83話:キチガイ
ここは【ガルバトロズ】のアジト、ここに破戒信者たちが巣食っていた
「くそ、またアジトが潰されたぞ!」
「コマイラの野郎が脱走してから、ずっとこの連続だぞ!」
コマイラが本部を出奔した後、本部の過激派信者たちによって続々と破戒信者や破門された元信者たちの巣窟と化した支部を潰しまくった【神殿血祭り事件】の真っ最中だった。逸早く事に気付いた一部の者たちはアジトに集結したのである
「皆の者、我等にできることは、ただ一つだけある。」
この男の名はギュンター・フェスティバル、破戒信者たちの頭目である。見た目は黒髪で肩まで伸びた長髪、顔は痩せこけており、目の下には隈があり、肌は色白を通り越して、血色がなく不健康そのもので如何にも陰険な顔つきをしていた。この男こそ、元勇者で脱獄犯であるチャブム・ブレスとコバヤシを麻薬漬けにした張本人でもある
「ギュンター殿、その一つとは何だ。」
「それはコマイラを始末することよ。」
「何だと!」
「奴らは出奔したコマイラを未だに教祖として崇めている、なれば本部の者よりも先にコマイラを見つけ出し、始末するのよ。」
「ですが肝心のコマイラはどこにいるのかも分からないのですぞ。」
「案ずるな、我等には闇のルートがある。」
ギュンターは闇のルート、裏社会の人間たちの持つ情報網を使い、コマイラの居場所を突き止めようとしたが、運が良いのか悪いのか、コマイラは変装しており、見つからなかった
「ギュンター殿、見つからぬぞ。」
「慌てるな、奴とて人だ。金も無くなり、腹も減るだろう、そこを抑えるんだ!」
そんな中、コマイラの指名手配書が各国に出回り、やがてはギュンターたちの下にも届いた
「ギュンター殿、厄介な事になったな。これでは奴も迂闊には姿を見せなくなるぞ。」
「いや、これはチャンスかもしれん。」
「チャンスとは?」
「警備隊に捕まれば、本部の奴らは必ずや後継者をあげるだろう。コマイラの後継者は自分だと名乗りをあげ、ついには殺し合いに発展する、そうすれば我等は奴らからの追撃を逃れることができる。」
「なるほど。」
しかし待てど暮らせど、一向にコマイラが捕縛されたという知らせが来ない。流石のギュンターにも焦りが見え始めた
「あり得ぬ、手配書が出回っていると言うのに!」
「ギュンター殿、落ち着かれよ!」
「そうですぞ!」
周囲に諭され、ようやく落ち着きを取り戻したギュンターは1つの考えが浮かんだ
「誰かが匿っている可能性がある。」
「ははは、まさか。」
「そうですよ、百害あって一利なしのような行為をする愚か者がいるわけがない。」
周囲からあり得ないの声ばかりが響いた。ギュンターは内心、愚か者の相手は疲れると思いつつも、自分の推測を述べた
「いいや、私と同じ考えを持つ輩がコマイラをどこかへ隔離しているんだ。」
「何のために?」
「後継者争いを阻止するためだ。未だに後継者争いが起きていないのが証拠だ。何者かがコマイラを隔離しているからこそ、【ガルバトロズ】は平穏を保っているのだ。」
「まさか。」
「偶然の一致じゃないのですか?」
ちっ、この能無しどもが!ギュンターは内心、舌打ちと罵倒をしつつ、コマイラの行方を血眼になって探すのであった
島左近清興だ、与一と共に我が子の成長を見守りつつ、領内の経営に尽力していた。そんなある日、刃傷が起こる寸前の事件が起こった。それは1人の男が【サコン町】町内にて、ナイフを振り回そうとしたところ、巡回中だった【お庭方】の手によって取り抑えられたのである。それは偶然の出来事だった、男は周囲を見渡し、近くにいた男に向かってナイフを刺そうとしたが、相手が悪かった。それは私服警官ならぬ私服【お庭方】の者であり、男の気配に気付き、ナイフを避けた
「く、クソガアアアアア!」
男はナイフを避けられた事を怒り、今度は周囲の者に斬りかかろうとしたが、【お庭方】の手によってナイフを持っている腕を拘束し、関節を外した
「ギャアアアアア!」
男は関節を外された痛みに悲鳴を上げ、ナイフを落とした後に【お庭方】の手によって地面に叩きつけられたが、男はなおも暴れだす。そこへ周囲の男たちが助太刀に入り、男を取り抑えたのである。そこへ警備隊が駆けつけ、男は連行されたのである。結果、誰1人死傷者を出さずに事件は未遂に終わったのである
「まさか、刃傷が起こる寸前だったとはな。」
「はっ!斬りかかった相手が【お庭方】の者だったのが幸いにございました。もし他の民衆だったら、間違いなく死傷者が続出しておりました。」
「それで男は何故、刃傷を起こそうとしたのだ?」
「はっ・・・・」
すると与一が先を話すのを躊躇し始めた。何か言いにくいことがあるのだろうが、ワシは改めて与一を問い詰めた
「苦しゅうない、申せ。」
「はっ、男の供述いわく、左近様への反抗とのこと。」
「詳しく申せ。」
与一いわく、男は一代で地主になったことを嫉妬し、ワシの治める土地にて刃傷を起こし、恥をかかせたかったようだ。それで活気にあふれる【サコン町】にて暴れまわろうとしたが運悪く、取り抑えられ誰一人襲えなかったとの事・・・・
「それだけの理由でそのような事を起こしたのか。」
ワシに恥をかかせようとした結果、刃傷事件を起こそうとしたのだ。あまりに自分勝手な考えにワシは呆れて物が言えなかった。まさに卑怯者、いやそれ以下のする事だ・・・・
「それで男はどうなる?」
「はっ、事件は未遂に終わりましたが、このまま野放しにするわけにもいかず、男はアバシリン刑務所に収監されるとの事にございます。」
「はあ~、呆れて物が言えぬわ。」
事件は未遂に防いだ【お庭方】の者に金貨5枚と湖塩等を与え、事件は完結したかに思えたが、男はワシに会いたいをほざいたのである。アバシリン刑務所に収監される前に会いたいなど、どの口がほざくのやら・・・・
「左近様、このような狼藉者の戯言など聞き流されませ!」
与一は男の言動に腹を立て、会うには及ばぬと申したが、どうせ収監されるのだ、ワシは会う事にした
「会おう。」
「左近様!」
「ワシとしては何故、このような事をしたのか、直接聞いてみたいのでな。」
与一の説得を無視してワシは奴の収容されている警備局へ向かった。警備隊の者に案内され、奴のいる牢獄に向かった
「もしもの場合は、攻撃しても構いません、正当防衛として処理します。」
「それは忝ない。」
警備隊の者から反抗するなら折檻しても構わないとワシらに棒を渡し、許可を得たところで、男と対面した。男は警備隊の折檻を受けたのか、所々に痣やみみず腫れがあり、手足が拘束された状態だった、ふと男はワシに気付き、顔をあげた
「ワシがサコン・シマだ。用とは何だ?」
ワシがそう言うと、男は睨み付け、罵り始めた
「来やがったな!成り上がり者が!」
「貴様!」
「ぐほ!」
与一は持っていた棒で男の腹を鋭くついた。男は悶絶した。ワシは与一を止めさせ、問い詰めることにした
「ワシに恥をかかせようとしたとか、ワシは主の事を知らぬし、恨みを買うような事をしたか?」
男は再びワシを睨み付け、理由を述べた
「けっ、てめえは何の苦労もせずに地主になって、裕福に暮らしてやがる。そんなてめえに正義の鉄槌を下そうと思ったんだ!」
「正義の鉄槌?関係のない者を襲っておいて正義の鉄槌とは片腹痛し。もし正義の鉄槌を下したいなら何故、ワシを襲わん。主のやっていることは卑怯者、いや下種のやることだ。」
「くっ!そういうてめえだって、地主になる前は色んな奴を手にかけてきたじゃねえか!」
「貴様、先ほど好き放題いいおって!左近様、こやつの舌を引っこ抜いてしまいましょうぞ!」
「良い、与一。罵れ、今の貴様の罵りは負け犬の遠吠えにしか聞こえぬわ。」
左近の言動に男は呆気にとられた、左近は更に煽り続けた
「先程、貴様はワシが何の苦労もせずに地主になれたとかほざいておったが、そういう貴様は何だ?ワシを妬み、挙げ句の果てには牢獄に繋がれている。一時の感情に流され、このような愚挙を起こした貴様を負け犬と呼ばずして何と呼ぶのだ?いうてみい?」
それを聞いた男は発狂し、罵り始めた
「アアアアアアアアアアアア!成り上がり者!俗物がアアアアアア!」
「ハハハハハハハ!良い、もっと罵れ!罵られるのは久し振りだ!」
「アアアアアアアアアアアアアアアアア!」
男は最早、手足が拘束されても、暴れ続けた。警備隊が駆けつけ、直ぐに麻酔薬を打たせつつも、時間をかけて何とか取り抑えたのである。ワシらは警備隊に案内され、警備隊の玄関まで送ってもらった
「迷惑をかけて申し訳ない。」
「いいえ、我々もお呼びだてして申し訳ありません。」
ワシらは屋敷へ帰る道中、先程の男について思い出していた
「左近様、ああいう輩がいると民たちは心休まりませんな。」
「この世は万華鏡よ、何かのきっかけで形が変わる。形によって順応する者もいれば、ああいう輩も存在するのであろう。」
「世知辛いですな。」
「あぁ。」




