マジョリー
美しい流れるような銀髪は、腰まである。
きらめく紫の瞳は大きく、彼を幼く見せていた。
着用しているのは、襟の短いシャツに、大きなリボンだ。
可愛らしい貴族令息の格好であったが、彼には余程ドレスの方が似合うように思えてならなかった。
ヨナルドは、頭ひとつぶん小さい華奢な身体を見て、感嘆の息をついた。
「素晴らしい。どこからどう見ても美少女だ。いっそドレスを着せたいぐらいなんだが……本当に男か?」
二目と見ても美少女にしか見えないその少年は、ジュネである。
タゥは昨夜ハヤタの家に赴き、説得したのだ。
ヨナルドはジュネの前に立つと、そのおとがいに手をかけた。
ジュネの顔を、ヨナルドはじっと見つめる。
「……美しい」
「そんなにじっと見られてると、照れちゃうな。よく間違われるけど、僕は男だよ。なんなら脱ごうか?」
「男なんてけだものの集まりだぞ。そんなに気軽に脱ぐなんて言ってはいけない。いけないんだが……職務上、必要だから、脱いで貰えるか」
「はーい」
一枚ずつ脱いでいき、一糸まとわぬ姿となったジュネは、ふくらみかけの少女のような様相をしていた。
色は真っ白で、華奢である。
そんな中、ぽつりと胸の尖りだけ赤いのが、とんでもなくいやらしかった。
下肢は確かに男性であったが、そこももぎたての果実のようである。
総じて魅力的なジュネに、ヨナルドは唾を飲み込んだ。
「もう、服を着ていいよ。……ジャンガルの好みのど真ん中だ。君は男に犯されても大丈夫かい?」
「わからないけど……ある程度は、覚悟しています。それと、処女のふりをするんだよね?」
「ああ。君なら処女で通る。間違いない!」
ヨナルドは鼻息荒く言い放った。
「彼はケラソ族のジュネ。貴族の方がいいなら、偽名を使おうか?」
「そうか……。ケラソ族に、こんな少女めいた少年がいたんだな。驚いたよ。……そうだな、名前は偽名を使おう。シンギリー家のマジョリーを名乗ってくれ。協力者で、本物の貴族だ」
「ジュネ、シンギリー家のマジョリーって言うんだぞ。わかったか? 俺達が踏み込むまでおよそ二週間あるが、ジャンガルに見初められたら、その、出来るだけ従順にな」
「僕はジャンガルを骨抜きにすればいいんだよね。出来るかわからないけど、やってみるよ」
ジュネは健気に頷いた。
それから三日かけてジュネはテーブルマナーを習得し、四日目にジャックの伝手で売られていった。
「ジュネ……どう無事で……」
そう祈るのはヨナルドである。
彼はどうやら、ジュネに心奪われてしまったようである。
タゥはジャックと顔を合わせ、苦笑するのだった。
売られてから五日目──
ジュネ改めマジョリーは、柔らかなステーキに舌鼓を打っていた。
ここは、タンドリー家の別邸である。
ジャックに言われた通りの場所でさらわれた後、馬車に詰め込まれ、たどり着いた先がこの邸であった。
今の所、全て予定通りにいっている。
貴族は貴族の対応があるらしく、マジョリーはメイド完備の、快適な生活を送っていた。
焼きたてのパンも美味しいが、食べ過ぎるとボロが出る。
なんせ、他の連れて来られた貴族仲間が、ついばむ程しか食べないのだ。
マジョリーは今日もそこそこで食事を終えた。
「トーマス家のリリーはお前だな。ご当主様が夜伽にお呼びだ。ついてこい」
「待って。父は身の代金をいくらでも払うわ。こんなこと、やめて頂戴」
「知らぬ。ついて来ぬなら、無理矢理連れて行くぞ」
「いやっ、やめて……っ、誰か助けて、いやああっ」
剣を下げた男達がやってきて、リリーは無理矢理連れて行かれた。
マジョリーはジャックに、被害者を助けないように言い含められていた。
マジョリーのように納得済みで売られてきた者もいる。
勿論、無関係な者もいるが、区別はつかない。
助けるのではなく、見捨てろと諭されていた。
無論、マジョリーの身だっていつまで無事かわからないのである。
マジョリーの仕事は、ジャンガルをたぶらかす事だ。
マジョリーはじっと期を待つことにした。
七日目、当主の閨に、マジョリーが呼ばれた。
どうしよう、ジャンガルじゃない。
マジョリーは大人しく席を立ったが、内心動揺で一杯だった。
いくつかの角を曲がって、外に出た。
そして、馬車に乗せられる。
もう、こうなったらしょうがない。
行くところまで行くしかないのである。
着いた先は、タンドリー家の本邸だった。
マジョリーを案内するふたりは侍従ではなく、明らかに破落戸といった風情で、華美な屋内で浮いて見えた。
「おい、こいつ……」
「ああ。ジャンガル様好みの美少女じゃねぇか。ご当主様は横取りしちまうおつもりなのかな」
「ちげえねえ。おい、こいつは男だ。やっちまってもばれねぇよ。……なぁ、俺達もちっとはいい目見ようぜ」
「俺達で味見をしちまおうってのか。俺は一目見たときから気に入ってたんだよぉ!」
男達はこそこそと話すと、ある部屋にマジョリーを案内した。
そこは、空き部屋だった。
カチリと、鍵がかけられる音がする。
「ねえ、誰もいないけど、ご当主様って……?」
マジョリーがそのように問いかけると男達は股間を腫らしてにじり寄ってきた。
「ご当主様の前に俺達の相手をして貰おうか!」
「きゃあああ! 僕は処女なんだ! 止めてくれ!」
「いーい事を聞いたなぁ。おい、兄弟。逃がすなよ。手足を抑えろ」
「ねえ、待って、本当にするの……?」
ずるりと、下着ごとトラウザーズが脱がされる。
「い、いやあああ! 誰か、助けてえええ!」
マジョリーは精一杯叫んだ。
手足を抑えつけられ、馬乗りになった男がシャツを破る。
「げっへっへ、誰も来ねぇよぉ。ジャンガル様だって、外出なさってるし、助けは来ないぜぇええ!」
「私がどうかしたか?」
「あ、兄貴! 執事の野郎が密告を……ぎゃあああ!」
「どうした兄弟……ぐわあああああ!」
どさり、と男達は倒れた。
パッと目の前が真っ赤に染まり、マジョリーには、何が何だかわからなかった。
「こ……殺したの?」
「当然だ。私のものに手を出す不埒ものは必要ない。おい、ゲオルクの奴にも厳重注意しておけ。こんな上玉が入荷したならすぐに連絡をすべきだろう」
「返すお言葉もありません」
「……君、名前は?」
「……マジョリー」
「私はジャンガル。君は私のものになるんだよ。怖い思いをさせてすまなかったね」
姿勢の良い、壮年の男性だ。
金髪の巻き毛に、血のような赤い瞳。
匂い立つ血のにおいに、ぞくりとした。




