御披露目パーティー
手紙の返事を書きに、アスティ家に遊びに来ていたタゥである。
いつものようにメイドと遊びながら、手紙を書いていたタゥは、最中に踏み込んできたジャックに、疑問の声を上げた。
「血相変えてどうしたよ、ジャック」
「お前の爺さんから手紙が来た。いくまで待ってやるから、腰振れ、腰」
「わかったからせかすなって。じゃあルチア、一緒にいこうな?」
「はいっ、あっ、あっ、あん、いい、いいです、タゥ様っ、あんっ、あんっ、あああーーーっ」
「気持ち良かったよ、ルチア。またね」
ちゅっと口吸いして離れる。
ルチアは退出していった。
「それで? 俺が生きてる事が爺さんにバレたのか?」
「それは陛下が告げたそうだ。爺さんは秘密を守ると言ってくれてる。ただ、近々会いに来るとは書いてあったな。ほら、読んで見ろ」
爺さんからの手紙は、俺が生きていて嬉しい、という喜びに溢れていた。
ただひとつ気になる事は──
「ジャック、この手紙に、感謝を込めて爵位を贈る、って書いてあるけど、大丈夫か?」
「全然大丈夫じゃない。もう爵位も届いちまってるから取り消しは無理だ。ああー。俺は道具屋で、一緒にやっていける平民の娘が嫁に欲しかったのに……」
「やっぱり、無理なのか?」
「無理だ。貴族の女を娶る必要が出てくる。あー、めんどくせぇ。俺、平民になって生きていくつもりだったのによぉ」
ジャックは重症だ。
タゥは精一杯慰める事にした。
「見合い相手に困らなそうだよな、ジャック」
「そりゃあ俺だもんよ。若い令嬢から熟女まで、何でもござれだ。でも、結婚はまだいいや」
「御披露目パーティーをするのか?」
「ああ。やるしかねぇ。タゥも参加してくれよ」
「ああ。親友の晴れ舞台をこの目で見届けなくちゃな」
そんな会話をしていたのが、二週間前のことである。
タゥはダンスパーティでエルザに会い、ジャックの見合いの件を話していた。
「御披露目の知らせを送った時から、釣り書きが引きも切らず届いてるって話だよ。やっぱりジャックはもてるからなぁ」
「それにしてもおめでたい話ね。あなたもジャックだけが平民に落ちるより、余程安心出来るのではなくて?」
「それはそうなんだけどさ。ジャックは道具屋の主人としてやっていけるかな?」
「やれば出来るわよ。ただ、貴族の奥様は必要になるでしょうね。貴族の妻の仕事は邸の管理よ。労働じゃないわ」
「ふむふむ。前途多難だなぁ、ジャック」
ジャックもこのダンスパーティに参加している。
昔馴染みと踊ると言って消えたが、うまくやってるであろうか。
タゥは曲がかかったので、エルザをダンスに誘い、ダンスホールに踊り出た。
今日も素晴らしいダンスを披露したタゥは、拍手で迎え入れられていた。
周囲に礼をし、その場を後にする。
指先に熱が灯る。
「エルザ……会いたかったよ」
「タゥ……私も会いたかったわ」
休憩室9号に入り、俺達は愛を確かめ合った。
休憩室を出て、ジャックとの待ち合わせ場所へ行く。
ジャックは令嬢と一緒にいた。
どうやらこじれてるようである。
「だから、結婚は出来ないって言ってるだろ。諦めて家へ帰れ」
「ジャックが爵位を貰えるなら、あたしは奥さんになりたいのっ!」
「それ以上言うなら、もうお前とは踊ってやらない」
令嬢はきっとジャックを睨むと、ぷんぷん怒りながら帰って行った。
「大変だな、ジャック」
「おうともよ。爵位があるだけで俺は優良物件だ。ある程度は仕方ないけどさ、皆目の色変わりすぎでビビるわ」
「婚約者が出来るまでは仕方ないでしょうね」
エルザが同情気味にそう言った。
「20歳になるまで結婚は考えたくねぇなぁ」
それは結構難しいんじゃないかと、タゥは思ったが言わずにいた。
三月に暦が変わり、ジャックの御披露目パーティーである。
今日もアスティの馬車に迎えに来てもらったタゥは、馬車の中で着替えていた。
ジャックも勿論ぱりっとした礼服で、馬車に乗っている。
ジャックは招待客のリストを眺めながら、ひとつ、息をついた。
「あのな、タゥの爺さんも今日、来るぞ。先王陛下が御披露目パーティーに来るなんて、ますます箔がついちまうな」
「ジャックの人気はうなぎ登りだ。家格の高い家から見合いが舞い込むかもしれないな」
「恐ろしいこと言うなよ。男爵家あたりが俺には合っているさ」
そうかなぁ。
望めば王族だって手が届きそうに見えるのに、ジャックはあくまで控え目だ。
「それより、爺さんとの対談は、エルザにも秘密だからな。いつでも抜けられるようにしといてくれよ」
「わかった。ジャックも頑張ってな」
俺達は段取りを確認しあい、会場であるアスティ家本邸のダンスホールに、足を踏み入れた。
300名からが集まる様は圧巻で、どこを見てもドレスと紳士の組み合わせだ。
たくさんの人がジャックの為に訪れたかと思うと、俺はどこか誇らしげな気分になった。




