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星月夜の下で

「ヴンダー、止まって! 今日はここまでにしよう」


 三人を乗せ、平原を駆けていたヴンダーはシュテルの声で足を止めた。


「で、でもシュテルさんっ 急がないとおねえちゃんが――」


「うん。でもアシュティンも言ったけど、どれだけ急いでもゲルプ国なんて今日明日で着ける距離じゃないんだよ。気持ちはわかるけど休まないわけにはいかない――でしょ?」


 シュテルは焦るヴェルメに諭すように聞かせている。


 確かにもうすぐ夜になる。

 ヴンダーは三人が背から降りたのを確認してから変化を解いた。

 アシュティンも異論はないようで何も言わずに辺りで野営の準備を始める。


 リーベが災魔にさらわれてから最初の一日。

 彼女を助けると決めてから、ほぼ止まることなくゲルプ国へ向かって駆けていた。

 ヴンダーはまだまだ平気だったし夜であろうと問題ではないが他の皆はそうはいかない。


 変化すればヴンダーなら数人、乗せることはできる。

 とはいえ、やはり乗った人間を背の上でゆったり休ませることができるほど快適性は高くない。


 実際、長時間の移動で皆――特にヴェルメには疲労の色が濃く見られる。

 シュテルの言う通り、足を止めての休息は必要だった。


「明日の朝に出発しよ。その時はヴンダー、ごめんねだけどまたお願いね」


 シュテルの言葉に一つ吠えて返事をする。


「とりあえずメシにしようぜ。今、用意するから待っててくれ」


「……私、おなかすいてない」


「昼時もそう言って食べようとしなかったろ? ――そんなわけねえよ。いいか、ヴェルメ――絶対にリーベを助け出すぞ。その為には食うもん食ってしっかり休まないとダメだ。腹が減ってないなんて、気分に騙されてる場合じゃないんだぜ?」


 アシュティンは語気を強めて落ちこんでいるヴェルメを励ます。


「そうだね、ヴェルメ。……アシュティンにしてはいいこと言うじゃんって私も思ったよ」


「褒めるなら素直に褒めてくれよ……」


 しばらく黙っていたヴェルメはやがて小さくコクリと頷いた。

 その顔は申し訳なさそうに俯いている。


 これからリーベを助けに行くというのに自分だけが落ちこんで皆に気を使わせてしまっている。

 このままではよくないと恐らく彼女自身が一番考えているのだろう。


 とはいえ仕方のない話だ。

 リーベとヴェルメ。二人にとって互いの存在がどれだけ大事かは見ているだけでよくわかる。

 妹であるヴェルメを誰よりも傍で守ってきたであろうリーベ。


 これまで当然のように身近にいてくれた存在がいない。

 9歳の幼い少女が感じる心細さを責めることなど誰にもできるはずがなかった。


「……まあ、とにかく一息入れよ。私もお腹すいちゃった」


 シュテルに促され、一行は休息をとることにした。


***


 すっかり日が落ち、辺りは暗闇に包まれていた。

 わずかに吹いた風で揺れる草木とパチパチと弾ける焚き火の音のみが静寂を破る。


 その中で一行は火を囲み、肉入りのスープを食べていた。

 ヴンダーは食べ終わった後も未練がましく空になった皿を舐め続けている。


「…………んー」


 シュテルが何やら考えこんでいる。

 実は彼女のこの様子はリーベが連れ去られてからずっと続いている。

 食事中もスープを一口飲む度に難しい顔をして唸っていた。


「大丈夫か、シュテル?」


「え……ああ、ごめん。ただ、あの災魔とどう戦うべきだろうって考えてて」


 もちろんシャトゥンのことだろう。

 確かにリーベを救うと意気込んだはいいものの、何か策があるというわけではない。


 リーベをさらってすぐに退いたのもあり、敵の力量を見極めることもできなかった。


 それでも目を合わせただけで一行を戦慄させ、ヴンダーの攻撃を容易くいなしたあの男の危険さは全員が十分に感じ取っている。


 災魔というこれまで以上の脅威に対して正面から立ち向かっていいものかとシュテルは懸念を抱いていた。


「そりゃあ何か作戦が浮かべば、ただ無策で突っ込むよりはそっちがいいとは思うけど……さすがに今、考えつくなんて無理だろ?」


 アシュティンが確認するようにシュテルに問う。

 実際の所、彼の言うとおりではある。


 なにせ災魔と相対したのは全員、今回が初めてなのだ。

 まして呪いという多様な特殊性を扱う種族。

 ほぼ未知でしかない相手への対策など立てようがないのが現実だった。


「ま、そうだね。……どうにかする方法は現地で見つけるしかなさそうかな」


 シュテルは考えるのは諦めたと息を吐いた。


「……あの、シュテルさん。災魔ってなんなんでしょうか? 私、すごく強い力を持った魔族だってことしか知らなくて……」


 ヴェルメの質問にヴンダーは耳を立てる。


「……災魔は……人類に災いをもたらした最初の存在。人に苦悶と死を与えることに至上の喜びを見出す異常悦楽者」


 シュテルはポツポツと自分の知る話を思い出すように語り出した。


「最初の、存在……?」


「災魔は……魔王もだけど。あいつらに関してわかってることってほとんどないみたいなんだ。確かなのは人に対して明確な悪意を持ってることだけ」


 それはヴンダーの目からも明らかだった。

 これまで出会った魔族は人間をどれも都合の良い玩具かエサとしてしか見ていなかった。


()()()()ーーだったよな。魔族の中でも特に強い力を持った奴らのことをそう呼ぶんだって兄貴から聞いたことがあるよ」


 特に強い力を持つ魔族を災魔と呼ぶ。

 つまり今まで倒してきた魔族は雑兵で、そのリーダーがシャトゥンということになるわけだが。

 

 ヴンダーは今のアシュティンの言葉を頭の中で繰り返していた。


 アシュティンは十の災魔と言った。

 十の……つまり、それは。


「災魔って……十人、いるのっ?」


 ヴンダーが思わず認めるのを避けようとした答えをヴェルメが確認する。


「元々はな。ただ兄貴達が倒した災魔もいるから今は減ってるはずだぜ。……まあ何人の災魔が生き残ってるのか、正確なことはわからないけど」


 シュテルがコクリと頷き、アシュティンの話を肯定する。


「でも"魔族の中でも強い力を持つ"って言い方は正しくないかも。そもそも、()()()()()()()()って災魔だけなんだよ」


"……?"


 どういう意味かとヴンダーは疑問に思ったが、シュテルの妙な言い回しに困惑したのは他の二人も同じらしい。

 互いの顔を見合わせ、シュテルの言葉の続きを待つ。


「……ごめん。適切な言葉が浮かばなくって変な言い方しちゃった。えっと、つまり……魔族は魔物を生み出せるのは知ってる? それと同じで災魔は魔族を生み出せるの」


「なんだって!? じゃあ、アンデルやネストもそうなのかっ?」


「シャトゥンの部下だって本人達が名乗ってたんでしょ? なら全員、あいつの手で作り出された魔族ってことになるね」


「あの……じゃあ、おねえちゃんのあの呪いは、もしかして……」


「災魔の部下の魔族っていうのは災魔から分けた分身。部下が使う力は災魔の力の一部って考えていいと思う。そして……もし呪いをかけた部下が死んだ時は――」


 呪いが解ける――のではなく、災魔自身に呪いの権限が戻るだけ。


「"倒したからこそ”ってのはそういうことかよ……あ、けどアンデルを倒した時、グリューン国にかけられてた呪いは確かに解けてたんだぞ?」


「違うでしょ。グリューン国の呪いはペンダントの力で消したって話でしょ? 国の呪いが解けたのはあくまでヴェルメのおかげで魔族を倒したタイミングとは関係ないよ」


「あ……そ、そうだったな」


「それに多分、呪いの発動にも距離があるんじゃないかな。実際、今まで何でもなかったはずのリーベが突然、呪いにかかったでしょ? あれはきっとシャトゥンが私達に接触する為に近くまで来てたからなんだよ」


 グリューン国の住民達を蝕んでいたものとは別種の呪い。

 あの時アンデルを倒したことでその呪いの権能は消えるのではなく、源であるシャトゥンへと戻った。

 そしてグリューン国から今までリーベの中で根付いて息を潜めていたということなのか。


 厄介すぎんだろ……とアシュティンは頭を抱えている。

 確かに恐ろしい――刺客がただ仕向けられただけというならまだ救いはあるのに。

 上司とその部下という敵の関係性が、まさかそんな酷く性質の悪い仕組みを抱えていたとは。


 ヴンダーは考える。


 ……災魔は魔族を作り出せる。

 ヴェルメの村やグリューン国を襲った魔族が魔物を生み出していたのは実際、目にしたことがある。


 例えばエストは自分の血を振り撒くことで一度に数十匹も魔物を作っていた。

 災魔はアレと同じように魔族を作れるっていうの……?


「魔物と同じレベルの手間暇で魔族を作れるかまではわからない。でもそんなことが出来るなら魔族は今頃、辺りに氾濫してるだろうし……そうなってないところを見るにそこまで簡単ではないのかもね」


 ヴンダーの疑問をたまたまシュテルが答える形になる。


 そうかもしれない。

 シャトゥンは部下はみんな死んだと言っていたし、あんな強い力を持った魔族達を無尽蔵に作れるなんていくらなんでも思いたくない。


「つまり……災魔じゃない魔族は全部、災魔自身が作ったものでーー純粋なオリジナルの魔族は災魔だけってことか?」


 オリジナルかどうかも定かじゃないけどと、シュテルは答える。


 ……最初の存在というのはそういうことか。

 正体だとかそういうことはひとまず置いておいて、"魔"という存在を人間に認知させた最初の魔性達。


「あいつらーー特に災魔についてはホントにハッキリしてないみたい。魔王が災魔を生み出したって話もあれば、逆に災魔が魔王を誕生させたって話もあるみたいだから……」


「……何もわからないってことか。ーーそういやシュテルはなんでそんな話を知ってるんだ? 村からほとんど出てなかったんだろ?」


「私の知識はほとんど、おじいちゃんーーああ、村長だけど。あの人の家に置いてあった本が元だよ。本ならなんでも置いてあったの。だから少し偏ったところはあるかもだけどね」


「お前のおじいちゃん、すごいんだな……」


「本を書いたのはマーギアの村を創設した人らしいよ。おじいちゃんはその人の書いた本を保管してただけ」


「マーギアの村を作った人、ですか?」


「うん。レアスって名前の凄腕の魔法使いなんだって。私は会ったことないし、そもそも生きてるかどうかもわからないらしいけど」


 シュテルはつまらなそうな顔でそう説明した。

 本は好きでも書き手に興味はないということだろうか。


「さ、そろそろ寝よ。早くに出発して、少しでも距離を稼がなくっちゃね」


 全員がその言葉に賛同した後、アシュティンが小屋から持ってきた毛布をヴェルメとシュテルに手渡す。


「アシュティンさんのは?」


「二枚しか持ってこれなかったんだ。別に俺は問題ないから二人とヴンダーで使ってくれ」


 そうして各々寝支度を整え、横になった。



***



 寝静まった夜、ヴェルメがふと目を覚ます。


(……あんまり眠れないな)


 疲労はあるはずだが、姉のことを考えるとどうしても落ち着いて休むことができない。


(! あれ……シュテルさん?)


 辺りを見回す。

 玉石が三つ、焚き火を中心に三角形を描くように地面に置かれている。


 その玉石はボンヤリと光りを発し、休む皆を囲う形で薄い膜の光を作り出している。


 シュテルが魔法で作った防壁で害意を持つモノは近寄れないらしい。


 しかしそのシュテルの姿がない。


 どこかと探してみるとすぐに見つかった。

 少し離れた所でシュテルは夜空を見上げていた。


「シュテルさん……」

 

「あれ、ヴェルメ。眠れないの? ちゃんと休まないと明日が辛いのにーーって私も他人のこと言えないね」


 シュテルはまいったまいったと照れ臭そうに頭をかいている。


「もしかして、星を見てたんですか?」


 シュテルが見上げる夜空には弱々しくまばらだが確かな光を放っている。


「うん。星が出てるのを見たら我慢できなくなっちゃってさ。つい起き抜けしちゃった……へへ」


 その顔はニマニマとして、喜びの感情が前面に現れている。


 どこか可愛らしいそんな様子を見て、不安に包まれていたヴェルメの心がわずかに和む。


「本当に星が好きなんですね」


「うん。ちょー好き。夜は嫌いだけど星が出てる夜空を眺めるのは……こればっかりはやめられないんだよね」


 逆に星が出てない夜は最低の気分だけど、と憎たらしそうに空を睨みながら話す。


「ってことで私を気にする必要はないから、寝てなよ。満足したら私も寝るからさ」


「あ、はい。ただ、その……一つだけ」


「うん?」


「ーー私たちと一緒に来てくれて、本当にありがとうございますっ それから……本当にごめんなさい。一緒になってすぐに、こんな危ないことになって……」


「ーーーー」


 深々と申し訳なさそうに頭を下げるヴェルメを見てシュテルは目を丸くしている。

 彼女からするとこの期に及んでそんなことを謝られるとは思っていなかったらしい。


「……ヴェルメって、びっくりなレベルでいい子だね。ホントに9歳? アシュティンが同じ年頃だった時はもっとアホだったよ。私だってそんなお行儀の良さはなかったなぁ」


「いい子でいるのは……よくないことですか?」


「そんなことないって言いたいけど……無理してるかどうかにもよるかな」


「……昔、おねえちゃんにも似たことを言われました。そんなに他人を優先しようとする必要ない――無理しなくてもいいんだ……って」


「リーベが?」


「……よく、わからないです。私、"いい子”なんですか? 無理をしてるんでしょうか? 確かに悪いことをする人にはなりたくないって思ってます。でもただ悪いことをしないのが"いい子”と言うなら、そんなのは……別になんでもないことのはずでしょう?」


 正しくあれと誰かに強要されてるわけではない。

 ただ少女が思い描く人間像を自身に反映させてきただけ。

 それは別に高望みの理想形というわけではないはずだ。


 周りの人達と同じ条件で生きることのできる自分になりたい。

 ヴェルメは常にそう考えて生きてきた。


 なのに周りは、頑張りすぎじゃないか。そんなに無理しなくていいと少女に言い聞かせる。

 彼女にとってそれは苦しいことだった。


 だって無理なんてしてないのに。


 自分の振る舞いは何か間違えているのか。相手を困らせているのか。

 自分で選んだ選択が他人にとって無理してると映るのは幼い少女にとってはどうしても好ましいものでなかった。


「私は、無理なんてしてない……無理をしてるのは、どう見たっておねえちゃんなのに」


 そうポツリと漏らす。

 大切な姉に対して口にする初めての不満だった。


「……そっか」


「……ごめんなさい。シュテルさんにこんな話……」


「ん? 別にいいよ。関係性が薄い相手だからこそ言えることもあるでしょ。それはそれで役得かなって思うし――」


 そう言うとシュテルは星を見るのをやめて、ヴェルメの近くに寄った。


「まあ、ヴェルメは可愛いからね。甘やかしたくなる気持ちはわからなくもないよ」


 柔らかな手が少女の頭を優しく撫でる。


「……そんなの変です。みんなが一生懸命なのに私だけがそんなことされていいわけ、ない」


「子供の特権ってやつだと思うんだけどなぁ。でもヴェルメはそれがイヤなんだね」


「……」


 大人扱いしてほしいとまでは言わない。

 でも自分を傷つけてまで過保護になるくらいなら、そんな子供扱いの仕方はしてほしくなかった。


「んー……じゃあさ。リーベにそう言えばいいんじゃない? もしくはそうだなぁ……直接口にしにくいなら行動で示してみるとか」


「行動で……?」


「要は自分もやれるんだぞ! ってわかってほしいわけでしょ? なら例えばーーヴェルメがシャトゥンをやっつけるとか?」


「えっ……そ、それは私なんかじゃ……」


「……は、冗談だから真に受けなくていいとして。その方法はヴェルメが考えなよ。まあ、そんなに悩まなくても彼女、妹のあなたの気持ちはわかってそうだけどね」


「……どうしてそう思うんですか?」


「だって、あなたがリーベのことをよくわかってるみたいだから。その逆だって全然あるでしょ」


「……」


 考えこむヴェルメの頭をポンポンと叩きながら、元気だしなよと励ます。


「リーベ、助けてあげよ。巻き込んでごめんって、さっきヴェルメは謝ったけどさ。私にも彼女を助けたい理由はあるんだよね」


「え?」


「私をあの森から出るよう最初に言ったのはリーベだもん。そのキッカケをくれた彼女がさ……まだロクにお話もしてないうちに死んじゃいましたーーなんて納得できないよ」


「シュテルさん……」


「安心して。私達なら、きっと出来る。今夜、星を見れたのは私にとって最高の吉兆なんだからっ 知ってる? トマリ様に教えてもらったんだけど、こういうの"ゲンを担ぐ"って言うんだって」


「吉兆……星を見れたから?」


「そ。だから明日の運勢はきっと最高のはずだよ」


「明日……ゲルプには、明日着きますか?」


 その問いにシュテルは、あ……と気まずそうに漏らした。


「あー……まだ距離あるしね。明日は無理だね」


「でも、じゃあ……明日は星が見れないかも」


「いいんだよ。一回見ちゃえばこっちのもんだ。見つけたラッキーは次の挑戦まで引き継いでおかなきゃ」


「でも、それなんか……ちょっとずるくないですか?」


「まあ、固いこと言わずにさ。気持ちいい未来(さき)に繋げられるなら都合の良い考えも悪くないと思うよ?」



***



 シュテルとの話を終え、ヴェルメは自分の寝床に戻った。

 傍で寝ていたヴンダーが顔を上げ、ヴェルメの顔を心配そうに見つめている。


「起こしちゃって、ごめんね。もう寝るから大丈夫」


 ヴンダーは毛布を掛けて横になったヴェルメに改めて自分の体を寄せ直して眠りについた。


「くす……」


 ヴェルメは愛しむようにヴンダーの頭を優しく撫でる。


(……私なんかが言えることじゃ、ないのに)


 ヴェルメは考える。


 わかってる。私は小さくて弱くて、たよりない。

 いつだって誰かの後ろにかくれてた。おねえちゃんに守られてた。

 そんな自分がみんなと同じように見て! だなんて、きっとおこがましいのだ。


 でもこれは私が原因の旅だ。

 私を守ろうと、みんなが必死になって傷ついてる。

 おねえちゃんがさらわれたのだって私が巻きこんだようなものだ。


(私に……何ができるんだろう)


 何をするべきなんだろう。


 ……きっと今、私はむずかしいことを考えてる。

 頭がいいわけでもないのに。


 もし他の人に今の私の心を見られたら、変なのってバカにされるくらい、おかしなことを考えてるのかもしれない。


 それでも答えを出したい。

 私を守って傷つくことを良しとする人達に、ほんの少しでも報いられるなら。


「ヴンダー……私も、おねえちゃんを助けられるかな……みんなの手伝いが、できるかな……」


"……"


 ……さっきは眠れなかったのに今は眠くなってきた。

 シュテルさんに話を聞いてもらったおかげかな。


 それにヴンダー……この子はいつも私に寄り添ってくれる。

 この子に触れてると不安な気持ちも落ち着いていくような気がする。


 ヴンダーが傍にいてくれたら、私も一緒に立ち向かえるかな。


 ヴンダーもアシュティンさんも、シュテルさんもいる。

 みんながいれば私にも勇気を出せる余地があるかもしれない。


 ヴンダーの背中を撫でていた小さな手はやがて眠気に負けて力が抜けていく。


「勇気を、分けて……ヴンダー……おねえちゃんを、助ける……わた、しも……いっしょ…………に」


 おかあさんやおとうさんの時みたいにおねえちゃんまで失うなんて耐えられない。


 だから絶対におねえちゃんを助ける。

 待ってて、おねえちゃん。


 いくら怖がりで小さくて弱い私でも絶対に諦められないことはある。


 例えすごくおそろしい魔王でも災魔でも、それを壊すのを黙って認めたりなんてしない。


 待ってて、おねえちゃんーー私もがんばるから。



 待ってて。

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