そんな君が好き
暦が12月になり、とうとうダンスパーティーの日がやってきた。
今日は狩りを休んだタゥは、家までアスティ家の馬車に、迎えに来て貰っていた。
「行ってらっしゃいませ、あなた……」
タゥはレアに見送られ、ダンスパーティ会場であるマグナリー家へ向かった。
いつものように馬車の中で身の代を整えながら、タゥは爪を磨かれていた。
髪も解かれて櫛けずられ、タゥの金髪はますますきらめいた。
「よぉ、男前。今日も良い美男子っぷりだな。さて、今日のお相手はアドガスタル家のエルザだ。今日はダンスを三曲踊った後、休憩室を予約してある。せいぜい長くいちゃついてていいぜ」
「ジャックはどうするんだ?」
「俺はダンスとベッドの相手を別々に用意出来たからさ。ダンスが終わったら休憩室へこもるぜ」
「ふふ、やっぱりジャックはもてるんだな。じゃあ、終わったら合流しよう」
その後、段取りを確認し、会場に到着した。
大きなダンスパーティに相応しく、300名程が来場する大きなダンスホールは圧巻だった。
赤い花を胸に差し、待ち合わせのバルコニーに向かう。
そこに、エルザがいた。
長い緑の髪が艶やかな、健康的な美女であった。
眼差しは鋭くこちらを見据えている。
その気の強い金の瞳を、タゥは一目で気に入った。
泣かせたくてぞくぞくしてくる。
「こんばんは、ジャック。良い夜ね。そちらの方が、噂のシルベスター卿かしら?」
「タゥハリス・シルベスターだ。タゥと呼んでくれ」
タゥが自己紹介すると、エルザはタゥの青い瞳を見つめ、うっとりと見とれた。
「エルザ・アドガスタルよ。エルザでいいわ。……私とダンスを踊る為に大枚はたいたそうね。何だか信じられないわ……」
「エルザ、段取り通りに頼むぜ。俺はパートナーが来たから行く。シルベスター卿を宜しくな」
そう言ってジャックは水色のドレスの女と消えた。
「私達も行きましょうか。ダンスの前に腹ごなしはいかが?」
タゥはエルザと共に軽食コーナーにたどり着いた。
赤ワインのソースのかかったローストビーフは絶品であり、タゥは二度おかわりした。
次にアカネの実のソースのかかったミートパイを食べていると、すぐそこで剣呑な声が聞こえてきた。
「アドガスタル家のエルザじゃない。旦那様のお加減は如何? 踊れないダンスパーティーに参席するなんて、虚しいのではなくて?」
「エルザは人恋しいのよ。男娼を買って寂しさを紛らわせる位だもの。きっと金でお相手を用意したのよ。ふふふ、何て浅ましいのかしら」
同年代に見える、女性達である。
どう見てもエルザは馬鹿にされている。
しかしエルザはピンと背筋を伸ばして、言い放った。
「あら、ビアナ家のルーディじゃない。ご機嫌よう。今夜の不倫相手は見つかって? もっとも、貧相な年増じゃあ、相手が寄って来ないでしょうから、男娼でもお買いになったら?」
「なぁんですってぇ!? アンタみたいな浅ましい真似、するもんですか! それで、あんたのパートナーはどちら? 大した事なかったら、鼻で笑ってやるわ! 巨乳だけが取り柄のアバズレ女が、偉そうなのよ!」
「男娼でなくて悪かったな。……シルベスターだ。エルザは文通相手でね。その辺にしといて貰えるとありがたい」
タゥは女性達の前に立ち、真っ直ぐに背を伸ばす。
タゥの秀麗な容姿が、眼前に晒される。
女性達はタゥをうっとりと見つめ、エルザを見ると悔しがった。
エルザと並んで二人、赤い花をつけて、まるで夫婦のように見える。
「噂のシルベスター卿がエルザの文通相手ですってぇ……っ。きぃーっ、悔しい、あんな良い男、どこにもいないわよぉ……」
それで引き下がってくれたので良かった。
女の喧嘩に仲裁に入るのは、荷が重かったので、助かった。
「……あんなの、いつもの事よ。助けてくれなくても、良かったのに」
「俺が我慢ならなかったんだ。ところで、どうかな? 俺と文通してくれる気はある?」
「えっ、本気なの? ……いいわ、文通しましょう。私達、これから恋人同士になるんですもの。そうよね、タゥ?」
そう言って手を差し伸べてきたエルザの手を取り、ホール中央までいく。そして、曲がかかった。
「まだ告白していないのに、せっかちだな、エルザは。男に見せ場を残しておいてくれよ」
苦笑しながらそう言うと、エルザは綺麗にターンを決めながら笑顔を返した。
「私って勝ち気で強気で、可愛らしいところがないの。あなたも、せいぜい困れば良いんだわ!」
可愛らしい事を言う薄紅色の唇も、強気な金色の瞳も肉感的な肢体も、全てが魅力的だ。
タゥは目を細め、ステップを踏みながら、その耳元に息を吹き込んだ。
「そんな君が好きだよ」
瞬時に真っ赤になったエルザはさすがによろけたが、タゥのリードによって事なきを得た。
「へ、平気よ。ちょっとびっくりしただけ。ねぇ、本気で私が好き?」
「ああ、好きだ。その強気な瞳が愛らしくてならないよ。ちょっと口が悪いところも魅力的だ」
「じゃ、じゃあ……。私の事、抱ける?」
思い詰めたエルザの瞳が、タゥを見ていた。
タゥはステップを踏みつつ、エルザを抱く手に力を込める。
「何故、そんな事を聞くんだ。俺達は文通を始めたばかりの間柄で、ベッドにいくまではもっと日数が……」
「駄目よ。そうしたら私、21歳になっちゃうわ。その前に処女を失いたいの。だから、今日来たのよ」
「エルザ、君は……」
「私の勝手な都合につき合わせてごめんなさいね、タゥ。でも、私の恋人ならそれくらい許容してくれなくちゃ嫌だわ」
曲は三曲目に差し掛かり、バラードの曲がかかる。
「処女喪失をして何かやってみたい事でも……?」
「そんなもの、たくさんよ。……夫の容態が良くなくてね。いよいよ、未亡人になりそうなの。お金はたくさんあるから、たくさん男娼を呼んだっていいわね」
「君の好きにすればいいさ。ただ、俺の事も忘れないでくれよ?」
「さぁ、どうかしら。ベッドの中の働きに期待してるわよ、タゥ?」
三曲目の終わり、タゥは掠めるようなキスをして、エルザから離れた。
今日も素晴らしいダンスをした二人は、拍手で迎え入れられた。
「タゥ、こっちよ」
エルザと指を絡め、足早に歩く。
着いた先は、休憩室9号と銘打たれた部屋だった。
部屋に入り、ドアを閉めて鍵をかける。
二人の影が重なり、尚も離れず、ゆらゆらと揺れる。
深い口吸いを二人でしばし楽しんだ。
改めて、部屋を見渡してみる。
豪華なティータイムセットに、ドレッサーがひとつ。ベッドがひとつ。
なんてことだ。
これではすぐにやれてしまうぞ。
タゥはなんてすけべな部屋なんだろうと思った。
不意にエルザがしゃがみ、腰のトラウザーズに手をかけた。
下着ごと引き下ろされ、口を付けられる。
「くっ……。エルザ、急がなくても俺は逃げない。立ったままじゃなくて、ベッドに座らないか? はぁ、いい……」
「んっ……。ここはその気になったようだけど、あなた自身はどう? 早くその気になって頂戴」
タゥはエルザを抱きかかえ、ベッドへ放った。
頭をかき乱し、シャツを脱ぐ。
「男をからかいすぎだ。ちょっとお仕置きが必要のようだな。……ふふふ、男の裸は初めてではないんだろう? 堪能してくれ」
タゥはそう言って、エルザの青色のドレスに手をかけた。




