プロローグ ある夜の森で
血が、たくさん飛び散っている―――
もうすっかり夜だ。
いつもならとっくにウトウトがはじまって、家のベッドにはいって。
こわいゆめを見なくてすむようおねえちゃんに手をにぎってもらいながら安心してすやすや眠るのに私の目はぱっちりしてぜんぜん眠くならない。
地面にすわりこんだ私の目の前で、たくさんの魔物がたくさんの血を飛び散らせて死んでいく。
その中心には、まっくろでとても大きなモノがたたずんでいる。
空にはまんまるのお月さまがキラキラと光ってて。
くらい森の中にいるはずなのに、周りはスポットを当てられてるみたいに明るい。
まるで私に目の前で起きてることをしっかり見せようと、お月さまがいつもよりがんばって光ってるみたい。
子どもより少し大きいくらいの魔物の群れは、まっくろくて大きいモノを取り囲む。
そして合図をすると、ソレに向かっていっせいに飛びかかった。
でも誰もソレを傷つけられず、さわることもできない。
ぶおん、ぶおん、と大きな音がするのと同時に魔物がみじかい声をだして、血をふきだして、バラバラになって吹き飛んでいく。
びちゃびちゃと私の近くで音がしたけどあまり気にならなかった。
……ううん。気にすることができなかった。
私はずっとあのまっくろな怪物ばかりを見ていたから。
――静かになった。魔物がぜんぶいなくなったんだ。
アレがぜんぶ殺した。四つの赤い目を光らせて、四つの大きな足を叩きつけて、大きな口で噛みついて、大きなしっぽをふりまわして。
一匹ずつ喰いちぎって、切りさいて、バラバラにした。
途中、ぶきを落とした魔物がいた。
こわがってずっとふるえていたけど、あの怪物に比べたらずっと小さい魔物はあの大きな足でぺしゃんこにされてしまった。
目の前にいる怪物はグルル…と小さくうなりながら私を見た。
馬、3頭分くらいはありそうな大きな体を動かしてゆっくり私に近づいてくる。
(私も殺されちゃう……)
そうぼんやりと考える。
逃げることも考えなかったわけじゃないけど、やっぱりそれもぼんやりとしか浮かんでこなくて。
気がつけば怪物の前足は私のすぐそばに置かれていた。
すごくこわかったし逃げたい気持ちもあったけど、どうしてもこの怪物から目をそらせなかった。
だって、こわいという気持ち以上に私は――――
この四つの赤い光をもっと見ていたいと思ってしまったのだ。
◇◇
最後の一匹を潰し終わると黒い怪物は動きを止める。
危険と感じたものはもう全て動かない。
怪物が近場から順に死体を確認していると少し先に座りこんでいる少女が目に入る。
怪物はじっと少女を見つめる。
少女は固まったようにその場から身動き一つしないが、確かに生きていることを怪物は感じ取る。
ゆっくりと少女に向かって歩き出す。より近くで少女を確認するために。
怪物は少女から視線を外すことなく一歩ずつ近づいていく。
近づきながら怪物は頭の中でずっと同じことを考え続けている。
それは殺し尽くした魔物のことではなく。目の前にいる少女のことでもなく。
ただ、あの日のことを―――― あの人のことを――――――
『雪!散歩に行くぞっ』
小説で物語を書く、ということに初めてチャレンジしてみます。
思いつきではありますが書き始めた以上は完結目指していきます。
通りすがりにでも軽く目を通していただけたらこれ幸い。