夜這い男と出産
「北のエネルの家に、夜這いが入ったそうですわ……」
「何?! 夜這いだって?」
それは、暦が4月に入り、レアと晩餐を食べているある夜の事だった。
「夜這いということは、女が襲われたのか。それで、どうした?」
「夜這いは完遂されてしまったので……罰を与えたそうです……。既婚の娘だった為、責任を取らせる事が出来ず……罰金刑と鞭打ちだそうですわ……」
「やられてしまったのか。刑罰が生温いんじゃないのか?」
「それはキリクも懸念していました……。あなた、何か良い罰則を思いつきますか……?」
「男に一晩中舐められ続ける、なんてどうだ? 女好きなら大層嫌がらせになるぞ」
「いっそのこと、やられてしまえば良いんだわ……」
レアは、葉野菜をしゃくしゃく噛みながらそう言った。
「そうか、なら処女喪失も付けよう。族長ラピグゥに、提案するか?」
「どうぞわたくしに……お任せ下さい……。あなたは、手配の方を、頼みますわ……」
「ああ、解ったよ。じゃあ、ジャックに明日相談して来るからな」
そう言ってタゥはステーキを噛みきった。
夜這いに入る男はどんな奴だろう、と思っていたら、思ったより軽薄そうな、線の細い男だった。
レアの提案がスピード可決され、今日はアスティの馬車がこちらに向かっている。
そんな中、夜這い男には罰が告げられた。
泡を食ったのは、夜這い男だ。
「ええ?! 鞭打ちも受けたし罰金も払ったろ?! これ以上罰を受けるいわれはねぇや!」
と言って逃げようとしたので、すぐに取り押さえられた。
タゥも縄で縛り、こっそり尽力する。
「罰が生温いと、多数の意見が届いた。よって、追加の罰を与える。速やかに罰を受けよ」
「ったって、処女喪失ってのはなんかの間違いだろう? なあ!」
「何も間違ってないぞ。せいぜい男達に可愛がって貰え。強姦の罪は重いぞ」
タゥがそう言うと、男はへなへなとうずくまった。
「畜生。こんなはずじゃなかったのに……」
そこに馬車が到着した。
中からむくつけき男が出て来る。
「やあ、カーター。今日は宜しく頼むよ」
「あんたがタゥだな。こちらこそ。その縄で縛られてるのが下手人だな。……おい、運び入れろ」
「はっ!」
男達はそこそこ大きい夜這い男をひょいと担ぎ上げ、運んでいった。
「それで、こっちがキリク。見届け人だ」
「了解した。明日の昼には戻ってくるからな」
「ああ。じゃあ後は宜しく頼んだよ、キリク」
「任されました。しっかり役目を果たしましょう」
そんなわけで、馬車は二人を乗せていき、タゥはお役御免である。
今回、タゥはプロを雇った。
男娼ではなく、折檻専用のプロである。
実力はジャックのお墨付きなので、ちょっと可哀相かもしれない。
値段はそこそこしたが、本家がポンと支払ってくれた。
そして夜が更け、朝が来る。
約束通り昼までに馬車は戻ってきたが、夜這い男は腰が立たず、狩りを休んだという。
キリクが罰の執行を見届けたと、族長ラピグゥに報告し、この件は完了となった。
数日経ち、キリクから詳細が語られた者がぽつぽつと出てくる。
うちのレアも、その一人だった。
「それで、三回目にいってしまった時が、女になった瞬間だったんですって……。それからも夜中折檻は続き、朝になる頃には、良い声で泣いていたそうですわ……」
「泣いちゃったか。それにしても良い仕事するなぁ、カーター。これなら夜這いをしようって奴は現れないだろう」
「そうですわね……。あなたも、次期族長として良い仕事をなさいましたわ……」
この件をきっかけとして、タゥの恐ろしさがケラソ族中に広まっていく。
タゥの人気は、ますます高まっていくのだった。
「タゥ、そんなに心配しなくてもさ、まだ産まれないって」
ここは、マリアの部屋である。
マリアは臨月を迎え、大きなお腹で過ごしている。
「でも、やっぱり心配だ。マリア、真面目に言うんだけど、アスティの家でお世話にならないか? 乳母も世話をするメイドも、もう到着してるんだ」
「王都、って所で育つ事になるんだよね、この子……。私だけがお世話になるのって、心苦しいなぁ。タゥはそっちで私が暮らしてた方が、安心できるんだね?」
「ああ。産婆もいることだし、安心出来る。なんなら、俺が付き添おうか?」
「タゥは狩りがあるでしょ。じゃあ、アスロに相談してみるね」
マリアは、綺麗な笑顔で笑ってくれた。
アスロに相談した結果、マリアはアスティ家へ移動する事になった。
驚いたのは、アスロが付き添いでついていくとのことである。
アスロは後方支援の為、日程の調整がつきやすいとのことだ。
タゥは二人の乗った馬車を見送り、安産を願った。
生まれたと聞いたのは、それから一週間程経ってからだった。
道具屋にて祝報を受け取ったタゥは、すぐさまアスティ家にお邪魔した。
「金髪に青い瞳の、お前に似た男児だ。目一杯マリアを褒めてやれ。陛下も殊の外お喜びだぞ」
ジャックにそう言われていたが、実際に見るまでまるで実感が沸かなかった。
「あっ、タゥ。この子ね、金髪に青い瞳だし、タゥにそっくりなの」
マリアが抱いていたのは、小さな赤ん坊だった。すやすやと寝ていて、愛らしい。
金髪はタゥそっくりの色で、親近感を覚えた。
「ありがとう、マリア……。これで俺も、父親だ……」
タゥは涙を流して喜んだ。
そんなタゥを、マリアとアスロが優しい目で眺めていた。
その一週間後にはリマも無事出産し、タゥは安堵の息を漏らした。




