92話:新年
島左近清興だ、新しい年を迎えつつ、皆が無事に一年を過ごせるよう神仏に祈った
「(南無八幡大菩薩よ、今年は何事もなく過ごせるお祈り申し上げまする。)」
ワシがそう念仏をすると扉からノック音がした。ワシは許可を出すとアリーナが姿を見せた
「旦那様、皆様がお見栄にございますよ。」
「今、参る。」
左近はアリーナと共に屋敷の外へ向かうと、そこには多くの人がいっぱいいた。今日の昼頃に新年会が始まり、親しい人々と新しい年を祝うためである。そこへ与一に抱かれているアルグレンを見かけた
「ちち!はは!」
「アルグレン。」
此度の新年会にはアルグレンにとっては初めての新年会であり、初の御披露目である
「よお、サコン。」
「相変わらずだな、ベーカリー。」
そこへベーカリー、ユカリ、コタロウ、何故か傷だらけのサマノスケらが駆け付けた
「サコン殿、アリーナ殿、与一殿、明けましておめでとうございます。」
「「「明けましておめでとう(ございます)」」」
「フォフォフォ、明けましておめでとう。」
「「「明けましておめでとうございます。」」」
「明けましておめでとうございます。」
「サマノスケ殿、明けましておめでとう。」
新年会で様々な人々と新年の挨拶を述べつつ、乾杯の音頭を取ることにした
「ええ、此度は新年会にお集まりいただき、心より感謝いたす。何事もなく平穏に過ごせる事を祝して乾杯
!」
「「「「「乾杯!」」」」」
乾杯をし終わった後、それぞれ賑やかに酒を飲んだり、食事をしたり、話をしたりした。ワシも酒を飲みつつ、様々な人々と会話をした。アルグレンも途中で疲れて寝てしまい、アリーナはアルグレンを連れてウルザと一緒に屋敷へ戻っていった。今はユカリと一緒に酒を飲んで談笑している
「サコン殿、ロゼットや他の皆が来たがっていたのだが、客の相手をしなければいけないからな。」
「皆は息災にしておるか。」
「あ、ははは、サコン殿が結婚してから全然来ない事を愚痴っていたぞ。」
「一応、ワシは妻子持ちだがな。それにアリーナが許しはしないだろ。」
「それは分かってる、ただの愚痴だと思って聞き流してくれ。」
「ロゼットオオオオオオオオ!」
「「うわっ!」」
ワシとユカリがロゼットの話をしていると、そこへベーカリーが突然、奇声を発した。周囲もどよめき、ベーカリーの方を向いた
「そうか、ロゼットの奴、そんなに寂しかったのか!」
「べ、ベーカリー、主は何を・・・・」
「サコン、すまんが野暮用ができた!それじゃあな!」
「おい!」
ワシが止めるのも聞かず、ベーカリーはそのまま新年会を退出した。恐らくロゼットの下へ行ったのだろう。あやつまだ諦めてなかったのか。ワシと共にいたユカリはバツが悪そうな顔をしていた
「私、余計な事を言ってしまったか。」
「気にするな、奴のいつもの発作だ。」
ワシはユカリを気遣いつつ、別の話をふることにした
「ところでサマノスケとはその後はどうだ。」
「サマノスケ・・・・か。」
「何か問題でもあったか?」
「いや、そうではないんだ。」
「おーい!ユカリ!」
サマノスケの噂をしていると、そこへ当の本人が現れた。するとユカリは明らかに不機嫌そうな顔をして、無視した
「サマノスケ殿。」
「おお、サコン殿!」
「何かあったのか?」
「え、いや、実は・・・・」
新年会を始まる前日、ユカリとサマノスケは新年会に持っていく土産を選んでいると、ふとサマノスケが何もないところで躓き、そのままユカリを押し倒してしまった。サマノスケは立ち上がろうとした瞬間、手がユカリの豊満な胸を揉みしだいており、それに烈火の如く怒ったユカリにボコボコにされたのだという
「それは主が悪いぞ。」
「はい、反省してます!」
「当の本人も反省してるんだ、許してやっておくれ。」
「分かりました。サマノスケ、昨日の事は許すわ。」
「おお、ありがと・・・うお!」
サマノスケがユカリに駆け寄ろうとした瞬間、また躓きそうになり、ユカリは足で踏ん張り、サマノスケを受け止めようとした瞬間・・・・
「なっ!」
踏ん張りが効いたのか、倒れはしないもののユカリの胸にサマノスケの顔が埋まった。それを見ていた左近を始め周囲の人々がどよめいた
「んん、何かいい匂い、(モミュ)この柔らかい食感は。」
サマノスケが顔を上げると、そこには般若のような剣幕で睨み付けるユカリの面相があった。思わずサマノスケの手がユカリの豊満な胸を揉みしだいており、怒りが再骨頂に達した
「すまん、わざとじゃ・・・・」
「この腐れ外道ガアアアアアアアアアア!」
「あべし!」
ユカリの強烈なアッパーによって宙高くサマノスケが吹き飛び、そのまま地面に勢いよくぶつかった
「アホ!バカ!シネエエエエ!」
そのままユカリは激怒し新年会を後にしたのである
「ま、まっへくへ・・・・」
サマノスケは起き上がり、そのままユカリの後を追いかけていった。残されたワシらは黙って見届けることにした
「大戯けじゃな。」
「フォフォフォ、あの二人らしい。」
「ん、コタロウ殿か。」
相変わらず気配を感じずに姿を現すコタロウにワシは身震いを感じた。それを知ってか知らずか、コタロウはワシの側近くに現れる。もし敵だったらと思うと背筋がぞっとする、というか何か酒臭いな・・・・
「色々とあったのう。」
「ええ、こうして平穏に過ごせるのがよろしいですな。」
「そういえばサマノスケの家に泊まっていた知り合いの姿が見えんが?」
「ああ、ワケあって新年会を辞退してござる。」
サマノスケの知り合い、そう【ガルバトロズ】元教祖であるコマイラ・ガルバトロズ、現在はコマネンという偽名で今は【お庭方】の監視の上で幽閉生活を送っている。新年会に来ないのも、この男は全国指名手配のため、出たくても出られない事情があり、当の本人も辞退している
「アルグレン坊を見たが、なかなか利発そうな子じゃ。」
「これは忝い。」
「ワシもそろそろ年じゃからのう、早くひ孫の顔が見たいのう。」
「できるといいですな。」
コタロウの願いは一日でも早くユカリの子供、つまりひ孫の顔が見たいらしい。当の本人たちが何とかするしかないが、先程の一件以来、遠のいていくのを感じた
「やはりサマノスケじゃ、無理かのう。」
「いやいやまだ分かりませぬぞ、きっかけによって変わるやもしれませぬぞ。」
「ふむ、サコン殿はユカリの事をどう思っている?」
ふとコタロウはユカリの事を聞いてきた。ワシとしては異性の朋輩程度しか見ていないが・・・・
「まあ、異性の朋輩だが。」
「それだけか?」
「仰る意味が分からぬが?」
「いや、もしユカリとそなたが夫婦になっていたらの話じゃ。」
「ワシとユカリ殿が?」
「そうじゃ、もしかしたらユカリとの間に子供、つまりワシにとってひ孫の顔が見れると思ってのう。ワシから見て、ユカリもまんざらではなさそうじゃったからのう。」
コタロウの口から夫婦の話に出た。コタロウいわく、もしワシとユカリが夫婦になっていたら、もしかしたらひ孫の顔が見れるんじゃないかと期待していたらしい
「コタロウ殿、流石に戯れが過ぎる。」
「酔っぱらい爺の戯言じゃ、フォフォフォ。」
些細なハプニングはあったものの、滞りなく新年会は終わり、陽もすっかり傾き、客もぞろぞろと帰っていった。使用人たちが片づけをしている間、ワシは屋敷へ戻り、アルグレンの顔を見に向かうと、そこにはアリーナとアルグレン、ウルザとヨームの4人で遊んでいるのを見かけた
「旦那様。」
「何だ、ヨームも交じって遊んでおったのか。」
「ちゃい!」
「すいません主様、ヨームを放っておくわけにもいかないので。」
「気にするな。」
「もう新年会は終わりましたの?」
「ああ、些細な事があったが無事に終わった。」
「御役目ご苦労様です、旦那様。」
「ああ、今日は疲れたわい。」
その頃、コマネンこと、コマイラ・ガルバトロズは家の中で酒と枝豆を味わいながら静かに一人寂しく新年を過ごした。今年は警備隊に見つからずに静かに暮らせたが、本音はやはり新年会に参加したかった
「うう、やっぱり寂しいな。」




