小さな波乱
「リズから質問でーす! 今回の娼婦はいわゆる豊満なタイプじゃなくて、つるぺたな体型だったでしょ? 豊満な子を買えば良かったと、思いませんでしたかー?」
「体型は好みだからな。俺は満足したし、つるぺたな体型でも十二分に女性らしさを堪能出来た」
「へーえ! そんな男性もいるんですねぇ。それじゃあ例えば、私がお見合いを申し込んでも、喜んでくれますか?」
リズのその言葉に、場は少しざわめいた。
リズは茶色の髪を右に編み込み、背が高く、つるんとした肢体が美しい少女である。
ヤッハは照れた様子で頭をかくと、嬉しそうに破顔した。
「美少女と名高いヤジュの家と見合いが出来るなら願ってもねぇさ。しかし、お前もタゥに夢中だろ?」
「タゥとのお見合いは没になっちゃったし、私は私で、気になる人とお見合いがしたいかな! それに、タゥは、お姉ちゃんの胸をチラチラ見てるしねー」
「ちょっとリズ?!」
「そうなのか。それならこっちも嬉しいよ。ところでタゥは、どうしてそんな辛気くさい顔をしてやがるんだ?」
「あの……この流れで言うのはおかしいかもしれないが、今回の娼婦ソニアから伝言を承っている」
ざわり、と場が揺れた。
ヤッハは目を光らせて、言葉の続きを促した。
「ヤッハを心から愛してしまった為、告白する場を作って欲しいと、ソニアはそのように言っていた」
「俺を……? 俺はソニアの事を、娼婦としてしか扱っておらんぞ」
「どうやら、元から恋情を抱いていたらしい」
「それを聞いても、娼婦は娼婦だ。告白されても、答えは変わらぬと、ソニア自身がわかっていそうなものだが……あいわかった。明後日の朝、この家で会うことにしよう。心配ならタゥも一緒で構わんぞ」
「かたじけない。ソニアはひとりで踏ん切りを付けられないようであるのだ」
「幾度も愛おしんだ相手だ。情くらい持ち合わせている。それで、リズとリマも、同席を希望するか?」
リズはぐっと身を乗り出すと、赤い瞳をきらめかせて発言した。
「はいはーい! 私は同席を希望します! 何たって見合い相手の事だもんねー」
「私はリズだけじゃ心配だから、同席します」
きっぱりとそう言ったリマは、ちらちらとタゥを見ている。
それを見ながらヤッハはひとつ頷くと、鷹揚に切り出した。
「わかった。二人の参席を許そう。じゃあ明後日、この家でな」
リマとリズは嬉しそうに笑って、腰を上げた。
2人が帰っていくのを見送り、戸板を閉めると、腰を上げる者が出始めた。
「じゃあ、俺達も帰らせて貰おう。明後日の顛末は、キリクの連絡網で回されるのであろうか?」
「ああ、そのつもりだ。今日の質疑応答に関しても、このあと伝達を回すつもりだ」
「俺は南の者だが、娼婦の有用性について、若い奴らに正しき道を指し示してくれたように思う。ヤッハに感謝を述べさせて貰いたい」
「だがしかし、明後日の告白のようなやっかいごともついて回っているからな。立ちんぼうはやはり避けたほうが無難なのだろう」
「それにしても娼婦が妊娠しないために、専用の避妊薬を飲んでいようとは、知らなかったぞ。体に悪い薬だと聞くから尚更だ」
「ああ。これは一族の者すべてが知っておくべきであろう」
西から来た男が熱っぽく語らうと、東の男も呼応して頷く。
タゥも本日は大変勉強になったし、ありがたかった。タゥもヤッハに礼を言って、家の外に出た。
「タゥ。ちょっと待ってくれ。明後日の告白だが、一つ条件を付けさせて貰いてぇんだ」
「条件?」
「ああ。例の避妊薬をきちんと飲むこと。ソニアの事は信用してるけど、万一の用心さ」
「わかった。しっかり伝える故、安心してくれ」
「ああ。頼んだぜ」
にかっと歯をこぼして笑った顔は相変わらずごつごつと骨ばった輪郭で、頬はごっそりとこけている。しかし当初感じていた取っ付きにくさも今はなく、結構お喋り好きな御仁に見えた。
家に帰ったタゥは、早速アスティの町に向かった。一刻かけて町にたどり着き、ジャックとソニアに内容を話して、承認をもらう。
ただソニアは、例の避妊薬をまだ飲んでいなかった。
「入手するツテがなかったからさ。今日挨拶周りが終わったら、買わせて貰えるはずだから、明後日は宜しく頼むよ」
「体に悪い薬なんだろう? 飲むのに勇気が要りそうだな」
「たちどころに具合を悪くする類のものじゃないはずだからね。ヤッハの赤ちゃんは欲しかったけれど、これも娼婦の業だね」
ソニアは、少し寂しそうにそう言っていた。
中天になり、森に入る。
いつも通り、キーヤが先行で、タゥとアスロがウスルスを追う役目なのだが、今日は少しだけ波乱が待ち受けていた。
腹を空かしたウスルスに遭遇し、すぐさまキーヤとタゥは、木に登って難を逃れたが、なんとアスロは木に登らず、ウスルスに刀を突きつけたのである。
うまく行けば良かったが、アスロはウスルスに突き飛ばされ、腹を裂いてしまった。
慌てて飛び降りたタゥがウスルスの始末をつけた。キーヤがアスロの容態を見てくれている。
「アスロ! 聞こえるか! 傷は浅いぞ! しっかりしろ!」
「お、俺でも出来ると思ったんだけど……、め、迷惑をかけてごめん」
「傷は少し縫って置いたからな。後はあばらにひびが入ってそうだから、暫く森には入れないぞ」
そう言い渡されると、手持ちの包帯をくるくると腹に巻かれたアスロが、目に見えて意気消沈してしまった。
今日は怪我人を出してしまったため、アスロに手を貸しながら、森の入り口に向かう。
ちょうどよくケラソの家の次姉が出迎えに来ていたので、アスロの件を本家に伝えてもらう。
やがて本家から応援が来て、アスロを家に運び込んでいった。
キーヤと話し合い、まだ日は高かったが今日は解散ということにした。
収穫を分け合い、帰路に着こうとすると、ケラソの家の次姉が走り寄って来た。
「タゥに伝言があります。レアが熱を出したので、本家で預かります、とのことです。かまど仕事は私がかわりに承りますので、ご安心下さいね!」
「承知した。本家の助力を有り難く思う」
次姉は頬を火照らせ、ぺこりと頭を下げてから走り去っていった。




