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ケラソの家のタゥ  作者: yahagi
無理矢理な結婚
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綺麗じゃない

「さて、それじゃあ直接聞いちゃうけど、リマとリズと、何かあったの?」


「ああ。マリアに隠し事は出来ないな。リマとリズには、子供を作ろうと誘われた。そして三年後を待つという寸法だ。俺は断ったが、とても嬉しかった。俺に笑顔が戻ったのならば、リマとリズのお陰であると思う」


「ふええ、子供を?! すっごい勇気じゃん! それでそれで? 何で断っちゃったの?」


「俺が出来れば大切にしたいからだ。正式に求婚し、婚姻したならば、子供を求める事も出来よう。そうでないなら我慢すべきだと判じた」


「ふんふん。でも、当たり前のことを言われて、はいそうですかって引き下がるかなぁ?」


「…………誘惑に負けて、口吸いした」


「おおーっ! タゥってばおっとこ前じゃん! それでなんか嬉しそうだったんだねーっ」


「こんな俺に、何の約束をするでもなく、リマとリズは身体を預けてくれた。俺はこれからも、癒やしを求めてヤジュの家に通うつもりだ。……ちょっと幻滅したろ? マリアと別れた時、俺はレアを愛せると思っていた。愛し愛される夫婦になれると思っていたんだ。だが、現実はうまくいかず、ご覧の通りだ」


「タゥはそれであたしが怒ると思ってるの? タゥが笑いもせずに幸せだって言い張ってたら、そっちの方が怒ってたよ。私はタゥの幸せを祈るって言ったでしょ?」


「……そうか。それにしては怒ってる気配を感じるんだが……、何かあるなら鈍感な俺に教えて欲しい。俺もマリアの幸せを祈った身だ。他の男の話でも、受け入れる」


「じゃあ、言っちゃうけどね。私、アスロのお見舞いに行ってきたんだよ。アスロがしゃかりきになって頑張ってたのは、結局タゥの為だったんでしょ? それで改めて話してみたら、話が弾んでね。来月あばらが治ってからだけど、見合いをする事になったんだ」


「そうなのか。おめでとう。アスロは優しくていいやつだ。……とはいえ、どうしても悔しいな。マリアへの恋情は断ち切ったとはいえ、愛おしい事に変わりはないからな」


 タゥは薄く笑って自嘲した。マリアの幸せを願っておきながら、見合いをすることに反発する自分がいる。これは、独占欲だ。マリアを自分のものにしたい欲求が止められないのである。


「そんなの、こっちだって一緒だよ。タゥ、人間ってそんなに綺麗じゃないんだよ。勿論、私もね」


 それはどういう意味かと聞き返そうとしたとき、膝を進めてマリアがそばへ寄ってきた。


「確かリズもお見合いの予定があったよね。じゃあ、私だけのけ者にされるいわれはないはずだよ」


 ぴったりと横にくっつくマリアに、俺は慌てて声を上げた。


「マリア、今の俺は発情した狼のようなものなんだぞ。気安く男に近づくと、口吸いされてしまうぞ」


「…………いつまで待ってたら、してくれるの? リマとリズに、私は負けてるのかな?」


 初めは、言葉の意味が信じられず、そっと手を握った。握り返してくれたマリアのぬくもりをよすがに、そっと瞳に口付けを落とす。

 嫌がられていないか、入念に気をつけつつ、次は頬に口付けた。そしてお互いに瞳を閉じて、そっとふれあう口吸いをした。次に、ちゅ、ちゅっと音を立てて口吸いをし、ゆっくりと舌を出し、絡め合わせる。そして優しく舌を吸い、ゆっくりと離れた。


「口吸いって、気持ち良いね……」


 唾液に塗れた唇が魅惑的で、タゥは今にも押し倒してしまいそうだった。


「マリア……愛おしみたくなるから、そろそろ離れよう」


「タゥの意地悪。せっかく口吸いして貰ったばっかりなのに、もう離れなきゃいけないの?」


「我が儘なマリアも可愛いな。……かえすがえすも、結婚出来なかったのが悔しいな」


「ねぇ、質問して良い? タゥはレアに対して恨んでるって感じでもないよね。それなのに、なんでうまくいかないの?」


「そこまでレアに関心がないんだ。愛そうと努力しているが、今の所難しい」


「それなのに、今夜はレアを愛おしむんだね。なんかリマの提案はぶっ飛んでるなーって思ってたけど、案外タゥには良いのかもね。タゥだって、愛おしい相手を愛おしみたいでしょう?」


 それはその通り過ぎて、閉口してしまった。

 かわりにマリアのおとがいに手をかけ、一度、二度と口吸いを重ねていく。また舌を絡め合い、唾液を飲み下し、舌を吸う。ゆっくり時間をかけて口吸いを楽しんだ後、マリアの耳元に、熱い息を吹き込んだ。


「マリアは、俺をベッドに誘ってくれないのか?」


 マリアは顔を真っ赤に染めると、繋いでいた手をぎゅっと握って、「……考えとく」と言った。

 その赤くなった頬に口付けしながら、喉で笑いをかみ殺す。最後までするつもりなんてない。こんなの言葉遊びだ。

 しかし最高に楽しいことに疑いはなく、タゥは目一杯の笑顔で言った。


「楽しみにしてるよ、マリア」



 それからしばらくして、謝罪会はお開きとなった。しっかりマリアに謝罪できていないような気がするが、そこはそれ、また来週訪れた時でいいだろう。


 マリアはどうやらリマとリズに対抗意識を燃やしているらしく、同じ頻度での来訪を求めたのである。

 勿論タゥは快諾し、週に会いに行く相手が三人になったというわけである。


 帰り道、サランは言っていた。


「良い顔で笑うようになったな、タゥよ。やはりあの娘達はタゥにとって大事な相手なのだな」


「うむ。凄く大事な相手だ。出来ることなら三年後まで未婚でいて貰いたいもんだ」


「それはこれからのお前次第であろう。まあ、週に一度会いに行くのであれば、忘れ去られる事もあるまい」


 サランはルネーの親達にかなり絞られたはずなのに、タゥの幸せを思って笑ってくれる。こういう時、敵わないなぁ、と思うのである。


 そして中天になり、森に入る刻限がやってきた。

 今日からはキーヤと二人きりのはずだったが、本家から人員補充の伝令が届いて、三人目を待ち受ける事になった。


 北からやってきたその男は、ナッキの家のエンジュ。長兄であり、背も高く、淡い金髪を左右で三つ編みにした美丈夫だ。年は17歳でキーヤと同じ。狩人の腕も確かだという話である。


「ナッキの家のエンジュだ。ウスノロのアスロの代わりに俺様が入るんだ。大船に乗ったつもりでいていいぞ」


 ウスノロのアスロ、というのはアスロに付きまとう蔑称である。小さな頃から大柄でちょいとトロいアスロだったので、悪口も散々言われていたのだ。


 久しぶりに聞いた悪口に一拍遅れたが、「……宜しくお願いする」と声を返した。キーヤも聞かないふりをするようであった。なんせ言っているのはエンジュだけではないのだ。軽口くらい存分に叩いて貰って構わないはずであった。


「それにしてもお前、男前だなぁ。北でもいたぜ、お前と見合いしたいって言ってた奴。わざわざ本家筋に見合いを頼んだってどうせ昔から付き合いのある奴とくっついちまうんだぜって言っても、諦めなかったもんよ。まあ、お前は結婚しちまったわけだが、北でも人気は高いぜ。勿論、族長争いもな。んで、もうちっと背は伸びそうだよな。その髪、何でそんな細かく編み込んでるんだ? せっかくの綺麗な金髪だろう?」


 男前に男前だと言われてしまった。エンジュはタゥより頭半分ほど、大きい。なんだか頼れる兄のような風情だなと感じた。


「俺はこの髪をあまり好きではないんだ。だから朱色の糸で細かく編み込んでいる。エンジュの金髪に文句を付ける気はないので勘弁してもらいたい」


「へーぇ。珍しい奴もいたもんだ。ケラソ族は黒褐色の奴が多いから金髪ってだけで見合い相手が増えるだろう? 皆、黒褐色も悪くないが、たまには金髪の子を抱きたいんだろうぜ。町でも金髪はひときわ人気だしな。お前、娼婦によく声かけられるだろう? 俺もだからな、よく分かるんだ」


「人気がありそうなのに、エンジュはまだ未婚なんだな。ラプカに乗ってきたから既婚者かと思っていた」


 そうキーヤが声をかけると、「そうなんだよ」と軽妙に話し始めた。

 中天はとうにすぎているが、森に入る前に意志疎通が出来るか確認しておきたい。キーヤもタゥも、腰を据えて会話を待ち望んだ。

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