いところがヤッハに伝わると良い。タゥは、そう思っていた。


 ヤッハの家に着き、戸板を鳴らす。


「ケラソの家のタゥと、町のソニアとジャックだ! ソニアの告白の為に参った!」


 中の閂が外され、からりと戸板が開かれる。

 中から現れたのはヤッハで、相変わらずごつごつとした顔で頬がげっそりとこけている。一般的に、強面と称される風貌だ。


 ちらりと見てみると、頭ひとつぶん程背の低いソニアは瞳を輝かせてヤッハを見つめていた。


 広間に入ると、キリクとヤジュの家の双子がいた。

 俺達が下座に座り、ソニアだけヤッハと共に上座に座った。


「さて、告白会とやらを始めさせて貰いたいのだが、その前にゲストを紹介させて貰う。公平な見届け人としてトジンの家のキリクと、俺の見合い候補のヤジュの家からその双子だ」


「構わないよ。こっちだってジャックとケラソの家のタゥを連れてるしね。早速始めさせて貰うよ」


「ああ。始めてくれ」


 ヤッハの声にひとつ頷くと、ソニアは存外しっかりした声でしゃべり始めた。


「まずは、私の勝手な恋情につき合わせてしまう事に、謝罪を述べさせて下さい。それと、条件であった避妊の薬はしっかり飲みましたのでご安心下さい」


「それは俺も老舗の娼婦と確認してるんで、間違いないです」


 ジャックが言葉を添えると、ヤッハは頷きながらにこやかに笑った。


「そうか。お前はやはり信頼に値する娼婦であったな。疑って悪かった。今日はワンピースを着ている故見違えたぞ!」


「ヤッハのお気に召したのなら良かったです」


「それにしても、娼婦は辞めたのか? キリクに娼婦扱いしてはならじとたしなめられて、一体何が起こったのかと思ったぞ」


「私は元々、貴金属を売るアクセサリー売りの娘です。またアクセサリー売りに戻ります」


「父親はまだ戻ってこないのであろう? 金は足りているか?」


「お陰様で、懐は暖かいです。そのお優しいところも、私は大好きです」


「俺のことが好きだと言う話か。とりあえず聞こうか」


 ヤッハはにやにやと笑いながら、話を促した。


「初めは、一目惚れでした。あなたはジャックを見知っていましたが、私の事はいつも知らんぷりで、話した事がありませんでしたね」


「銀細工なんぞに興味はない。全ては道具屋で事足りるからな」


「だからきっと、ヤッハは私のことを立ちんぼうの娼婦に勘違いしたのだと思います。誤解を解かず、その話に乗った時点で、私は娼婦でした。そして、語って聞かせた身の上話にも嘘はありません。あなたに心配される事が嬉しくて、いつも長々と喋ってしまいましたね」


「しかし、内容はお前をいくらで買うか、といった内容だったはずだ。アクセサリー売りで稼げていたのなら、さぞかしうろんな提案に聞こえたことだろう。俺は出会った当初からずっとお前を娼婦だと認識していた。それは今も変わりがない」


「娼婦は初売りのみで廃業です。もとより私のような起伏の少ない身体の女では、大きく稼ぐことは無理なんですよ」


「そんなわけがあるか。お前のような愛らしい娘が売れ残るはずがない。だから俺は処女だと聞いて疑ったのだ」


「ヤッハにそう言って貰える事を、何より嬉しく思います。──愛しています」


 ヤッハは小さく身じろぎした。ソニアのなめらかな頬には涙が伝っていたのだ。


「娼婦として愛おしまれたと分かっていても、気持ちを断ち切る事が出来ませんでした。この度は父が不在ながら、嫁入りを考えています。どうぞよろしくお願いいたします」


 そう言ってソニアは頭を下げた。


「俺の気持ちは……そうだな。おまえがケラソ族の女であったなら、見合いを所望していた。今回の嫁入りは断るが、お前を可愛らしいと思っている。俺なんぞとっとと忘れて、良き夫を見つけるが良い」


「ひっく……泣いたりして、ごめんなさい。後、これだけは受け取って貰えませんか?

うちの店の、銀細工です」


 ソニアが懐から出したのは、シンプルなデザインのネックレスだった。


「これからは、銀細工売りとしてヤッハと関わっていきたいと思っています。迷惑をかけたお詫びに、どうか受け取って下さい」


「まぁ、固辞する理由もない。もらっておいてやろう。不要になったら、売ってもよかろうな?」


「はい、勿論です。……ああ、お似合いです。受け取って頂いて、ありがとうございました」


 確かに、ヤッハがそのネックレスを身につけるととても似合っていた。強面具合もひとしお、といったところか。


 ソニアは、少し泣いて「お暇します」と腰を上げた。


「今日はお時間を作っていただいてありがとうございました。失礼致します」


 そう言ってソニアは、ジャックを連れて帰って行った。


「じゃあ、こっちも解散だ。連絡網の方は、キリク、頼むぜ」


「任されました。そのネックレスの逸話になぞらえて広めてみせましょう」


 そして、全員で腰を上げた。


「ああ、ヤジュの家のリズ。見合いの話だがな、希望者がぽつぽつ増えていて、日程を調整してるんだ。話が止まってるわけじゃないって覚えといてくれよ」


「はーい! お見合い、楽しみにしてるね!」


「俺も楽しみにしてる。まぁ、タゥに敵うとは思ってないからよ、気軽に参加してくれよな」


 リズがほっとしたように微笑むと、ヤッハが苦笑してタゥに向き直る。


「タゥ、こんなに可愛いのが二人もいて、将来どっちかを選ぶ事なんて出来るのか?」


「いやあ、将来が楽しみですね」


 返答を先延ばしにするタゥにヤッハが閉口し、この度の告白会は終了した。

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