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選別ゲーム〜その少女は人間であることをやめる〜  作者: 丹野海里
9月4日(火)選別ゲーム2・宝箱を探せ
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第9話 村からの逃亡

—1―


9月4日(火)午後1時15分


「宝箱を見つけられなかったら脱落とか、マジで頭おかしいんじゃねーのか? でも、空も凛花のばあさんも死んじまったから連中はマジなんだろうな。くそっ」


 岩渕清が口に咥えていタバコを地面に叩きつけ、靴の裏で火を消した。

 そして、胸ポケットから新しいタバコを取り出した。


「健三も吸うか?」


「いいや、俺はもうやめたんだ」


 清とペアを組んだ今野健三が差し出されたタバコを押し返した。


「そうか。そうだったな」


 清がタバコを口に咥え、ライターで火をつけた。


 岩渕清と今野健三は、共に月柳村の出身で同い年。現在33歳だ。

 幼少期はどちらも活発的で自己主張の強い性格だった。雨の日も風の強い日も山に入っては泥だらけになり、日が暮れるまで遊んだ。


 自己主張が強い者同士だったので、衝突が多く、血が出るまで取っ組み合いをすることもしょっちゅうだった。

 だが、次の日になると喧嘩のことなどけろりと忘れ、いつものように村で遊び、山で遊び、昨日とはまた別な理由で喧嘩をする。


 そんな2人が特に印象に残っている出来事がある。

 それは小学生の頃の話だ。


 2人は工藤茂夫に目を付けられていた。工藤茂夫は現在は村長だが、当時は村長の息子という立ち位置だった。

 茂夫は、村人から喧嘩を止めて欲しいとよく頼まれていた。


 いつまた悪さをするか分からない。

 ただでさえ村のことや自分の仕事で忙しいというのに、村の子供の喧嘩の仲裁という雑務なんかに割く時間は無かった。

 問題が起きないように茂夫は日頃から出来る限り目を光らせていた。


 そして、その日も茂夫の耳に清と健三が村で喧嘩をしているとの知らせが入った。

 目を光らせていても起きてしまったものは仕方がない。茂夫は喧嘩を止め、2人を普段より強く叱った。


「お前たちが喧嘩をするのは構わねぇけど、村の人に迷惑を掛けるな!」


 などと言い、その後も茂夫の説教はしばらく続いた。

 叱るということは、相手と本気で向き合うということ。どうでもよければ注意すらしないだろう。


 なぜ茂夫が2人を叱るのか。

 それは、2人の将来を考えてのことだった。立派な大人になって欲しいという茂夫の願いから、時に厳しく、何度も、たとえ忙しくて時間が無かろうと真剣に茂夫は清と健三に向き合った。


 しかし、まだ小学生の清と健三にはそれが伝わらなかった。

 茂夫のことは、自分たちを怒る怖いおじさんぐらいにしか思っていなかった。


 茂夫にきつく叱られた次の日、2人はある作戦を決行するべく茂夫の家の前にいた。

 清の手には金属バット、健三が手にするバケツの中には大量の石が入っている。


 2人は、日頃の恨みを茂夫の家に向けたのだ。

 窓ガラスは割れ、壁はへこみ、無数の傷がついた。


 騒ぎを聞いた村人が集まり初め、農作業をしていた茂夫が駆け付けると、鬼のような形相で2人を捕まえた。

 結果、2人は今までにないぐらいこっぴどく叱られ、2度と悪さをしないと誓わされた。


 岩渕清と今野健三という人間は、そうやって出来上がった。


 そんな悪ガキが今では立派な社会人。

 清は工場で働き、健三は教師をしている。小学生の大吾の担任が健三なのだ。


 健三も昔はタバコを吸っていたが、教師になってからきっぱりとやめた。


「宝箱、無いな」


 自分の家の倉庫を漁っていた健三が溜息をつく。


「ったく、こんなところで死んでられっかってんだよ」


「おい、何に使うんだよそれ」


 手錠で繋がれている為、清も倉庫の中を探していた。

 その清の手には、ナイフが握られていた。


「村から逃げるぞ、健三……」


 そう呟くと清はタバコを倉庫の外に吐き出し、煙をふぅーっと吐き出した。


「逃げるって、無理だろ。政府の織田さんが言ってただろ。どんな理由があろうと途中棄権は認められないって。なによりあの人数の中を逃げられるとはとても思えない。自殺行為だろ」


 教師らしく冷静な判断を下せる健三が、頭に血の上りやすい清を説得する。

 しかし、


「やってみなきゃ分かんないだろ。それに、俺には考えがあるんだ。ほら、念の為に健三も持っとけ」


 清が健三にナイフを渡す。


「なんだよ考えって?」


「そうだな。ここじゃあれだな、移動しながら話すか」


 清と健三は倉庫を後にした。


—2―


9月4日(火)午後1時37分


 清と健三は、山の中を歩いていた。

 木々が生い茂り、あまり視界が良いとは言えない。しかし、生まれてからずっと村で育ってきた2人にとっては、庭みたいなものだ。


「なあ健三」


「どうした?」


「なんで俺たち、月柳村が選別ゲームに選ばれたんだろうな」


「選ばれた理由か。確かにそれは気になるところだよな。何も別にここである必要は無かったはずだ。いや、それともここじゃなければならない理由があったのか?」


「忘れ去れた小さな村だからどうなっても構わないってことか……あーもう! 昨日から血圧上がりまくりだ」


 清がそう言って頭を掻いた。


「はぁ、まあいい。今はいったん置いておくか。健三、分かるか?」


 清が後ろを振り返らずに目線だけを斜め後ろに向けた。

 清と健三の斜め後方には、黒いスーツ姿の男が2人いた。


「ああ、村にいる時からずっと気配は感じてた。監視役か何かか?」


 健三は、清の行動に何かあるとは思いながらもただ周囲を警戒しながら隣を歩いているだけだった。


「さあな。でもこの辺りにはあの2人しかいなさそうだ」


 清は、宝箱を探すふりをして山の中を歩き回っていた。

 選別ゲームについて健三と話しながら、歩き回る間に、自分たちのあとをつけている人数の把握、周辺に他の村人はいないか、別の政府関係者がいないかを確認していた。


「普通に考えるなら村人1人につき監視役が1人ってところか」


 健三がそう推理した。

 そして、清がこれから何をしようとしているのかも瞬時に理解していた。長年の付き合いから相手の考えることは大体分かるのだ。


「そうだろうな。後ろの2人をナイフで行動不能にしてから山を下る。もし作戦が失敗しても全力で走って山を下る。ここらは俺たちが育った庭だろ。昨日、今日来た奴が俺たちに追いつけるはずがない」


「もうやるしかなさそうだな」


 健三が口角を上げる。

 こんな生きるか死ぬかの勝負をかけようとしている場面でわくわくしているようだ。


「子供の頃のように暴れるぞ」


 清が振り返り、それに合わせて健三も方向転換する。手錠で繋がれているからやや大回りになった。


 清と健三の命を懸けた大勝負が始まる。

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