青写真
ガイアの何処に降り立つか
やはり大勢の宇宙人が行き交う所がいい
人類の交差点、世界線が集う場所
よし、ここに決めた
ケルト人と呼ばれる民族が住む地域
アルの初めての単独で行くガイア
全て自分ひとりで手配をする
ポータルまではDPにお願いしようっと
ブループリントを作成しながら、呟いた
ネリシアの悲劇以来、地殻変動が起こり天変地異が続き、再び氷河期だったガイア
地表がようやく安定して、人類が存在できるようになり、また文明社会が生まれてきていた
まずは、視察がてらガイア観光でもするか
宇宙連合の任務として行くのではないのだから、いち民間人として楽しんじゃおう、とアルはニヤけた
ケルト人は陽気で歌やダンスが好きらしい
酒、という飲み物も飲んでみたい
自分に何ができるのか
どうすれば平和な世界を保てるのか
まったくの手探り状態
失敗ばかりだったこれまでの経験を踏まえて、さらに経験を積むしかない
ケルト民族の周囲には他民族が共存して争いが絶えない
実際にそこに身を置いて、体験する
実地調査をして試行錯誤するのが一番だ
現場で学ぶこと
自分が体験しなければ、何も理解できない
人の痛みは、わからない
成人女性、健康体、家族無しの条件を設定して、大まかな生涯設計を決める
初めての単独行動でもあるので、滞在期間は短めにする
経験する項目ごとに目的と理由を記入
短期滞在なので、ウォークインで申請する
転生で申請して命の誕生からスタートするのは時間がかかるし、通常家族有りの設定になる
今回は様子見で、今まで通りのスピリット中途入れ替え方法にする
これまでは連合に手配をしてもらっていたから、手間がかからなかったんだなと、アルは思った
ターガは元気にしてるかな…
少ししんみりとした気持ちになる
いや、頼りっぱなしじゃ成長しない
ひとりで行くと決めたのだから
民間のボランティア団体に、完成したブループリントを一通り見直しをして送った
しばらくして、ボランティア団体から返答の連絡が来た
申請許可が下りて、ウォークインする個体も見つかったという知らせだった
現地にてスピリット入れ替えをするということだ
連合では先に入れ替えをすませてから入国していたので、これもアルにとって初めての試みだった
“帰りも迎えに来る”
月のポータルまで送ってくれたDPがぶっきらぼうに言う
言い方は荒々しいけれど、いつも優しい
ありがとう、すぐ戻るから
ライトボディのままのアルが返事をする
行ってこい、とDPは旋回すると飛んでいった
ガイアまでは小型宇宙船で行き、そこから行き先別に枝分かれしたポータルで移動する
えーと、ポータルの行き先は、ストーンヘンジ…と
最後のポータルを抜けると、ガイアの地表に到着した
大きな石を並べただけの簡素なポータル
手つかずの自然が見渡す限り広がる
原始的な文明社会
ネリシアやカドラータとは全然違う未発達な世界
また、やり直しだ
振り出しに戻ったガイアで、再スタート
久しぶりに見るガイアの美しい青空を見上げると、アルは行動を開始した
現地時間正午に地図にある酒場にて個体と接触…
太陽の位置からして、もうすぐ正午だ
指定された場所へは、ライトボディなのですぐに行ける
騒がしい
大声で歌い踊る人々、皆片手に飲み物を持ってご機嫌な様子だ
人目につかないように、小さな鳥の姿で指定された場所の上空で待機するアル
太陽がアルの真上に来た時、真下にいる女性が豪快に飲み物を一気に飲み干し、その場でぶっ倒れた
あれだ…!
体から離れていくスピリットと入れ替わり、素早く女性の体に入る
何これ…
酷い頭痛と吐き気、言うことを聞かない手足
何とか目を開けると、世界が回っている
周りの人たちが覗き込んでいる
リーシャ!リーシャ!大丈夫か?
吐きそうになるのをこらえて、体を起こすリーシャ(アル)
あぁ……だい…じょう…
ブワーッと吐き戻して、またぶっ倒れた
やれやれ、と周りの者が元に戻る
意識が遠のいて、眠り込んだ
ウォークインは、体に馴染むまで負担がかかる
しばらく動けなかったリーシャが目を覚ますと、辺りはすっかり暗くなっていた
ガヤガヤと周囲の音や声が耳に入る
ゆっくり目を開ける
酒場の隅の方で横たわっている
無茶な飲み方するからだよ、と酒場の主らしい老人が声をかけてきた
ヨロヨロと起き上がって、椅子に座ると
飲み直す、とリーシャ
一杯だけにしときな、と飲み物を出す主
琥珀色というより、黄金色をしている
蜂蜜を発酵させて水で薄めたアルコール
口に流し込むと、鼻から抜ける何とも言えない芳醇な香りがする
これが、酒か…と顔をしかめながら呟くと、主が怪訝な顔で、大丈夫か?と言った
ガンガンする頭で、記憶を辿ろうとするがボンヤリしてはっきりしない
どうやら、目の前の老人は酒場の主ではない、雇われマスターで…
すぐ隣で飲んでいる中年男性の集まりは常連客…?
リーシャも常連で大酒飲み、男勝りの腕が立つ女性…
ダメだ、フラフラする
とりあえず今は探るのはあきらめて酒を楽しもう…