95話:侯爵来訪
島左近清興だ、あれからユカリとサマノスケの仲だが時々、例の拒絶反応は起きつつ、時をかけて二人の愛を育むしかない。それから数日後、コタロウが尋ねてきた
「サコン殿、すまんのう、ワシが余計な事を言ってユカリに叱られてしまった。」
「酒の席での事、お気になされるな。」
「サコン殿、ワシは曾孫を諦めることにする。」
「コタロウ殿、何を急に・・・・」
「ワシはなユカリに幸せになってほしかった。此度の事もワシの老婆心から始まった事じゃ、酒に酔った上とはいえ、今にして思えば浅はかじゃった。」
「コタロウ殿。」
「愚痴に突き合わせてしまったのう、ワシは帰るとするわ、それじゃあのう。」
「お気をつけて・・・・」
ワシはコタロウを見送った。コタロウの背中は少し寂しそうな感じがした。孫娘を思う祖父心が運悪く、場を悪くしたことにコタロウ自身も答えたのだろう、ワシとしては決してコタロウが悪いとは一概には言えぬが、何とも後味の悪いことになった
「優れた剣豪でも一人の人間じゃな。」
「左近様。」
「如何した。」
「はっ!一台の公家【貴族】の馬車が当屋敷に向かっております。」
「相分かった。」
ワシは屋敷へ戻り、準備を進めていると外で馬のいななきがした。そこへ使用人の一人がワシの下を参り、客人が来たことを伝えた。ワシは客間へ通すよう、伝えた。ワシは身嗜みを整えると、扉からノック音がした。ワシは許可を出すと、与一が入ってきて用件を伝えた
「左近様、リチャード・アルバイナ侯爵閣下が参られました。」
「何?」
リチャード・アルバイナ、アルバイナ侯爵家の現当主であり、妻であるアリーナの元婚約者である。一体何用で参ったのか、取り敢えずワシは客間へ向かうと、話を聞き付けたのかアリーナが待っていた
「旦那様。」
「主も来るか?」
「はい。」
「分かった。」
ワシはアリーナと共に、客間にいるリチャードと対面した
「御待たせいたしまして申し訳ございません、侯爵閣下。」
「いや、こちらこそ突然尋ねてきたのだ。アリーナも元気そうで何よりだ。」
「畏れ入ります。」
「ようこそおいでくださいました。」
ワシらは長椅子に座った。事前に茶と茶菓子を出していたが、リチャードら手をつけず用件だけを伝えた
「1つ尋ねたい事がある。」
「何なりと。」
「アルトリア・スレイブがこの土地にいると耳にしたのだが?」
アルトリア・スレイブ、アリーナの実兄であり、スレイブ伯爵家を没落させた張本人である。真実の愛を見つけ、駆け落ちしたが、今は完全に乞食と化している。アルトリアの話が出た途端、アリーナの表情が曇った
「よくご存知で。」
「私もまさかとは思ったが、本当だったとは・・・・」
リチャードはどこで聞き付けたのかは分からぬが、やはり伯爵家を没落させた張本人を快く思っていないようだ
「サコン殿、アリーナ、今日参ったのは他でもない。アルトリア・スレイブを私が引き取ろうと考えている。」
それを聞いたワシとアリーナは驚き、互いに目を合わせた後、二度リチャードの方を向いた
「それは誠にございますか。」
「勿論、これ以上、貴殿やアリーナに迷惑をかけるわけにはいかないからな。」
「それではリチャード様に御迷惑が・・・・」
「構わんさ、アルトリアをとある地にて幽閉するだけだ。勿論、食事もあるし屋根のある部屋で寝泊まりできる。」
確かに良い条件だが、なぜここまでするのかが分からない、仮にアリーナの元婚約者であろうとも、ここまでする道理がない
「不躾ながらお尋ねいたします、なぜアルトリア・スレイブを引き取ろうか等とお考えになられたのでしょうか?」
「そうだな、強いて言えば、私のワガママだな。」
「ワガママ?」
「あぁ、私としてはアリーナを苦しめたアルトリアの事を許していない。だからこそ私の手元にて幽閉しようと考えたのだ。」
「それでは侯爵閣下にとって不利益なのでは?」
「勿論、タダで食事や寝床を与えるわけではない、それ相応の対価を払ってもらう。」
「左様でございますか、此度のお申し出、有り難くお受けいたします。」
「だ、旦那様、お待ちを。リチャード様、本当によろしいのですか?」
「勿論だよ、アリーナ。これ以上、君を苦しめたくないからね。」
「・・・分かりました、よろしくお願いいたします。」
リチャードは優しく微笑むが、ワシは何かあると感じ取った、何もない訳がない。だがワシとしてはあの男がいなくなればいいと密かに思っていたので渡りに船とばかりに受けることにした。アリーナは戸惑っていたが最終的に受け入れる方向で決した。ワシは早速、警備隊に要請し、アルトリア・スレイブの捕縛を命じると、既に捕縛しており、牢獄の中にいるとの事・・・・
「あの者は牢獄にいるのか。それなら話が早い。突然だが私はこれからアルトリアを引き取りにいくよ、それでは私はこれにて失礼する。」
「お見送りを・・・・」
「いや結構だ、私はすぐにでもアルトリアの顔が見たいからな、サコン殿、アリーナ、お元気で・・・・」
見送りを断り、リチャードは馬車に乗り、屋敷をたった。ワシとアリーナはそれを見送った
「リチャード様にとんだ御迷惑をいたしました。」
「リチャード侯爵閣下は好意で申して下さったのだ。有り難くお受けしよう。」
「ええ。」
「やはり身内が心配か?」
「いいえ、私はあの者がリチャード様に無礼を働かないか心配です。」
「それを承知で引き取ることになったのだ、ワシら長い目で見守ることにしよう。」
その頃、アルトリアは警備局の牢獄にて飯を食っていた。貴族の子息とは思えぬほどの食いっぷりに牢番は呆れながら見ていた
「うまい!久し振りの飯だ!」
「おい、面会だ。」
「面会?」
「さぁ、どうぞ、こちらへ。」
アルトリアの前に現れたのは一人の貴族の男、アルトリアは「誰だ」と首を傾げると男が話しかけた
「アルトリア・スレイブだな?」
「そうだが?」
「私だ、お前の妹の元婚約者のリチャード・アルバイナだ。」
それを聞いたアルトリアは飯をひっくり返すほどの勢いで後退りした
「り、リチャード殿!」
「久し振りだな、お前がメイドと駆け落ちする前だったかな?」
「な、何のようだ、私を笑いにきたのか!」
「いやいやお前を引き取りにきたんだ。」
「俺を引き取りに?」
「あぁ、これ以上はサコン殿やアリーナに迷惑はかけられないからな。そこで私はお前を引き取ることにしたんだ。安心しろ、食事も用意するし屋根のある家もある。悪い条件ではないだろう?」
「うん!分かった!」
アルトリアは二つ返事で了承した。もう乞食生活ともおさらばでき、牢獄から出られるから良いことづくめだと、喜ぶアルトリアに、リチャードは冷めた目で見下ろしていた
「(精々、実験台として頑張るんだな。)」
その後、アルトリアは保釈されたが、手錠と足枷と口枷が付けられた状態で馬車に乗せられた。釈放されたのになんで罪人のような扱いを受けなければいけないのだと、困惑していると同乗していたリチャードが意味深な笑みを浮かべた
「ふふふ、お前が引き受けて助かるよ、実はな新しい新薬を開発してな、その実験台が必要になったんだ、そこでお前の事を知った。私は実験台を手に入れ、サコン殿とアリーナは御前がいなくなったことを喜び、お前は三食の食事と寝床を確保できた。皆が幸せになれる、まさに一石三鳥だ。」
それを聞いたアルトリアは耳を疑った。新薬の実験台!下手をすれば死ぬ可能性が高い。それを聞いたアルトリアはじたばたと暴れだしたです。すると御付きの騎士がアルトリアを気絶させた
「もう決まった事だ、それがお前の運命だ。」
その後、アルトリア・スレイブがどうなったのかは誰も知るよしもない




