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星よ、この指にとまれ

◇ ◇ ◇


「彼の名前は早紀川泊(さきがわとまり)――君と同じくボクが他の“花”から招いた客人だ」


 雪は女の言葉をゆっくりと頭の中に染みこませていく。


 他の“花”から招いた客人。

 自分と同じように元の世界で命を落とし、この白い部屋にやって来て、この女によってあの異世界に飛ばされた?


 ヴェルメ達が度々、口にしていた“トマリ様”が自分と同じ立場の人間だったなんて――


“その人……その人は今、どこに――っ!”


 そう言いかけて雪はハッとした。

 女は薄く微笑んだ表情を崩さず当然の答えを返す。


「彼は勇者と共に魔王討伐に赴き――そして、彼らは誰一人帰ってくることはなかった。これが答えになっているんじゃないかな」


“……”


 そうだった。

 同じ境遇の仲間を見つけた気で思わず興奮してしまったが、そこの答えは最初から出てしまっていたのだった。


「彼らは生死を賭けた戦いに負けた。結果、あの世界の今の惨状に繋がったわけだから、もうその事実が揺らぐことはないね」


“……そんな言い方はやめて”


「怒ったの? ――ああ、ボクがトマリの評価を下げたような言葉を使ったのが気に障ったのかな? だとしても別に君が怒る道理はないと思うけど……」


 確かにトマリがどんな人間かなんて全くわからない。

 自分にとっては会ったことも見たこともない故人だ。

 ただヴェルメ達の思い出話を少し聞きかじっただけでしかない。

 そんな人物のことで腹を立てるのはおかしいのかもしれない。


 でも、どうしてか苛立ちが抑えられない。

 この女がその人に見下げるようなことを言うのは酷く許せない気持ちだった。


「不思議なくらい怒ってるみたいだから少し弁明しておくけど、ボクはトマリの評価を下げてなんかいないよ。失敗に終わってしまったのは確かに残念ではあったけれどね」


 女は惜しむような口調で話す。

 この女にしては珍しく感情がこもっているように見える。


「実際、彼の功績は素晴らしかった。世界を救う役割もあとわずかだったんだ。あんな結果になってしまったのはボクとしても口惜しいものだよ」


 確かにそれはとても残念ではある。

 あの世界の人間はもちろん、きっと誰よりもトマリ自身が無念でならなかっただろう。


「彼に会いたいかい、雪?」


 こっちの感情を理解した上で訊いている。

 微笑みを浮かべながらこちらを見る女に若干の嫌悪感を抱きながらも雪は素直に答える。


“……でも、もういないんでしょ"


「そうだね。とても優しく、勇敢で、でもどこか危うさもあるーーああ、思えば彼は君に似ていたかもしれないね」


 会わせたら確かに面白かったかも、と女はもういない知己に思いを馳せるように目を閉じながら口にした。


「静穏で心優しい彼に会うことは残念ながらもう叶わない。だから君の境遇と心境を共有することもできない。この時点で君から見る彼の価値はほとんどないとボクは思うけどーー」


 それでも彼に対して哀れみ、もしくはソレに近しい何かの思いを持ってくれるのならーーと女は続ける。


「どうかこの“花”を救ってほしい、雪。世界を救いたい。仲間を。全ての人を助けたい。そう本気で願い、手にしかけた彼のかつての夢を君が拾ってあげてほしい」


 それが彼の魂の救済になるかもしれないからーーという女の言葉を最後に今夜の夢は終わりを告げた。



◇ ◇ ◇



 ーー昔の夢を見た。

 大人のお腹にも届かないくらいの身長しかなかった頃。

 村の中でなんでかやたらと私につっかかる奴がいて、そいつを中心に私は村の子供達からいじめられていた。


 理由は……まぁ当たり前のようにくだらない。

 私が魔法使いの素質を持って生まれたからだ。


 目が金色に光って気持ち悪い。親子揃ってバケモノみたいな力を使う。

 銀色の髪なんてお前らの他にはいない。近寄るな魔女!

 ……ずいぶん言いたい放題されたものだった。


 大抵は無視できたけど、おかあさんを侮辱したあの時だけは容赦なく痛めつけてやった。

 金色の目は魔法使いとしての誇りだし、銀色の髪は大好きなおかあさんと同じである私の宝物だ。

 例え冗談だとしてもボコボコにする権利がこっちにはある。

 大泣きしたあいつらを見て胸がすく気持ちだったけど、後で散々おかあさんや村の大人達に怒られたものだ。


 私は悪くないと思ったから最後まで謝らなかった。

 当たり前だ。そもそもマーギアは魔法使いの為の村なのに。


 年月が経って村の魔法使いは私とおかあさんを入れて4人だけになっちゃってたけど、魔法は恐れるものじゃなく尊ぶべきものだ。

 この村で生きる私達は他の土地で生きる誰よりも魔法を受け入れなきゃいけないはずなんだから。


**


 ーー昔の夢を見た。

 大人のお腹には届くくらいの身長になった頃。

 おかあさんと一緒にグリューン国に訪れた時のだ。


 私がまだおかあさんのお腹の中にいた時、おかあさんが危ない所を助けてくれた恩人兼、友人がこの国に住んでいるという話だった。

 久しぶりに会いに行くってことで無理やり一緒についてきたのだ。


 村の外に出るなんて滅多にないし、五国をまだ見たことがなかったし。

 それに、おかあさんとお出かけできる機会が何より嬉しかったから。



 おかあさんの恩人には子どもが二人いた。彼らは兄弟だった。

 そのうちの一人は私と同じくらいの背丈で――名前はアシュティン。


 彼は私を見ると友達になりたい! ってすごい勢いで迫ってきたのが初対面。

 最初はびっくりして怖くて、思わずおかあさんの後ろに隠れてしまった。

 どうやら魔法使いに会ったのが初めてで、はしゃいでいるらしかった。


 興奮する弟をたしなめる兄とそれを微笑ましく眺める大人達。

 いったん落ち着いたアシュティンは改めて私に友達になろうって誘ってきた。


 どうせ魔法使いが物珍しいだけなんだって最初は相手にしなかったけど……優しかったな。

 あの人達はみんな……優しかった。出会えて嬉しい人達だった。




**


 ーー昔の夢を見た。

 大人の胸に届くくらいの身長になった。

 背丈だけならもう大人の仲間入りと言える気がする。


 村での変わらない穏やかな日々だ。

 そして私は今日も自分の魔法を磨く。

 周りの人はみんな誇らしそうに私を見る。

 私もそんな自分を誇らしく思う。

 昔、私をいじめてた奴らともこの頃にはすっかり仲良し。


 魔法は恐れるべきものじゃなく尊ぶべきもの。

 もちろん村の大人はそれを理解しているし、子ども達だってそう教育される。

 私をいじめてたあいつらだって同じだ。


 だからあいつらが私に突っかかってたのは魔法憎しや恐れというわけじゃなく、ただの一時のやっかみでしかなかったわけで。

 そうとわかってからはお互い嫌う理由もなくなった。


 ……私は今日も自分の魔法を磨く。

 おかあさん達、大人だけに頼るなんてしない。

 村を。みんなを誰よりも守れる私になるんだ。



**


『ーー光が来るぞ! こっちに向かってくる! 魔王の攻撃だ……っ!』


『逃げ……子ども達を……! 間に合わな……!』


 ーー昔の夢を見た。

 ゴオオ、って音がどんどん近づいてきて、うるさい音がもっとうるさくなっていく。

 周りの音はかき消されてもうみんなの声がよく聞こえない。

 いつも薄暗い森は見たことがないほど眩しく白い光に包まれていく。


『シュテル!!』


 呆然と立ち尽くす私に駆け寄ったおかあさんが強く抱きしめる。


『お……』


 おかあさん、って呼びたかったのに言葉が出せない。

 思考の止まった私の耳に聞こえたのはーー最期とは思えないくらい聞き慣れた……おかあさんのいつもの落ち着いた優しい声。


『シュテル……愛してるからね』



 夢を見た。

 夢を見た。夢を見た。夢を見た。



 もう……やめて…………



***


「っ――! はぁ、はぁ、は……っ」


 いつもの悪夢を見終えた少女は目を覚まし、被っていたボロ布を払いのけて体を起こした。

 少女は軽く辺りを見回すが外は暗闇に包まれている。

 時折、小さな獣の声が聞こえるくらいで森は静寂だ。

 明かりのない夜の森。この森に慣れ、夜目の利く少女にはさほど問題ないが普通の人間であればまっすぐ歩くことも難しい。


 一応ランタンを持ってはいるが少女は灯りも手に取らず自分の寝床から外に出ると静かに夜の空を見上げた。


 これは少女の昔からの癖だ。

 夜になると必ず空を見上げて星が出ていないかを確認する。


 夜は大嫌いだが夜の闇に負けずに輝く星の光は大好きだった。

 星が見えた日は嬉しさで興奮して眠れなくなり、逆に夜に負けて星が見れなかった日は悔しさで眠れなくなる。

 おかげで慢性的な寝不足で目の下にできたクマはいつまでもなくなってくれない。


 それでも少女は今夜も星を探す。

 その光だけが自分を悪夢から救ってくれるような気がして。


「……今日も見えない」


 ポツリと呟くと少女は再び寝床に戻った。


「やっぱり夜は……嫌い」


 少女はボロ布を頭まで被り静かに目を閉じる。

 この暗い夜が悪夢ごと消え去ってくれることを願いながら。



***



 今日は少し肌寒い。

 しばらく晴れて澄み渡っていた空は曇天に包まれ、断続的に吹きつけてくる風によって葉擦れの音がよく聞こえてくる。


「きゃっ……」


 ビュウ、とひと際強い風が流れてヴェルメがよろめいた。


「ヴェルメっ 大丈夫?」

 

「う、うん。風が強くてびっくりしただけ。ごめんね」


 駆け寄ったリーベの手を繋いで進み、それを確認したヴンダーとアシュティンも再び歩き出す。


 陸の端に沿うカタチで続いている森を指標に目的地を目指す。

 幾日も繰り返した歩みをヴンダー達は今日も続ける。



“……"


 ヴンダーは部屋の女の言葉を思い出していた。


 『それが彼の魂の救済になるかもしれないからーー』


 ……それは彼の死を悼んでいる、ということだろうか。

 だとしたらなんだか意外だ。


 自分も含めてあの女にとっては目的の為の手駒で、そこに情のようなものを挟むような性質(たち)には見えなかった。

 ましてやいなくなった故人を気にかけるような言葉を口にするなんて。

 あるいは(トマリ)があの女にとって、それだけ破格の存在だったということなのか。


 ……正直、あの女の得体の知れなさに気を許すことはできない。

 とはいえ必要以上に嫌いすぎ――いや、怖がりすぎてはいるかもしれない。


 駒として利用されているとしても、この世界を救うという一点に自分が異を唱える気がない以上はあの女と敵対する理由もない。


 何より異世界の成り立ちや事情を知ることなど本来なら避けられない難儀だった。

 (けもの)という種の立場はそのハンデをなおさらに強調する。


 それを困り事とさせずにすんでいるのは、やはりあの女の存在によるものだろう。

 種族差による意思疎通を問題とせず気になることはとりあえず質問できる。

 どんな事にも完璧に答えてくれるというわけではないにしても、情報を得る手段としては現状十分すぎるとも言える。



「アシュティンさん……大丈夫かな」


 ヴェルメが心配そうに口にする。

 ヴンダーも先導するアシュティンに目をやる。


「……」


 アシュティンはずっと無言のまま先頭を歩いている。

 今朝、出発してからアシュティンは彼らしくないほど口数が減っている。

 リーベやヴェルメが話しかけても「ああ」や「まあな」など、気のない返事ばかりだ。


 その理由は――恐らくもう視界に入っていた。


「……あれだ」


 そう言葉にして足を止めたアシュティンに続き、ヴェルメ達も彼と同じ方向――奥に伸びる森の方を見た。

 


 『実際見ればわかるけど――本当に焼き尽くされちゃってるからね』



 マーギアの村はこの陸の南西――その森の中にあるという話だった。

 しかしアシュティンは、村はこのまま森に沿って歩けば()()()()()と話していた。

 最初は村の位置を示す入り口か目印のようなものがあるのだろうと思っていたが――



**



「こんな……こんなふうに、なってしまうなんて……」


 一行は目的地だったその場所に辿り着いた。

 その光景を見てリーベは悲痛を言葉に乗せる。


 ーーその場所には何もなかった。

 まして人の住む跡など皆無だった。

 ずっと途切れることなく真っ直ぐ続いていた森はその部分だけをゴッソリと取り除いたかのようになくなっていた。


 ()()()()()()()()()()()()()()この場所には燃え残った残骸や木屑すらも見当たらない。

 焼き尽くされたというより消し尽くされたかのように、あらゆる生命の痕跡がこの空間には存在しなかった。


 ヴンダーは地面や空気の匂いを嗅ぎながら周囲を窺う。


 ……300メートルほどだろうか。円に近い形で森はなくなっていた。

 そこまで広くはないが被害は森の境界をはみ出て草原にまで及んでいる。


 マーギアの村は森の中という話だが、この焼け跡の中心地が村だったのだとするとそこまで奥まった位置にあったわけではないらしい。


 なんにしてもあの部屋の女が言った通り。

 この惨事の渦中にいたのなら確かに村の人間に生き残る術などないだろう。


 “……ひどい”


 国を一つ消した力と同じものであるなら、これでも小規模と言えるのだろうか。

 

 いや、規模なんて関係ない。

 なんでこんな事を……なんて事をするんだ。

 どんな理由があればこんな――――


『今のところ、ただの血迷いが一番有力かな』


“……そんなのが通っていいもんか”



「……」


 アシュティンは小さく息をつく。その音はわずかに震えていた。

 無言で奥へと進む彼にリーベ達も黙ってついていく。



 焼け跡の中心に向かってゆっくり歩きながらアシュティンが語る。


「以前話した、ここの村に住んでた俺の友達――シュテルって言うんだ。自分が生まれた時、なんか星がすげー綺麗な夜だったから、それにちなんだ名前を母親につけてもらったんだって嬉しそうに俺に教えてくれたよ」


 同い年のはずなんだけど背が小さすぎて全然そうは見えなかったっけなぁ、と。

 わざとらしくアシュティンは明るく話す。


「……シュテルのお母さんもすげえ優しい人でさ。昔、俺の親が危ない所を助けたって話らしいんだけど。シュテルもまた遊びに来たいって言ってくれてさ。ホント……別れてからしばらくの間は早くまた会いたいって毎日考えてたよ」


 そう言い終えるとアシュティンは足を止め、深く息を吐いた。


「こうなってるだろうとはみんなと同じくらいには思ってた。でも、どうしても直接確かめたかったんだ。……まさかここまで何も残ってないとは思わなかったけどな」


「アシュティン……」


「みんな、ホントごめんな。こんな事に付きあわせちまって。せっかく長い時間使って来たってのに、これじゃ甲斐がなかったよな……」


 そう謝り、頭を下げるアシュティンの手をヴェルメがそっと握る。


「アシュティンさん。私、お墓を作ってあげたいっ ダメ、かな? その、えっと……」


 ヴェルメの声が縮こまっていく。

 アシュティンをどうにか励ましたい思いで前のめりに出て話しかけたものの、かけるべき言葉として適していたか自信がなかったのだろう。

 そんなヴェルメの小さな手を握り返しながらアシュティンは感謝を伝えた。


「ああ、そうだな。……ありがとな、ヴェルメ」


 少し時間をくれと言ったアシュティンの言葉を皮切りに一行は墓を作る為に動きだした。

 とはいえ大層な物を作れるわけではない。

 せいぜい墓に見立てた木の棒を探して、地面に突き立てておくくらいが関の山だ。


「本当は遺品の一つでも置いてあげたいけど……しかたないわね」


「ここの焼け跡からじゃ棒切れの一つもねえな……いったん被害を免れた範囲まで出て探すか」


「おいで、ヴンダー。奥の方には行かないようにしてね」


 ……こんな時にもヴェルメは森の奥深くに行くことに注意を促してきた。

 リーベとアシュティンもやはりそれを極力避けてるように見える。


 どうしてだろう?

 森の奥……いや、彼女達は陸の端に近づくことを嫌がっているのだろうか?


“何があるんだろうーー“


 ……まあ、今は気にしてる場合じゃないか。

 どうしても気になった時はあの女に聞くこともできるだろうし。


 感じた疑問をひとまず頭の片隅に置き、みんなを手伝おうと足を向けるが――ヴンダーは再び立ち止まった。

 風に乗ってかすかに甘い匂いが漂ってきたのを感じたのだ。


“なんだろう……果物? 多分、近くだ――”


「どうしたんだ?」


「ヴンダー、どこ行くのっ?」


 燃え残りすらないこの場所から何故こんな香りがするのか。

 ヴンダーはもう一度嗅覚を頼りに匂いの元を辿った。


 ヴェルメ達が歩き出した方向とは逆に歩き出したヴンダーに疑問を持ちながらも皆はその後を追った。


*


 少しの間、歩いていると無事な木々が目の前に近づいてきた。

 どうやら被害範囲の端まで来たようだった。

 ヴンダーがそこでピタリと動きを止めたことで皆もヴンダーの目線の先を見る。



 その場所には数本で束ねられた草花が置かれていた。

 花部分が淡いピンク色で猫じゃらしに似ている。

 ほのかに甘い香りを発していたのはこの植物だったらしい。


「え……これって――――」


 皆、信じられないものを見たといった様子で驚いている。

 それも無理はなく、目の前には子どもが喜んで振り回しそうな粗末な木の棒が地面に突き立っており、束ねられた草花は明らかにそこに供えられていた。


 つまり今しがたのアシュティン達と同じ行いをすでに他の誰かが行っていたことになる。


「これ……どういうことなの、おねえちゃん? もしかして――」


「手向け草……? でも、誰が……アシュティン――」


「――!」


 無言だったアシュティンは突然、供えられた草花を手でどけた。

 するとその下には小さな人形が二つ置かれていた。


「――――」


 アシュティンは人形を手に取って、じっと見つめたまま動かない。

 ただずっと何か考えこんでいるように黙っている。


 それは手編みで作られたであろう二つの人形。

 大きめの帽子をかぶった小さな女の子と大人の女性を象っている。

 恐らく親子の関係を表しているのかもしれない。


 土に塗れ、ひどく汚れている。ほつれた個所も多い。

 それでも二つの人形はとても幸せそうに笑顔を浮かべ、親子として寄り添うように“墓前”に置かれていた。


「人形……もしかして、この村の――」


「っ! ……シュテル! シュテル――――ッ!!」


 アシュティンが周囲に向けて叫んだ。

 堰を切ったように友人の名前を必死に呼びかけている。


「ア、アシュティン!?」


「シュテルの人形だ! エルマさんから――シュテルのお母さんが作った人形であいつがずっと肌身離さず大事にしてたやつなんだ! それがなんでここにある!? あいつは――っ」


 らしくないほど困惑し、焦りを見せるアシュティン。

 彼自身、今の感情の整理のつけ方がわからないのだろう。

 アシュティンはもう一度大きな声で呼びかけた。


「シュテル! エルマさん! 誰かいないのか!? 俺だ! アシュティンだ! 会いに来たんだ――!!」


「おねえちゃん……」


 ヴェルメの声にリーベはコクリと頷く。

 少なくともここに墓を建てた誰かがいる。

 その正体を知りたいと考え、リーベ達も捜索に加わろうとした時――



「うるさい。……森の中だとあなたの大きな声はホント、響く」


 近くの木の幹から少女のような声が聞こえた。

 その場所に注目しているとゆっくりと、気怠そうな動作で樹木の後ろから全身を現す。


「まだ生きてたんだ、アシュティン。しかも思ったよりも元気そう。……久しぶりだね」


「…………シュテル」


 少女は何も言わず黙ってアシュティン達を見つめていた。

 手には墓に供えられた物と同じ植物が握られている。


 銀髪の長い髪と金色の瞳を持つ少女。

 植物の甘い香りを漂わせながらこちらを真っ直ぐ見つめる少女にヴンダーもまた目を逸らすことができなかった。

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