多忙なジャック
タンドリー家当主ゲオルクは捕縛され、事件は落着を見せたが、ジャンガルに協力的であった三家が気にかかる。
追って情報を集めるべし、としたのは、聖騎士の隊長ヨナルドである。
そのおかげでジャックは情報の精査に忙殺されて、道具屋の仕事に戻れなかった。
それを心配して見にきたのがタゥである。
「よっ、ジャック。朝から精が出るな」
「おー、タゥか。じゃあ、一休みすっかな」
ジャックは書類で一杯の机から離れ、タゥのいるテーブルについた。
メイドが紅茶をいれ、お茶請けのクッキーを置く。
「ああ、うまい。疲れた時は甘いもんが一番だな」
「情報は随分集まってるんだろ? 後、何が足りないんだ?」
「決定的な証拠、かな。ジャンガルはリムジン家としてじゃなく、先王の使いとして協力を要請していた。奴が王だったのは本当の事だし、ジャンガルに協力的だっただけでは引っ張れない。何か悪さをしてりゃ楽なんだけどな」
そう言ってクッキーをかじるジャックには、確かに疲れが見えた。
「なるほど、悪い家って訳じゃないのか」
「三つの家の一つには、麻薬売買の疑いがかけられている。これも、証拠がない。それに先日の大捜索網を見て、特に今は動きがねえんだ。麻薬漬けになった娼婦がいたそうだが、既に死んでいる」
「ジャックはタンドリー家の捕り物の時、大活躍したものな。重宝されんのは仕方がないけどさ。道具屋に戻れない程って凄いよな?」
「今は情報屋が本業だ。そう割り切れる程の情報が集まってくるんだ。ちっとは男を見せねえとな」
「じゃあ、ジャック。勿論裏の情報もあるんだろう? お綺麗な聖騎士には出来ない情報の集め方もあるんじゃないか?」
俺がニヤリと笑うと、ジャックも笑った。
「ああ、あるよ。そりゃあそうさ。俺の馴染みの女からの情報で、丁度良いのがある。でも、良いのかよ、タゥ? 特にタゥにとっちゃ関係ない話だろう?」
「俺もアスティ家には世話になってるしさ。それに、ジャックの為には協力を惜しまないぜ。頼ってくれよ、親友」
「ありがとな、タゥ。今日段取り付けとくから、また明日来てくれるか。出来れば一日時間が欲しい」
「了解。ところで隊長は……逢い引きの真っ最中だよな」
「ああ。ジュネが観劇を気に入ったんで、あちこち連れ歩いているそうだ。朝からベッドに入って出てこない日もあるが、今日は外出中だぜ」
「そうか。仲が良くて何よりだな。ジュネの奴、ヨナルドと付き合う為に、恋人と別れたそうだから、ちょっと心配してたんだ」
「何も心配要らねえ位に愛されてるように見えるぜ、ジュネ。ネックレスを買って貰って、嬉しそうにしてたしよ。健気なところが可愛くてたまらないって、聞いた事あるよ」
どうやらジュネの事は心配要らないようである。
タゥは得心すると、紅茶を飲み干した。
「それじゃあ、また明日来るよ。隊長に宜しくな」
ジャックは笑顔で見送ってくれた。
翌日、アスティ家にて。
タゥは真っ青なシャツにグレーのジャケットを着させられ、磨き上げられた。
「行く先はベスティリー家で、25歳の長姉に男娼として買われろ。処女ではないから、思いっきりやっていい。足が少し不自由なだけで、健康だ。報酬はある情報を吐く事だが……期待はしなくて良い。俺も違う家に男娼として行ってくるから、お互い頑張ろうな」
「わかった。頑張ってくるよ」
俺はジャックの用意した馬車に乗り込み、ベスティリー家へ向かった。
大きな屋敷で、庭園も見事なものだ。
タゥは陰気な少女に案内されて、二階の奥のベッドルームに通された。
「姉は足が不自由ですので……、宜しくお願い致します」
ぱたり、とドアは閉められた。
ベッドにいるのは緑色の髪の巻き毛で、茶色の瞳をした令嬢だった。
「やった! 本物のシルベスター卿よ! さぁ、早く私を抱いて頂戴」
「……シルベスターだ。報酬を忘れてくれるなよ?」
「わかっているわ。私はイザベラ。さぁ、楽しませて頂戴」
タゥはイザベラを、優しく抱いた。
二回戦が終わり、一息つく。
「気持ちよかったわぁ……。まだ天井が回ってるみたい……。シルベスター卿の身体って、なんて気持ちが良いのかしら……」
「少し休憩にしないか。もうすぐ昼食だ。まだ時間はたっぷりあるよ」
今日は一晩付き合う予定である。
タゥはベッドから降りてティーテーブルに腰掛けた。
「ええ、そうね。昼食を運ばせるわ」
タゥはイザベラと昼食を食べ、またエッチをして過ごした。
事態が動いたのは、夕方だった。
部屋に、陰気な少女が飛び込んでくる。
「姉さん、ミモザ様がいらしています。肩に、怪我をされていて……」
「なんですって。ベリンダ、ミモザを通しなさい」
「はいっ……」
タゥとイザベラは衣服を身に付け、ミモザを迎え入れた。
「私は、カーネル家のミモザといいます。今日、薬を買いに行く時に狙われて……肩を切りつけられたわ。ねぇイザベラ、あなた、何か知ってるんじゃなくて?」
真っ赤に染まった肩を押さえながら、ミモザは興奮気味に言い放った。
「まず肩の治療をしよう。話はそれからでも遅くないはずだ」
タゥがそう言い、医者が呼ばれた。
治療を施されたミモザは、痛々しい。
その橙色の髪を揺らして、ミモザはイザベラに詰め寄った。
「どうなの? イザベラ。前に薬屋で行き合った事があったわよね。私に、変わった買い方をするのねって言ったのはあなただけだわ」
「そうね、ミモザ。あなたが買っているのは、麻薬よ。気付いていなかったのかしら? 薬屋の裏で取引しているのを見た時から妖しいと思っていたの」
「だってあれは、婚約者のダーツだって、飲んでる茶葉よ。麻薬だなんて、そんな事……」
「では、婚約者も妖しいな。ミモザ、君は命を狙われたんだ。俺はアスティ家に手紙を書いて、聖騎士の派遣を要請する。それまでこの家に留まるんだ」
「はい……。シルベスター卿」
晩餐は、イザベラとミモザとベリンダの四名で食べた。
聖騎士はすぐにやってきて調書を取り、イザベラの家にも人員を配置した。




