86話:象討伐
島左近清興だ、シュバルツ王国の国境を越えて侵入した暴れ象は負傷しつつも真っ直ぐこちらへと向かっているとの事だ。ワシらは【お庭方】の知らせを待っていた
「サコン、まだか。俺は早く象を仕留めたくてウズウズしてんだ!」
「落ち着け、今のうちに乾パンや金平糖でも食しておけ、腹は減っては戦ができぬからな。」
「わあったよ。」
ベーカリーは乾パンと金平糖をバリボリと音を立てながら食べ始めた。豪快かつ粗野な食べ方にワシと与一は相変わらずだなと苦笑いをした、そうこうしているうちに、サスケが戻ってきた
「左近様、サスケが戻って参りました!」
「うむ。」
「旦那様!」
「それで、どうであった。」
「暴れ象は真っ直ぐこっちに来ております!」
「来たか!与一、獣避けの準備をせよ!」
「ははっ!」
与一は合図を送り、火をつけ、獣避けの臭い袋を入れた。更に火を強くし、獣避けの臭いが辺りを充満させた。その頃、象は真っ直ぐ島左近の治める領地へと向かっていった。そして獣避けの臭い袋に反応した
「バオオオン。」
象は臭いを嫌い、別の方向へと足を進めた。象は例の餌場の所へと向かっていった。餌場へ向かっていることを確認した【お庭方】は狼煙を上げた。狼煙が上がったのを確認した左近は直ちに馬に乗り、餌場へと向かった
「よし、我等は直ちに餌場へと向かう。」
「よっしゃあ!待ってたぜ!」
「ドジるでないぞ。」
「おめえもな。」
与一とベーカリーは互いに軽口を叩き合いつつ、馬に乗り、現場へと向かった。その頃、象は臭い袋からようやく離れた所、かすかに餌の臭いに気付いた
「パオオオオオン!」
発情期の時期になっても、やはり腹が減っていたのか、餌場へと向かっていった。それを確認した【お庭方】は再び狼煙を上げた。馬での移動中、狼煙を確認し、左近らは真っ直ぐ現地へ向かった
「パオオオオオン。」
象はようやく餌場に到着した。それと同時に左近らも到着し、物陰に隠れた。既に象は餌場の近くに来ており、餌場に少しずつ近付いていった
「さぁ、貴様の餌だ、たんと味わえ。」
左近らは今か今かと象が餌場に近付くのを待っていた。象は我慢できずに近付いた瞬間、ズボッと地面が沈み、象の巨体はそのまま落ちていった
「ヴァオオオオオン!」
象は虎落落としに引っ掛かった。象の足に竹槍が突き刺さった。象は激痛のあまり、悲鳴を上げ何とか抜け出そうとしたが、すっかり巨体は見事に穴に嵌まってしまい、身動きが取れずにいた。それを確認した左近は与一に命じた
「与一、弩だ!」
「はっ!」
与一は弩を用意し、矢に唐辛子粉の詰まった袋をつけ、発射した。発射した矢は象の近くに突き刺さると同時に袋が破裂し、唐辛子粉が象の周りに充満した
「ヴァオオン、ヴァオオオオオン!」
唐辛子の粉が目に入ったのか、象は悶え苦しみ出した。暴れると余計に穴に嵌まり、どうすることもできずにいた。それを確認した左近は号令をかけた
「掛かれええええええ!」
雷鳴の如き号令に与一やベーカリー、【お庭方】が一斉に襲いかかった。左近も手元に朱槍(投槍)を出現させ、象に目掛けて投げた。投槍はそのまま象の胴体を貫いた
「パオオオオオン!」
象が悲鳴をあげたが、身動きが取れず、そのまま左近らの攻撃を受ける羽目となった。象は鼻と牙を使って必死で抵抗するも、【お庭方】が象の両目目掛けて、手裏剣を放ち、両方とも命中した。象は両目を潰され、おまけに身体中を攻撃され、抵抗できずにいた。そこへ、ベーカリーが大薙刀を振り回しながら、象の背後を取った。ベーカリーは象の巨体に乗りつつ、象の頭に近付いた
「これでも食らいやがれ!」
ベーカリーは大薙刀を象の首に目掛けて突き刺した
「パオオオオオン!」
象は首辺りから激痛が走り、力強く振りほどこうとした。ベーカリーは振り落とされないように、大薙刀を掴み続けた。首筋からは血がドバドバと溢れ出すと同時に象の抵抗が少しずつ、衰えていき、やがて息が乱れていった。象の目が虚ろになり、そのまま息耐えたのであった。その様子を見た左近は・・・・
「主に恨みはないが、これ以上、暴れられては困るからな。安らかに眠ってくれ。」
左近は片手合掌をし、象の冥福を祈った。こうしてジュリアス王国とシュバルツ王国で大暴れした巨象騒動が集結したのである。山から下りた住民は、怖い物見たさに象の姿を見ようと続々と押し寄せた。警備隊はそれを押しとどめつつ、死んだ象の検分を始めた。ワシらは象の事を警備隊に任せ、屋敷へ戻り、地下にいるアリーナたちを地上へ出した
「旦那様!よくぞ御無事で!」
「アリーナ、もう事はついたぞ。」
「本当ですか、主様!」
「ああ、皆も無事だ。」
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
「おお、アルグレン、父は戻ったぞ!」
アリーナたちに象を倒した事や皆が無事であることを報告すると、安心したのか、その場でへたり込んだ。ワシはアリーナを抱えつつ、やっと我が家に戻れたと安堵した。それからして軍が到着すると、既に象は検分し終わった後で、その事を警備隊が騎士団長に伝えると、そのまま帰還したのである
「左近様、軍も帰って行きましたし、めでたしめでたしですな。」
「あぁ、領地も被害がなくて、良かった。」
軍は王都へ帰還し、騎士団長によって国王ロバート・シュバルツに報告された。報告を受けたロバートはすぐに衛兵に命じてルナ・キサラギを呼ばせた。その後、衛兵と共に参ったルナが参上した後、家臣たちを下がらせた
「象討伐の一件、聞いておるな。」
「はっ!」
「討伐したのはサコン・シマとその一党だそうだ。」
「何と!」
「さてここで問題だ、国を救った功労者にどう報いるべきかだ。」
「畏れながら陛下、サコン・シマは貴族になりたくないと常々に申しておりました。ですが事が事だけに何の褒賞もなしでは済みませぬ。」
「そこが問題なんだ。貴族に興味がない者に爵位を与えても、奴からしてはありがた迷惑でしかない。」
「水を差すようで悪うございますが、再びサコン・シマに貴族への昇進の声が高まってきております。」
それを聞いたロバートは頭を抱えた
「当人は貴族への野心がない、貴族たちは奴を貴族に昇進させようとする、全く頭の痛い事よ。」
ロバートは取り敢えず左近らへの褒美を後回しにし、今は領内の復興に尽力した。特に国境を守る砦の修復が急ピッチで進められた。もし他国がこれを機に侵略する可能性があるため、警備は厳重であった
一方、島左近の治める領地は特に被害がなく、いつも通りの平穏な生活を歩んでいたが、唯一不満を抱く男がいた
「おいおい、いつになったら褒美が出るんだよ。」
「落ち着け、ベーカリー。今は暴れ象の被害による復興が先だ。」
そうベーカリーである。暴れ象で活躍し、褒美が来るのを今か今かと待っていたが、全く来ず、不満たらたらであった
「主には雇い料として金貨10枚をやっただろう。それでも不満なのか?」
「俺が欲しいのは国王陛下からの褒美だよ。お前の出した雇い料とは別だ。」
「はぁ~、全く・・・・」
ワシはベーカリーを宥めつつ、通常通り領地経営を行っていたが、最近では象の被害を受け、町や村を捨てた難民が続々とワシの治める領地へ押し寄せてきた
「これは不味いぞ。難民が押し寄せれば、食糧が不足してしまう!」
「如何いたしますか?」
「警備隊に難民の相手をさせるしかない。」
正直、食糧にも限りがあるし、領民と難民が食糧を巡って激突する可能性がある。突然の難民に警備隊が総動員してなるべく別の土地へ行くよう促しているが、テントを張ってそのまま居座る難民も出ているため、猫の手も借りたいほど忙しい・・・・
「他に行ってほしいわ、はぁ~。」
改めて象の被害の大きさに頭を抱える左近であった




