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80話:尋問

ここはコマイラ・ガルバトロズが幽閉されている一室である。あれ以来、音沙汰がなく、不安な気持ちでいっぱいであった


「あるから音沙汰無し、一応飯も出るしシャワーやトイレもあるから助かるけど。」


コマイラは見張り付きだが、飯は三食出て、シャワーやトイレにも行かせてくれるので、それほど不自由はしていないが、まだ自分を捕らえた張本人が姿を見せない事に不安が過った


「まさか警備隊に突き出すんじゃ・・・・いや、もしそうだったらとっくにやってる。」


だったら、何故自分は囚われの身になったんだ。コマイラは1人妄想に耽っていたところ、扉からノック音がして思わずベッドに逃げ込み身構えてしまう。そこへ先程の男が入ってきた


「我等が主が御面会したいとのことです。」


ついに来たかとコマイラは覚悟を決め、男の後をついていった。男に案内された場所は机と椅子、ガラス張りの窓以外、何もなかった。コマイラは男の指示に従い、椅子に座って待つようにした





島左近清興だ、ワシは今、魔法鏡マジックミラーと呼ばれる鏡の前に立っていた。どうやら向こう側はワシらが見えないようだ


「しかし、この異世界には魔法鏡という喜天烈なものがあったとはな。」


「ははっ!本来は犯罪者を尋問する際に、監視も含めて作られた物にございます。」


「それで尋問は誰がするのだ。」


「憚りながら、某が致します。」


「そうか、ではワシはここで監視させて貰う。」


「ははっ!」


部屋の中で1人ポツンと座っていたコマイラは暇潰しに鼻毛を抜いたり、鼻くそをほじって食べたりしていた頃、扉からノック音がして、ビビりまくった。すると扉が開くと、そこへ仮面をつけた与一が入ってきた。与一は見張りの男と一緒に部屋に入り、見張りの男は扉の前に立ち、与一はコマイラと向かい合うように座った


「コマイラ・ガルバトロズだな。」


「そ、そうだが。」


「私の質問に答えて貰う。偽りや質問以外の事をほざいたら即、警備隊に突き出すから、そのつもりで。」


「わ、分かりました。」


与一による尋問が始まった。最初は名前、出身地、年齢等、ありきたりの質問の他に【ガルバトロズ】の創設のきっかけについて質問がとんだ


「ほぅ~、では【ガルバトロズ】創設のきっかけは神託によって作られたと?」


「はい、信じて貰えないかも知れぬが、私は確かに神の声を聞いたのです。弱き者たちを助けよと、ハッキリと。」


「それで【ガルバトロズ】創設のきっかけになったと。」


「はい、最初は悪戦苦闘しました。人民救済と言っても金もかかるし、人手もいるし、何より信者たちを集めなければいけない。我ながら、ここまで辿り着きましたよ。」


「大きくするために犯罪を犯してでも資金や人手を手に入れたかったのか?」


「それは違う!」


「何が違うのだ、現に麻薬の栽培や売買が行われているではないか?」


「麻薬の存在が明らかになったのは、一部の不心得者が麻薬売買に手を染めていたことが始まりでした。我等は独自で調査し、彼等を破門したのですが、よりにもよって我等の名を使い、麻薬売買を行っていたことにより、【ガルバトロズ】は犯罪組織としてのイメージを受け付けられました。」


コマイラの話から察するに犯罪組織【ガルバトロズ】は、一部の破戒信者や破門された者によって、作られたものだった。コマイラ自身もなるべく穏便にすませたかったようだが、一部の者たちに利用され、【ガルバトロズ】の立場が危うくなったことを教えてくれた。魔法鏡越しから見ているワシも、コマイラは嘘偽りを申しているとは思えなかった


「1つだけ腑に落ちない事がある。なぜ教祖の立場にいながら組織を抜けたのだ?」


「はい、もう嫌気が差したんですよ。」


「何?」


「あれこれ行いましたが、一度植え付けられたイメージは簡単に取り消すことができず、むしろ悪化してしまった。各国からの締め付けが厳しくなり、もはや神託なんかどうでもよくなってしまったのです。」


「そのために多くの犠牲者を出した事について、どう考えているのだ?」


「・・・・それは。」


「主が脱走した事で信者たちが暴走し、破戒信者や破門された元信者を襲い、女子供に至るまで皆殺しにしている、その結果、主は全国指名手配されているのだぞ。」


「・・・・どうでもいいですよ。」


「どうでもいい?」


「もう何もかもが、どうでも良くなりましたよ。もう自分の事しか考えてませんでしたよ。もう【ガルバトロズ】なんて、私には不用なものです。」


コマイラはもう何もかもがどうでもよいという捨て鉢のような気持だった。そんな姿を間近で見ていた与一は溜め息をついた


「はあ~、そうか。確かに叩けば埃の出るようなところには長居したくない気持ちは分かる。だが逃げ出した所で、主の罪は免れないぞ。」


与一がそう問いかけると、コマイラの表情が曇り俯いたが、何かを悟ったのか、与一の方を向き直った


「さあ、警備隊に突き出してください。もはや私は逃げ出せぬ身なのですから。」


コマイラは覚悟からか、それとも捨て鉢ゆえか、完全降伏とも言える発言に与一は・・・・


「それは我等が主が決めることだ。」


「主って!貴方じゃないのですか!」


「私はあくまで主人の代理としてここに来たまでだ。おい、連れていけ。」


その後、コマイラは見張りによって連れ出された後、与一は左近も下へ向かった。魔法鏡を見ていた島左近は思案に暮れていた


「さて、どうしようか。」


左近が考えていると、そこへ与一がスッと左近の前に現れた


「左近様、あの者、如何致しますか?」


左近は与一の方へ顔を向け、一言・・・・


「些か迷うておる。」


与一は驚いた。いつもなら即決断される主の口から「迷っている」という言葉が出たのである。そう地主以来の事である


「与一、主から見て、あの男をどう思う?」


「はっ、一言で申すなら、好人物で小心者であると見受けられます。」


「好人物で小心者か。」


「それが何か?」


「うむ、その好人物がいたからこそ、【ガルバトロズ】があそこまで大きくなったのかと思うと、易々と警備隊に突き出せぬな。」


「何と!」


驚く与一を他所に左近は更に話を続けた


「本来であれば、教祖が失踪、捕縛、辞退、死亡したとなれば、必ず後継者を設けるのだが、【ガルバトロズ】にその兆しがなく、未だに教祖はコマイラ・ガルバトロズのままだ。与一よ、もしあの男を警備隊に突き出したとする。大黒柱無き【ガルバトロズ】は、その後どうなると思う?」


「恐らくは、次の後継者を探すでしょうな。」


「あぁ、本来であれば後継者は教祖が決めることなのだが、あの男はそのようなことをせずに逃亡した。与一よ、御館の乱を存じておろう。」


「上杉家で起こった御家騒動ですな。」


御館の乱のきっかけは軍神【上杉謙信】が亡くなっただけではなく、後継者を設けなかったことである。謙信と養子である上杉景勝と上杉景虎による御家騒動が起こり、上杉家は分裂し、弱体化したのである


「そう、必ず後継者を推す一派が続々と現れるだろう、そうなると御館の乱同様、骨肉争う御家騒動が起こり、やがては内乱が起こるであろう。」


「では逃がすのでございますか?」


「いや、それもできんな。せっかく捕まえた【ガルマトロズ】の教祖を野に放つわけにはいかん。ましてや警備隊に捕まりでもしたら、間違いなく御家騒動が起こる。」


それを聞いた与一は困惑した。警備隊には突き出したくないが、かといって逃すわけにもいかない。左近は迷いに迷っているのだ


「与一よ、これはなかなかの難題だな。」


「左様でございますな。」





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