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まだ諦めない

「――あれ、雪?さっき会ったばかりなのにもう会いに来るなんて」


 目を開けた雪がいたのは、またもやあの白い部屋だった。

 部屋の主である女は何故か少し驚いたような反応をしている。


“……アナタが呼んだんでしょ?”


「ううん、呼んでないよ。言い忘れてたけど一度ボクと繋がりを持った命は、ボクが招かなくてもこの部屋に来ることはできるんだよ。まさに今の君みたいにね」


 リーベが帰ってきた後、雪は家をこっそりと出ていった。

 今、雪の肉体は村の外にある状態になっているはずだ。


 会いたいと念じて肉体の意識を閉じれば自分から会いに来れる。

 雪がこの部屋に来れたのは雪自身が面会を希望したからだと言いたいらしい。


「でも少し驚いたよ。さっきは酷く落ちこんでいたようだからもう少し時間が必要だと思ってたんだけど――意外と立ち直りが早いみたいでよかった」


 皮肉かのような物言いだが悪意はなかった。

 この女にしてみれば、ただ感想を口にしただけなのだろう。


 さっきのように取り乱さないと決めた雪はまず確認したいことを質問することにした。


“……言ってたよね。悪い影響を及ぼす存在がいるとその世界の“花”が黒ずんでしまうって”


「うん。――見ての通りだね」


 女はテーブルの浅鉢を雪に見えるよう床に置いた。


 そこに植えられた球体は全体が黒ずんでいる。最初に見せられた時と同じだ。

 そして今、雪の肉体が置いてある異世界の姿でもある。 


“この状態を放っておくと……どうなるの?”


「この状態の“花”は腐敗が進んでいるということなんだ。当然何もしなければ“花”は腐り落ちて死ぬ。二度と元には戻せない」


“ここで生きてる人達も……みんな死ぬの?”


「もちろん。そして死んでしまった“花”はボクにもどうしようもない。残念だけどそうなれば廃棄するしかなくなるね」


“……捨てるってこと?”


「そうだよ?」


 当然でしょとばかりに迷いなく肯定する。


「そしてこの腐敗具合から見て、この“花”にはもう余裕がない。君がダメなら、もうこの“花”が助かる方法はないだろうね」


 あまりにメチャクチャだと雪は思った。


 君が頑張らないとみんな死んじゃうよ? とこの女は言っている。

 一匹のちっぽけな犬に背負わせる内容とはとても思えない。


 だけど――と雪はヴェルメのことを思い浮かべる。


 ――あの女の子に死んでほしくない。ひどい目に合ってほしくない。


 その感情に明確な理由を持てているわけではない。

 どうしてと聞かれても雪にも答えることはできないだろう。


 それでも哲郎を失い、帰る術を失い絶望していた雪にとってこの感情の源泉は自分を立ち直らせる最後の拠り所となっていた。


 ――この女のためになんて絶対にイヤだ。

 世界がって言われてもよくわからない。

 でもあの子が危ないのなら――あの子を守る力が自分にあるのなら。



 “何をすればいいのか、教えて”




◇◇◇




 日が少しずつ昇りだし、夜明けになろうという時分。

 リーベは家の外で妹が出てくるのを待っていた。


(……ずいぶんお世話になったな)


 少女は思い出を振り返るように村を見回す。


 姉妹は元々、この村の者ではない。

 それでも姉妹を受け入れてくれた優しい村の人達。

 二人にとって確かにこの村は居心地のいい場所だった。


 それだけに追放というカタチで村を去らなければならないことに未練はある。


 仕方のないことなんだと受け止めてはいる。

 ただ、それでもやはり胸につかえる辛さが消えることはなかった。


(――しっかりして、リーベ。今はこれからのことを考えなくちゃっ)


 自分にのしかかる重りを振り払うようにリーベが頭を振っていると家の扉が開き、ヴェルメが出てきた。


「ヴェルメ、用意はできた? もう出発はできそう?」


「あ、うん……荷物は全然ないから」


 そう答えるヴェルメは辺りをキョロキョロとし、どこか落ち着かない。


「おねえちゃん。あの子、見なかった?」


「え? あ……」


 あの獣のことだと理解したリーベは、そういえば少し前から姿を見ていないことを思い出した。

 外でヴェルメを待っていた時点で、すでにいなくなっていたのだ。


「私も見てないわ。もう、どこかに行ってしまったのかも……」


「――――……」


 ヴェルメは悲しそうに俯いている。


「ヴェルメ――あの獣、やっぱり……あの時の魔物、なの?」


 そう問われ、ヴェルメは躊躇いがちに頷いた。


「でもね、おねえちゃん。あの子、悪い子じゃないの――ホントだよっ? ずっと……ずっと、泣いてばかりだった」


 必死に訴える妹を姉は優しく受け入れる。


「わかってるわ。あ、いや――全然わかってないけど……あなたがそう言うんだもの。きっと本当にそうなんだと思う」


 気休めではなくヴェルメを信用している上での言葉。

 少なくともあの獣が人を脅かす為に生み出された魔族の手先という、通常の理解に当てはまるような存在でないことはリーベも感じていた。


「お別れ、言いそびれちゃった……」


 ヴェルメは寂しそうにポツリと呟いた。


 その時、二人の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 見るとアーダとクルトが走って近づいてきていた。


「アーダおばさん! クルトおじさんも……」


「二人とも、行くんだな……」


「うん。夜明けまでに出てくって約束したから……もう行かないと」


「ヴェルメ、リーベ……ごめんね。何もしてやれなくて……っ 結局私達も、あんた達を見捨てることを選んじまったっ」


 涙ながらに謝るアーダの言葉をリーベは否定する。


「それを口にするのはここで最後にして、おばさん。私は見捨てられたなんて思ってない。私達はみんなを巻きこまないために出て行くだけ。だから負い目なんて感じる必要ないの」


「お前は、強いな……お前を見てると自分達が情けなく感じるよ」


 リーベの言葉にクルトは心苦しそうに答えた。

 3人の会話が止まったのを見て、ヴェルメが前に出て最後の別れを告げる。


「アーダおばさん、クルトおじさん。私たち、もう行きます。この村で一番親切にしてくれた二人のこと、ずっと忘れません。だから、どうか元気でいてください」


 ヴェルメは頭を深く下げ、二人に感謝を伝えた。


「今まで――本当にありがとうございましたっ」


「っ……!」


 アーダは別れを惜しむようにヴェルメの小さな体を強く抱きしめた。


「無事でいて……言えた義理じゃないのはわかってるけど……それでも、どうかお願い……お願いだからどうか――どうか無事でっ」


ヴェルメも負けじと小さい体で力いっぱい抱きしめた。



◇◇



「じゃあ、まずはその世界のことを簡単に説明しようか。犬の君じゃ自力で現地の人に話を聞くのは難しいだろうからね」


 ニコリとした表情も合わさって嫌味にも聞こえるが雪は黙って話を聞く。


「君がいるその世界は“グロスブルーメ”と呼ばれている一つの大陸だ。そうだね……とても大きな八角形の陸を想像してもらえばいいかな」


 女は語る。

 その大陸には中央に一つ。そして東西南北の端に大きな国がある。

 そしてそれぞれの国の領地に小さな村々が点在していると。


 国は全部で五つ。


 南のグリューン国。東のブラウ国。西のロート国。

 北のヴァイス国。そして中央のゲルプ国。 


「……なんだけど――それは元々の話でね。今は色々と事情が変わっている」


“……?”


「君も魔族と呼ばれる存在を見ただろう? でも元々、あんな生物は存在していなかったんだ。あの世界にはただ人の生きる国や村があり、人が人らしい営みを行うだけの平和な世界だった」


 平和――森や村での体験を味わった雪には信じられない話だ。


「始まりはヴァイス国だった――魔族は北の国の中で突然、発生したんだ。国にいた人間は誰も魔族の力に抗えず、ヴァイス国は瞬く間に人間の物ではなくなった」


 人が住む場所の中でそんなものが現れた理由が気になりはしたが、雪が知りたいのは自分は何をすればいいのか、だ。

 それ以外の事を今、掘り下げてもちゃんと頭に入る気がしない。


“……それは必要な話なの?”


「もちろん。君はその世界を救うと決めてくれたんだろう? なら、その為に相手取らなきゃいけない敵と世界の事情は簡単にでも知っておいたほうがいいと思う――でしょ?」


 否定する言葉も見つからず雪は黙って話を聞くことにした。


「北の国では魔族の発生と同時にもう一つ別の存在が現れていた。それが()()と名乗り、また呼ばれることになった存在。――つまり今後の君の敵だ、雪」


 魔王――それがあの世界が死にかけている原因。

 魔族を配下とし、人類の生存を脅かしている存在だと女は語る。


“敵…………魔王”


 女が語る話によれば、以前は勇者と呼ばれた人間とその仲間達が魔王の討伐に挑んだ。

 しかし彼らは後一歩というところで戦いに敗れて命を落としてしまい、それをキッカケに魔の勢力は一気に他国への侵略の手を強めた。

 結果、西の国は滅ぼされて残った他の国も魔族に支配されてしまったらしい。

 

「まあ、つまり――今のその世界は人類が魔に敗北を認めて、魔の支配をほとんど受け入れてしまっている状態だってことだね」


 色々と語られたうちの半分も理解できたか自信がなかったが、雪は少なくとも自分がやるべき事は理解できていた。


“つまりその魔王を……止めればいいんだよね”


「うん。ボクが君に求める結果はそれだ。改めて聞くよ――――」


 そう言うと座っていた女は椅子から立ち上がり、雪に問う。


「この“花”を救ってくれるかい、雪?」



 雪の答えはもう決まっていた。



◇◇



 アーダ達との別れを済ませ、村の外に出るとヴェルメが突然声を上げる。


「お、おねえちゃんっ!」


「どうしたの、ヴェルメ? ―――あっ」


 二人が前を見るとそこには雪がいた。

 ヴェルメが雪に駆け寄っていったため、リーベも後をついていく。


「また会えて、よかったっ ……私たちね、村を出て行くことになったの。だから、あなたにもお別れを言いたくて」


 語りかけるヴェルメの言葉を雪はじっと聞いている。


「私やおねえちゃん――村のみんなを守ってくれて、本当にありがとう。私たち、行くから……あなたも元気でいてね」


 そう最後に伝えてヴェルメは雪から離れていく。


 しかし雪はその後を追いすがり、ヴェルメの服の袖を口でくわえて引っ張った。


「きゃっ ど、どうしたの……?」


 不意の行動に驚いて雪を見る。

 雪はヴェルメの袖を放すと彼女の周りをくるりと一周した後、一吠えした。


「え、と……え……?」


 困惑しているヴェルメの代わりにリーベが雪に尋ねる。


「もしかして……一緒に行きたい、の?」


肯定するように雪はリーベの問いに小さく吠える。

姉妹は互いの顔をしばらく見合わせた後、ヴェルメが改めて雪に確認をする。


「来てくれる……の?」


“…………”


 雪は何も言わずヴェルメの体に自分の頭を軽くこすりつける。

 直接、言葉を届けられない雪にとっての精一杯の親愛の情だった。


 ヴェルメは泣きながら雪を力いっぱい抱きしめる。

 泣いているせいで言葉が出せないヴェルメにとっての精一杯の感謝だった。


「ありがとう……本当にっ」


 ヴェルメに代わってリーベが雪に礼を言う。

 そして彼女は静かに考える。


 ……正直、この子のことをヴェルメほど真っ直ぐ受け入れるのは難しい。

 この子が何者で、どこから来たのか何一つわからないのだから。


 でも……この子がヴェルメを守ってくれたのは確かだ。

 打算的な考えをするなら、この子の力があれば魔族の手からヴェルメを守れるかもしれない。


「それに……あなたも魔族に目をつけられてたものね。一人よりはいいって、あなたも思ってくれる?」


 ヴェルメに倣って初めてこの子の頭を撫でてみる。

 ……わ、思ったよりふかふかしてて気持ちいい。


「すごく心強いわ。改めて、本当にありがとう――私はリーベ。よろしくね」


 私は諦めない。妹がいる限りは――――

 たとえ勇者様がいなくなって人類から希望が失われていても。

 

 私はまだ諦めない。

 ヴェルメを守る為なら絶対に膝を折ってなんてやらないんだから。




***




 雪やヴェルメがいる村より北に遠く離れた地に一つの国があり、国のちょうど真ん中には王の住まう為の宮殿が建てられている。


 その権威を示すように一目でそれとわかる大きさと建築様式で、他の立ち並ぶ家々とは一線を画していた。


 しかしその立派な建物に見合わないほど人の気配がない。

 夜中とはいえ灯った明かりがまったくなく、忙しく動き回る使用人の姿も見回りをする兵士の姿も、侍従も王もその一族の姿も一切そこにはなかった。


 もはや誰に誇ることもできない無人と化した豪奢な住まい。


 しかし在るべき主がおらずその役割を失っている玉座に一人の男が座っている。

 男はあぐらをかいた姿勢で玉座に座り、じっと近くの床を眺めている。


 その視線の先には人間の少女が倒れていた。

 仰向けに倒れたその少女は目を見開き、息絶えている。

 目から涙が流れた跡があり、最期の瞬間まで恐怖を感じていたであろうことがよくわかる表情をしていた。


 そして奇妙なことに――何故かその死体には影がなかった。



 その時、誰かが入り口から玉座の男に向かって歩いてくる。


「失礼致します、シャトゥン様」


 軽く一礼し、玉座の男に話しかける長身の男。

 その側頭部には2本の角が生えている。


「お食事中でしたか。申し訳ありません」


 転がった死体を一瞥し、長身の男が口にする。


「構わないよ、ネスト。食事はもう終わってる。そもそも食べてる姿を見られて恥ずかしいなんて別に思わないし。特別美味しいものでもなかったから邪魔された気分にもならないよ」


「ではこの躯は魔物に喰らわせておきます」


「悪いねぇ。よろしく」


 手をひらひらとさせながら笑顔で口にする。


 ネストと呼ばれた長身の男の静かで丁寧な振る舞いとは対照的に、玉座の男――シャトゥンは明るく軽薄な態度をとる。


 青年ほどの見た目をしたソレは長身の男と同じく頭部に角を持ち、その瞳は影のように深く暗い。

 


 目を見る者をその闇に引きずりこむかのような普通の人間には持ち得ない言い知れぬ不気味さがあった。


「それで、どう? ペンダントは見つかりそうかな?」


「申し訳ありません。南端のグリューン国を担当しているアンデルから報告をさせてはいますが、例のペンダントを持つ子どもとやらについては……未だ何の音沙汰もなく」


「んー、そっか。まあ、そう簡単に見つからないかぁ。このままじゃボク、魔王様のお怒りが怖いなぁ」


 言葉と真逆にシャトゥンは愉快そうに笑いながら話す。


「……あの二人に任せたのは失敗だったでしょうか」


「アンデルはボクに似て遊び癖があるからねぇ。今頃はペンダントなんて忘れて人間で遊んでるかも。でも反面、エストは真面目だから彼はちゃんと仕事するでしょ。その結果、見つからないならしょうがないんじゃない?」


「は……しかし――」


 言いかけるとシャトゥンの影から小さな何かが浮かび上がってきた。


「……シャトゥン様、それは?」


 影から浮かんできたのは一つの目玉だった。

 シャトゥンが指を手前にくい、と動かすとその小さな物体は引っ張られるように手元に移動する。


「まさかその目玉――エスト……!?」


「おやおや、これはまあ――ずいぶん可愛らしくなって戻ってきたねぇ、エスト」


 従者は驚愕し、主は楽しそうに笑みをこぼす。


 ペンダントの捜索をしていたはずの同胞が直接の報告もなく、自分の肉体の一部のみを送りつけてくる。

 それが死の間際に送ったメッセージであると考えるのは容易だった。


「殺されたというのですか……エストが? 一体誰に!?」


「さあ? それは――本人に直接聞いてみようじゃないか」


 そう口にするとシャトゥンは目玉を口に放り入れ、飲みこんだ。


 するとシャトゥンの目にはその目玉の持ち主が見て、体験した全ての光景が映し出された。


「――ふッ、ふふふ、あはははははっ!」


 その光景を見終えたシャトゥンは手をパンパンと叩きながら大笑いをする。


「本当に!? なんだい、これ! 羨ましいなぁ――すごい体験をしたね、エスト!」


 シャトゥンは愉快でたまらないといった様子で子どものようにはしゃいでいる。


「シャトゥン様、一体……」


「ああ。オマエにも共有しておくよ、ネスト。どうやらエストは単独でペンダントを捜索している最中に思いもよらぬ事に当たったらしい。なんと魔族を襲うマモノ、だ」


「バカな……魔物に魔族を殺すことなど――いや、それ以前に魔物が我らに歯向かうなどありえませぬ」


「だから思いもよらぬ事、さ。一体なんなんだろうねぇ、この魔物は? ボク達、魔族が生みだせるようなモノじゃないように見えるけどなぁ」


「……シャトゥン様、いかがなさいますか?」


「一応、魔王様の命令だし……なにより、頑張ってエストが見つけてくれたんだ。彼の功労を無駄にするのは可哀想だろう。せっかくだしボク達も人間を見習って同胞の仇を討とうじゃないか」


 魔族に“仇を取る”などという感覚はない。

 そんなものは魔族から見れば人間の持つ性質の一つでしかない。


 他者の為に感情を持つことのない魔族にとって“仇討ち”など無意味な言語の塊に過ぎない。

 しかしシャトゥンは人間の理解できない部分こそが愉快で好きだと言い、こうやって無意味に人間の言葉を並べ立てる。


「ネスト、すまないがオマエもグリューン国に行ってくれないか。なにせエストを殺せるほどの相手だ。アンデルだけじゃ荷が重いかもしれないからね」


「……ご命令であれば。任務はペンダントの入手、そして謎の魔物の殺害、でよろしいのですね?」


「いいよ。できれば捕獲してほしいけど難しいだろうしね。本当はボクも行きたいんだけど……ここはここでそれなりに苦労して手に入れた国だしね。もうちょっと堪能していたいからさ」


「承知いたしました。ペンダントとその魔物の命、必ずや」


 主の命を受け、男は王の間から姿を消した。


 シャトゥンは嬉しそうに笑みを浮かべながら、かつての思いに馳せる。


「勇者達が死んで一年。人類自体もすっかり魔に敗北を認めてしまって――それはそれで愉快なんだけど、その分やっぱり張り合いというものがなかったからねぇ……今回の件は中々の朗報だ」


 その時、すっかり忘れていた転がっている死体を見て、先にこれを片づけさせてから行かせればよかったと少し悔やんだ。


「――南端の国、グリューンか。部下をけしかけといてなんだけど、できれば謎の魔物クンには頑張ってほしいなぁ」


 男は天井を仰ぎ、まだ見ぬその魔物に願う。

 どうか――願わくば我が部下を容易く惨殺できるほど恐ろしい怪物であれ、と。


 強者の存在はいつだって自分の好むところと男は考える。

 たとえ人間でなくとも強大な精神と力を内に宿しているモノほど。


 その魂は味わい深いものに違いないのだから。

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