94話:治療
島左近清興だ、【ガルバトロズ】の汚名を作り上げた張本人であるギュンター・フェスティバルが全国指名手配の身となった。話を察するに奴はコマイラを暗殺するために側近たちと共に脱走し、そこへ警備隊が駆け付け、隠れ家に突入し、残党を捕縛したらしい。残党はあっさりギュンターを売り、現在にいたる
「さて、ギュンターはどう出るかだな。」
恐らく変装をしてでも、ここへ来る可能性がある。創設時の最古参の立場であり、互いに顔を知っているだろう、念のために【お庭方】にも伝えており、もしギュンターがコマイラに会い凶行に及ぼうとすれば、始末する手筈である。捕縛は考えてはおらぬ、もし捕縛すればコマイラの存在が知れてしまうからな
「左近様。」
「ん、如何した。」
「はっ!ユカリ殿が参られました。」
「ユカリ殿が?とりあえず通せ。」
「はっ!」
与一はユカリを客間へ案内させ、ワシは身嗜みを整えた後、客間へ向かうと、どこか落ち着かない様子で座っていた。ワシの姿を見かけると、何事もなかったように挨拶をした
「しばらくですな、サコン殿。」
「あぁ、新年会以来だな。」
「そ、そうだな。」
「して何用で参られたのだ?」
「すまないが、サコン殿と二人だけで話がしたいんだ。」
ワシと話したいこと、他の者に聞かれたくない事があるようだな
「人払いだ。」
「ははっ!」
ワシは与一と使用人たちを下がらせた後もう客間にはワシとユカリだけが残った。するとユカリが突然、頭を下げた
「ユカリ殿、何の真似だ!」
「サコン殿、お爺様が失礼な事を言ってしまい申し訳ありません!」
「コタロウ殿が?」
話を聞くと、どうやらコタロウは曾孫の顔が見たかったらしくワシに対してユカリと夫婦になり、子供ができたら曾孫の顔が見れるのでないかという話を知って、祖父の冗談を詫びにきたという
「あぁ、その事が、別に気にしてはおらぬよ、コタロウ殿が酔った上で戯れで申したまでの事よ。」
「いいえ、サコン殿にはアリーナという伴侶がいながら、あのような失礼な発言、許されるものではない。現に私は祖父に言っていい事と悪い事があるとキツく注意しました!」
「左様か(コタロウ殿も災難じゃのう。)」
「はぁ~。」
「まぁ、戯れとは別にしてコタロウ殿が曾孫の顔が見たいというのは本心かもしれんぞ。コタロウ殿も御高齢だ、死ぬ前に曾孫の顔が見たい、それは人情だ。」
ワシはユカリを諭すとうにコタロウの思いを代弁し、それを聞いたユカリも流石に罰が悪そう顔をしていた
「サコン殿、私はこの通り、武芸のみに生きた武骨者、この生き方しか知りませぬ。」
「サマノスケ殿とはどうなのだ、かつては許嫁同士だったはずじゃ。」
「サマノスケ・・・ですか。」
「流石に昔のような関係には戻れぬか?」
「あやつに触られると不思議と拒絶反応というか何というか吹き飛ばしてしまいます。」
話を聞いた左近は考えた。サマノスケに触れられてそのような行動を取るのか、それとも男に触れられるのが嫌なのか、まぁ、サマノスケの場合は不可抗力といえるほどスケベな行動をしてしまうから、ユカリに折檻される事が多いが・・・・
「こればかりはワシでは解決できんな、ここは一旦皆を呼ぼう、もしかしたら打開策が見つかるやもしれん。」
「はい。」
ワシは一旦、与一、アリーナ、ウルザを呼び出し、事の次第を話した
「ふふふ、ユカリのお爺様も随分と冗談が過ぎるわね。」
「すいません。」
「アリーナ、気持ちは分かるが‼️酒に酔った上での戯れ言だ。ユカリ殿を責めるでない。」
「はい、ごめんなさいね、ユカリ。」
「いいえ。」
コタロウの戯れ言にアリーナは癇に触ったようでユカリは謝罪した。ワシはアリーナを気遣いつつも嗜め、アリーナも流石に言い過ぎたか、ユカリに謝罪した。話を聞いていたウルザは質問をした
「サマノスケの行動?は別としてユカリは男に触れられるのが嫌なの?それともサマノスケって人に触れられるのが嫌なの?」
「それは・・・・」
「だったらさあ、主様とウチの人と握手してみたらどう?」
「ウルザ、何を言ってるんだ、お前は!」
「握手くらいならいいでしょ、ねえ、奥様。」
「それくらいなら・・・・」
「試しにやってみるか、ユカリ殿は如何いたす?」
「は、はい。やってみます。」
ワシと与一はユカリと握手をすることにした。まずワシが最初でユカリと握手をした。互いに手と手が触れ、お互いに握りあった。改めて握手してみたが、ユカリの体温が伝わってくる。手もスベスベしてて、ワシは思わずドキッとしてしまった。そこへウルザが止めた
「はい、終わりです。はい次の人。」
「あ、あぁ。」
ワシは一旦、手を離すとユカリは少し顔を赤らめていた。次に与一と握手をしつつ時が過ぎ、ウルザが止めた。結果的にワシと与一が握手をしても拒絶反応が起きなかった。どうやら男に拒絶反応が発生したわけではなさそうだ
「う~ん、主様とウチの人に触れても拒絶反応がしないと言うと、やはり・・・・」
「決めつけるのは早い、肝心のサマノスケに触れてみないと分からないではないか。」
すぐに結論を急ぐウルザを止めに入る与一、これは直接調べるしかないな
「与一、すまんがサマノスケ殿を呼んでくれ。」
「はっ!」
「ユカリ殿、それで良いな。」
「はい。」
与一がサマノスケを呼びに行くのに待つこと数十分、ようやく帰ってきた与一、サマノスケを無理やり連れてきた
「えっ!何故私は呼ばれたの?というかなんでユカリがここに?」
「用というのはな、ユカリ殿と握手をしてほしい。」
「あ、握手?」
「できんのか?」
「え、いや、話が見えないのですが・・・・」
「理由は後で話す、ほら早く。」
「分かった。ゆ、ユカリ。」
「う、うん。」
とりあえずサマノスケはユカリと握手することにした。すると握手する寸前にユカリの手がわずかばかり震えていた。何か嫌な予感がした
「アリーナ、ウルザ、主らは下がってろ。怪我をするぞ。」
「「は、はい。」」
「左近様。」
「与一、頼むぞ。」
「御意。」
ワシと与一は構えつつ、アリーナとウルザを下がらせた。ユカリとサマノスケが握手をした瞬間・・・・
「キエエエエエエエ!」
「ぐほっ!」
ユカリはサマノスケとの握手を振りほどき、そのまま顔面ストレートを食らわした。ワシはユカリを羽織締めし、与一は殴られたサマノスケを遠くへ避難させた
「落ちつけ!」
「はぁはぁはぁ、はっ!」
ユカリは我に帰ると、そこに鼻を抑えた状態のサマノスケを見下ろすと即座に謝罪した
「す、すまない!」
「な、なんのつもりは・・・・」
「いや実はな・・・・」
ワシがこれまでの経緯をサマノスケに話した。それを聞いたサマノスケは肉体的にも精神的にも苦痛を味わうほどの衝撃を覚えた
「もしかして俺、嫌われてるのか・・・・」
「いや、それは・・・・」
「ははは、いいんだ。俺っていつもお前にあのような事をしていたからな。」
サマノスケは不可抗力であろうとも己の仕出かした事を自覚していた。いつ嫌われてもおかしくないが、まさか今になってそれに気付かされるとは思いもしなかったサマノスケの胸中は諦めの境地だった
「元を正せば俺が悪いんだ、立身出世なんか考えずにお前を裏切ったんだから・・・・」
「サマノスケ。」
「ユカリ、いい人を見つけてくれ。」
サマノスケはその場を立ち去ろうとした瞬間、ユカリはサマノスケの腕を掴んだ
「まて、サマノスケ!私は決してお前の事が嫌いではないぞ!」
「えっ。」
「だから時が欲しい、だから・・・・」
「ユカリ。」
端から見ているワシらを尻目に二人の世界に入るユカリとサマノスケ、するとあることに気付いた
「左近様、ユカリ殿が拒絶反応を起こしておりませぬな。」
「あぁ、分からぬものだな。」
「これって一件落着でいいのかしら。」
「そういうことにしときましょう。」
ワシらはユカリとサマノスケ、二人の行く末を気長に待つことにしたのであった




