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91話:没落の理由

島左近清興だ、ワシらの目の前にいる浮浪者は自らをアルトリアと名乗り、更に没落したスレイブ伯爵家の者だと名乗った。スレイブ伯爵家ってアリーナの元実家ではないか。顔をよく見てみると酷くやつれているが、美形の面差しがあった。当のアリーナは驚愕した表情で浮浪者を見つめた


「え、え、ま、まさか・・・・」


「懐かしや、我が妹よ・・・・」


「今さら何の用ですの!」


するとアリーナは烈火の如く怒り出した。ワシと与一は突然、怒り出したアリーナに驚きつつも、ただ事でないと察知し、先に屋敷へ入らせようとしたら・・・・


「アリーナ、すまなかった。」


すると例の浮浪者は土下座をした。あまりの事に流石のワシも与一も困惑しつつもアリーナの怒りは収まらなかった


「貴方のせいで家が没落して、お父様もお母様は失踪し、残された私はどんな思いをして生きてきたか分かってるのですか!」


「・・・・すまない。」


「アリーナ、一旦屋敷へ戻れ。後はこちらで済ませる。」


ワシはアリーナを先に屋敷へ入れると、ワシは手元に日本刀を出現させた後、刀を抜いた。そして例の浮浪者の下へ向かい、問い詰めた


「主はアリーナの兄と申したな。なぜここへ来た?」


「・・・・風の噂でアリーナがここにいると聞いて・・・・」


「アルトリアと申したな、主がスレイブ伯爵家を没落させた理由は何だ?」


「・・・・駆け落ちです。」


「駆け落ちじゃと?」


アルトリアいわく、家同士が決めた婚約者がいたのだが、美しいメイドに一目惚れし、メイドと共に駆け落ちしたのだとか・・・・


「その様子だとメイドに捨てられたか。」


ワシがそう尋ねると、アルトリアは黙りこくった。一時の感情に流されたせいでスレイブ伯爵家は没落し、アリーナは娼婦として生きていかなければいけないほど苦しい思いをした。ワシはアリーナの最初の客として、そして初めての男として、そして夫としてアリーナを大切にしてきた。そう思うと、こやつの身勝手さにムカムカしてきた。いますぐにでも、斬り殺してやりたい気分だ


「悪いことは言わん、今すぐここから立ち去れ。スレイブ伯爵家はもうない、それにアリーナは怒り心頭だ。」


「で、ですが。」


「ワシも今すぐ主を斬り殺したい気分なんだ、何度も言わせるな。」


ワシはそう言うと、刃をアルトリアに向けた。アルトリアもこれ以上、何も言えずにいた。そこへ与一が駆け寄ると地面に銀貨10枚を放り出した


「ほれ、それをやるから、2度と我等の姿を見せるな。」


アルトリアは銀貨10枚を手にした後、そのまま退散するのであった


「左近様、あやつ始末いたしますか?」


「放っておけ。」


「しかし。」


「もし再び現れたら力尽くでも追い返せ。」


「はっ。」


ワシらは屋敷へ戻ると、アリーナはウルザに慰められていた


「アリーナ、大丈夫か。」


「・・・・はい。」


「すまなかった、今回の事はワシが浅はかであった。」


「いいえ、旦那様のせいでは・・・・」


ワシはアリーナに詫びを入れたのちにウルザが問いかけてきた


「それで例の男はどうしたんですか?」


「あぁ、金だけ渡して帰らせた。」


「そうですか、私だったらその場で引っ叩いてやりたいですわ!」


「勇ましいな、ウルザは。だが相手は武器を持っていないとも限らないから気をつけねばな。」


ワシはウルザの勇ましさを褒めつつも、早とちりはいかんと窘めた。アリーナはというと、ウルザの勇ましさに少し元気を取り戻した


「そうですわね!私も引っ叩いておけば良かったですわ。」


「そうか。」


「旦那様、御迷惑をおかけしました。」


「ワシは別に気にしておらぬよ。」


先程の劇的な身内との再会を果たした後、アリーナは大掃除に精を出した。よほどあの兄に会いたくなかったのか、一心不乱だった。特に物を捨てる時のアリーナの顔は鬼気迫るものがあった。ワシはアリーナを気遣いつつ、ようやく大掃除を終わらせた


「はぁ~、スッキリしましたわ!」


「それは良かったな。」


アリーナも今までの鬱憤を掃除で晴らした事でようやく元気を取り戻した。ゴミを袋に入れて、使用人たちに任せたところ、アリーナは先程の男との話をし始めた


「旦那様には教えていませんでしたね、家が没落した理由の事。」


「あ、ああ、誰だって話したくない過去が1つや2つあるものだからな。」


「お気遣いありがとうございます。」


「あの者は婚約者を捨ててメイドと駆け落ちしたと申しておったが・・・・」


「えぇ、兄には婚約者がいたんです。相手は侯爵家、私たちの実家よりも身分が上で、しかもこの婚約は国王陛下も認めている事もあって兄の駆け落ちは予想外の事でした。そのおかげで婚約者の実家である侯爵家は面目を潰され、国王陛下に訴えました。結果はご覧の通りですわ。」


「そうか。」


アルトリアの申していた通りだな、メイドと駆け落ちして、今は完全な物乞いとして生きているあたり、奴自身も後悔しているとみえる


「アリーナ、不謹慎な事を申すが、ワシとこうして主と会えて良かったと思っている。もしそなたが貴族の令嬢だったらワシらは赤の他人として生きていたのやもしれん。」


ワシは己の心中をアリーナに伝えた。あの者が駆け落ちしていなければ、アリーナと会うこともなかったし、こうして夫婦にもなれなかった。その点についてはかの者に些か感謝せねばなるまい


「ありがとうございます、旦那様。私も旦那様と夫婦になれて嬉しいですわ。」


「アリーナ。」


「旦那様。」


二人だけの世界に入り浸っている左近とアリーナを陰ながら見守る与一とウルザ・・・・


「主様と奥様は色事に夢中ね。」


「あぁ、なかなか話し掛けづらいな。」


「これは2人目の子供ができるかもね。」


「なぜそう思うんだ。」


「女の勘って奴よ。」


それから1週間が経ち、うっすらと雪が積もり始めた。ワシらは雪をはらって、積もらないように塩を撒いていると、そこへまたアルトリアが現れた


「左近様。」


「とりあえず用件を聞いてこい。」


「ははっ!」


与一がアルトリアに近付き用件を聞いた。すると与一はアルトリアに折檻を加え始め、更に怒声をアルトリアに浴びせた


「2度と申したであろうな!それにも関わらず金の無心とはどういう了見じゃ!」


「すいません、すいません。」


どうやら金の無心に来たようだ、与一もワシの命を忠実に守っているのか、折檻をするだけで、殺しはしなかった。だが流石にこれ以上やれば死んでしまう可能性があるので、ワシは止めた


「帰れと申すに!」


「もう良い、与一。」


与一の折檻を受けたアルトリアは観念して、そのまま立ち去った。アルトリアはボロボロな状態で立ち去る後姿はあまりにも小さく感じた


「与一、とりあえず手を洗え。」


「はっ。」


与一の手には血に濡れていた。恐らくあの者の返り血だろう。ワシは与一と共に屋敷へ入ると、そこへアリーナとウルザが駆け付けた


「旦那様、何かあったのですか?」


「ああ、屋敷をうろつく酔っぱらいを追い返したところだ。」


「お前さん、その手!」


「ああ、あまりに抵抗するからやむを得ずな。」


「そう、ですか。」


アリーナは何かを察したのか、それ以上、何も言わなかった。それ以降、あの男は屋敷に姿を現さなかった。それから数日が経ち、ワシは馬に乗り【お庭方】と共に領内の視察をすると、白昼堂々と物乞いをするアルトリアの姿だった。アルトリアはワシの姿を見かけるとそそくさと去っていった。そこへ警備隊が駆けつけワシに挨拶した


「御視察、ご苦労様です。」


「うむ、お役目ご苦労に存ずる。」


「先程の男は最近、この町に流れ着いた輩でああして物乞いをしてるんです。」


「そうか。」


どうやらアルトリアは寒さの中でも物乞いを続けていたようだ。ワシは一刻の早くここから去ってほしいものだ。どちらにしても奴はアリーナとその家族の人生をどん底に落とした張本人であり、ワシはこれ以上、アリーナを傷つけたくない


「馬鹿な男よ。」


「何か?」


「いや、何でもない。あの男はどういたすのだ?」


「はい、もし辞めなければ町から追放、もしくは捕縛します。」


「そうか。」








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