質疑応答
なぜ、こんなに腹が立つのだろうと考える。それはやはり、無理矢理婚礼を行った弊害であろう。今もなお、愛おしき女たちの影は、タゥの中に残されている。
もしかしたらそれを無理矢理忘れさせたレアを、タゥは憎んでいるのだろうか。
だから今夜も、激しく攻め立てて泣かせることに、喜びを感じてしまうのだろうか。
レアは、平時でも幸福だと泣いてばかりだ。
何かあったわけではなく、ただ共にいるだけで涙を流す姿がよく見受けられ、タゥは鼻白んでいた。
なにしろ、会話が続かず、一緒にいてつまらないのである。これは由々しき事態であった。
今夜も、思い切りレアの身体を愛おしみ、嗜虐心を満足させたならば就寝の時刻だ。
タゥは今夜も優しくすることは叶わなかったが、火がついたようにあえぐレアを思い出すと、お互いに深い満足を得ていたようなので、目的は達成したと目するしかなかった。
「今夜も……愛おしんで下さって……ありがとうございました……」
「レアよ。俺達は夫婦だ。敬語は止めないか?」
まだ熱が冷めやらぬままそう言うと、レアはくすくすと笑いながら拒絶してきた。
「わたくしは……生来こんな喋り方であるのです……。ご不快でしょうが、慣れていただきたく思います……」
タゥはまた、理想の夫婦からひとつ外れた気がしてガッカリした。そして乱れた髪を編み直していたレアに背中を向けると、そのまま目をつぶった。
「あら……お休みになってしまいましたか……」
「明日は早くから、ダイの家のヤッハまで会いに行く。お前ももう休め」
「はい……キリクの言っていた娼婦を買ったお人のところですね……」
「ああ。何か不満があろうか?」
「いいえ……。タゥが娼婦を買うことはないと、信じております……」
当たり前のことだったので、「うむ」と短く応じ、背中にレアのたおやかな指を感じて熱い肢体を抱き寄せた。そして口吸いをしてから眠りについた。
俺の思っていた夫婦像と随分違うが、なんとか夫婦としてのあり方は合格点であるように思う。
なんと言っても、床では随分仲良しなのだ。多少荒っぽい所行になってしまっても、レアはたいへん満足しているのだから、妥協すべきではないか。
未だレアを愛せない心は、理想を目指そうと頑張っている。俺は自分の心意気に誇りを持っていた。
そうして夜はふけていき、翌朝のことである。
軽い朝食を済ませたタゥは、身支度をしてダイの家に向かった。
ダイの家は東にあり、予定では半刻ほどだ。
キリクの話では、娼婦を買ったことでヤッハはケラソ族中の有名人になったのだという話だった。今日もタゥの他にも数名集まると聞いているし、なぜか見合いの話まで持ち上がっているらしい。
ソニアの伝言の事もあるし、いい男だったらいいなぁと思いながら、タゥはダイの家を目指した。
やがて到着したのは、一般的な一階建ての家だった。早速名乗りを上げたタゥは中に入って驚いた。今はむくつけき男たちが10人ほど部屋の中に詰めていたのだ。それより驚いたのは、ヤジュの家のリマとリズがいた事だ。もしや見合いかと考えつき、タゥは嫌な気分になった。
「今日は集まってもらってありがとう。俺が呼んだ訳じゃないが、皆の好奇心を満たせれば幸いと思う。俺がダイの家のヤッハだ。年は20歳で未婚だ。以後よろしゅうに」
ダイの家のヤッハは、長身で紫の髪をオールバックにして背中で三つ編みを一本に纏めていた。瞳は金色で、鼻は高く、頬はごっそりとこけている。ごつごつと骨ばった輪郭で、ジャックが強面と言っていたのも理解できるくらい、初見にはとっつきにくそうな御仁だとしか思えなかった。
「早速だが、俺は西の集落のものだ。どうして娼婦なんて買ったんだ?」
「なぜ、か。これはよく聞かれるんだが、人恋しいからだ。それ以外にあるまい?」
「なるほど。ちなみに、いくらだったんだ?」
「俺は立ちんぼうの娼婦を買ったので、参考になるかわからんぞ。処女を一晩好きにして、銀貨12枚だ」
一瞬、場がどよめいた。
銀貨12枚といったら、一番高いウスルスの肉を一頭丸ごと売って銀貨3枚だ。少なくとも4頭分のウスルスの代金を使い果たした事になる。
「俺は東の代表としてきている、既婚者だ。ヤッハよ、なぜ立ちんぼうの娼婦を買ったのだ? 初心者は店に行って買うべしと、誰でも言うことだろう」
「それは、気が合っちまったからだな。そんで、俺の稼ぎで助けられるんならって、同情心も沸いちまった」
「その娼婦を、好きになってしまったって事でしょうか?」
紅二点の参加者より、リマからの質問だ。
「俺は、たった一晩だけだけど、嫁取りとおんなじくらい真剣に愛おしんだよ。相手が娼婦だってわかってるから、好きも嫌いもねぇけどさ」
「それは、好きではなくとも愛おしめると言うことでしょうか?」
「ああ。出来るさ。もしかしてそれは、ケラソの家のタゥに聞いてんのか? 見事な金髪もお綺麗な顔立ちが相まって、鼻につく野郎だな。ほら、かつての見合い相手の質問に答えてやれよ」
「ああ。好きではなくとも愛おしむ事は出来る」
「タゥ……」
リマとリズに会うのは久しぶりだ。2人は赤い瞳をきらめかせて、タゥを見つめている。
「先日は見合いが不発に終わって申し訳なかった。ついては、謝罪会を開きたいのだが、会って貰えるだろうか?」
「もっちろんだよ! ね、お姉ちゃん!」
「で、でも、二人きりで会うのはレアに対して良くないでしょ。付き添い人はサランかな?」
「ああ。そのつもりでいる。じゃあ、明日の朝、家で待っていてくれ」
「うん。いっとくけど、レアを連れてきたら家に入れてあげないからね?」
「ああ。約束する……。ヤッハよ、場を借りて申し訳なかった。感謝する」
「なんとも勇敢な女たちだな。タゥは多難だろうが支える女たちに事欠かんだろう。その輝ける生を全うして貰いたく思うぞ」
ヤッハは褒めてるんだか貶してるんだかわからない口調で、にこやかに言い放った。
「では、ヤッハへの質問に戻らせてもらう。あまりに無粋であろうが……良かったのか?」
「そりゃあもう、最高だったさ。天にも登る気持ちとはああいう現象を指すのであろうな」
「散財した分、ラプカを得るのが遅くなりそうだが、その点についてはどうだ?」
「ラプカを得たいならまず嫁を取る必要がある。減った分を補充する期間は余裕であると思っている」
その後も質問が続いたが、ヤッハは遠慮なく答えていった。
娼婦は有用か否か、熱く議論が交わされる。




