ご飯の後は歯を磨く
「ご飯を食べたあとは、必ず歯を磨いてるんだけど、何か黒いところがあるから見てくれないか?」
歯科医をしている私のところに、幼馴染みの友人からメッセージが届いた。この男、初めてうちの医院に来るまで、ろくに歯を磨いたことがないのに、虫歯がなかったらしい。まれにいるそういう人は、口の中の常在菌に虫歯菌がいないのだろう。
ところが高校生の時、突然歯が痛いと言い出し、まだ私が継ぐ前の親父の医院にやって来たのだ。
「あー、これは虫歯だね。ちゃんとご飯の後、歯磨きしてる?」
「いえ、子供の頃からうがいくらいしかしていません。子供の頃は甘いものを食べても虫歯にならなかったのに、何でだろう」
「体質が変わることもあるから、ご飯のあとは、必ず歯磨きをするようにしてください」
「わかりました」
そんなこんなで、たまにうちの医院に通ってくる。
年月が流れ、私が親から医院を引き継いだ。そしてあのメッセージだ。
「今回も虫歯か?」
「ちゃんと歯磨きしてるんだよな?」
「勿論! 言われた通り、ご飯のあとは必ず磨いているよ」
それにしては、歯石のような汚れがある。普段の磨きかたが甘いのだろうか? 指導をしても改善されないのは、何故だろう?
「普段、酸味の強いものとか、甘いものを良く食べるのか?」
「そんなことはないぞ」
「普段なに食べてる?」
「麺類が好きで、饂飩、蕎麦、拉麺、パスタ、何でも食べるぞ」
「そうか」
甘いものや酸味の強い果物を好んでいるわけでもなさそうだ。
「歯磨きの徹底と、外出先とかで磨けない場合は、しっかりうがいをするようにしてくれ」
「外出先はうがいで良いのか!? 歯ブラシ持ち歩いてトイレで磨いてたよ」
え、それでこれ?
「だって、人と食事をするときは、直前まで何食べるかわからないだろ?」
「まあ、そうだな。それで?」
「だから、ご飯食べることになったら困るじゃないか」
「???…………ちょっと待て、もしかして、米を食った時だけ磨いてたのか?」
「そう言われたからな」
「米食後ではなく、どんな食事でも、食後に歯磨きしてくれ」
「そうなのか?」
「そうなんだよ」
トンチかー!
私は心の中で叫んだ。