79話:元婚約者
島左近清興だ、先程、【お庭方】より知らせがあり、【ガルバトロズ】教祖であるコマイラ・ガルバトロズを捕縛したとの事だ
「そうか、捕らえたか。」
「如何いたしますか、このまま警備隊へ送りますか。」
「その前に聞きたいことがある。」
「聞きたいこととは?」
「まぁ、色々だ。」
その頃、捕らえられたコマイラはというと、とある場所に囚われていた
「ん、ここは。」
コマイラは目を覚ますと、そこは部屋の一室だった。コマイラは突然、農民の変貌に驚くと共に、背後にいた何者かによって眠らされたのである。そしてどこなのかも分からずじまいである
「私はこれからどうなるんだ。」
コマイラは途方に暮れていると扉からノック音がした。コマイラは思わずベッドの方へ逃げ込むと、そこへ1人の男が入ってきた
「お目覚めでございますか、コマイラ・ガルバトロズ様。」
この男は自分を知っている。コマイラは何とか誤魔化そうと言い訳を並べ立てた
「違う、私はコマネンという旅の者だ。第一、手配書と違うだろう。」
「隠さなくても結構、貴方の事は既に調べておりますゆえ。」
「な、何を証拠に!」
「オルゴール。」
「え。」
「オルゴールに貴方とサマノスケお二方の会話を聞かせてもらいました。」
「な、何だと。」
まさかあのオルゴールに細工が施されていたのか。というか会話を聞かれていたのか。コマイラの頭の中は真っ白になり、もはや言い訳が浮かばなかった
「わ、私をどうするつもりだ。」
「それについては我等が主がお決めになりますゆえ。」
「あ、主だと。」
「では、ごゆっくり。」
「ま、待ってくれ。」
「言っておきますが、逃げ出そうとしたら、命は無いものと思ってください。」
それを聞いたコマイラの背筋がゾッとした。コマイラは部屋の中で大人しくしていることにしたのであった。一方、左近らの方は、コマイラの下へ向かおうとしたが、突然、来客があったのである。しかも相手はシュバルツ王国の貴族の馬車である
「また公家【貴族】か。」
「一体何用ですかな。」
「はぁ~、全く。」
とりあえず客間へとお通しさせ、ワシは身支度を整え、客間へ向かった
「お待たせして申し訳ありません、当屋敷の屋敷の主、サコン・シマでございます。」
そこには如何にも貴族の衣装を身にまとった赤みの帯びた金色の短髪、切れ長の碧眼、20代後半の色白の美丈夫が座っていた。こちらに気付き、姿勢を変えて尋ねて来た
「そなたがここの土地の地主か。」
「左様にございますが。」
「申し遅れたな、私の名はリチャード・アルバイナ、アルバイナ侯爵家の当主だ。ちなみに諸侯の「侯」の方の侯爵だ。」
「わざわざご教授いただきありがとうございます。して不躾ながら何用あって当屋敷へお越しになられたのでしょうか?」
「うむ、ここにアリーナ・スレイブがおると聞いたのだが?」
アリーナ・スレイブ、ワシと祝言をあげる前に名乗っていたアリーナが前の名前だ。なぜ、この男が知っているのだ
「畏れながら、アリーナとはどのような間柄でしょうか。」
「うむ、アリーナとは、かつては婚約を結んだ許嫁であった。」
何とアリーナが伯爵家の令嬢だった頃の婚約者だった。何故、かつての婚約者がここにいるのか、どうやって知ったのかは分からないが、ただ事ではなさそうだ。だがアリーナはワシの妻だ、例え相手は貴族で元婚約者であっても一歩も引くつもりはない
「御無礼を承知でお尋ねいたしますが、アリーナは今は某の妻にございます。それを今になって尋ねるとは。」
「勿論、無礼を承知なのは認める。だが彼女が無事であることを知りたいだけなのだ。もし、いるなら合わせてくれ!」
「・・・・承知した、与一。」
「はっ!」
「アリーナを呼んできてくれ、ついでにアルグレンもな。」
「はっ!」
「アルグレン?」
「某とアリーナとの間にできた息子でござる。」
「何だと!」
リチャードは驚愕した表情でワシを見つめた。与一はワシとリチャードにお辞儀をした後、部屋を退出してから、数分後、与一と共に、妻のアリーナと息子のアルグレンが客間に入った。アリーナは、かつての婚約者が現れたことに驚きつつも、挨拶を述べた。リチャードもアリーナが現れた事ですぐに立ち上がった
「お久しゅうございます、リチャード様。」
「ほ、本当にアリーナ・スレイブ嬢なのか。」
「はい、今はアリーナ・シマとして、この御方の妻にございます。こちらは旦那様と私の息子のアルグレンです。」
「まさか・・・・本当に。」
息子を抱き抱えるかつての婚約者の姿にリチャードは驚愕しつつも、すぐに冷静になり話を続けた
「アリーナ、伯爵家が没落して行方不明になったと聞いて、君を探し続けていたんだ。」
「はい、家が没落になってから、私は【ガルバ町】にある娼館【イザナミ】へ辿り着きました。」
「しょ、娼館だと!」
リチャードは耳を疑った。まさか娼館にいたとは夢にも思わなかった。娼館といえば金を払って、身体を売る商売だと、貴族の間で伝わっており、特に貴族の令嬢にとっては地獄ともいえる場所である
「私が娼婦に成り立ての頃、初めての仕事で体調を崩してしまったところを、この御方に救って貰いました。その頃から、私と旦那様は懇意の仲になり、私は旦那様に身も心も捧げ、そして今に至ります。」
「そ、そうだったのか。」
「はい、こうして息子を授かり、今は幸せです。」
アリーナの屈託のない笑顔にリチャードは身体から力が抜けた心地になった。だが不思議と心が晴れ晴れとなっていた
「そうか、それを聞いて安心した。」
リチャードは安心したのか、長椅子に座った。リチャードは今までの経緯を話してくれた
「今さら女々しいと思うが、私はずっと君を探していた。周囲から他の婚約者を探すよう催促されたが私は君を探し続けた。もし見つけたら君を妻に迎えようと思っていたんだ。だが、それは杞憂に終わったようだ。」
「リチャード様。」
「今の君は、君を幸せにしてくれる夫と、愛する息子がいる。それを聞いて、私も踏ん切りがついた。」
するとリチャードは立ち上がり、ワシの方へ向いて、頭を下げた。ワシとアリーナと与一はリチャードの行動に驚いた
「侯爵閣下、何を!」
「いや、私は彼女を守る事ができなかった。かつての婚約者からの謝罪と、これからも幸せになってほしいという意味だ。これは侯爵としてではなく、一人の男として頭を下げたい。」
「リチャード様・・・・」
ワシはアリーナの幸せのために奔走するこの御方に崇敬の念を抱いた。本来は家同士の政略結婚だが、この御方は心の底からアリーナを愛していた。周囲から別の相手を勧められても、諦めずに探し続けた。そしてアリーナが幸せになっていると知ると、ワシにアリーナを託したのである
「侯爵閣下、このサコン・シマ、地主としてではなく、一人の武人としてお約束いたす。」
ワシも侯爵に向かい、頭を下げた。アリーナは涙ぐみながら、ワシを見続けた。与一はアリーナからアルグレンを代わりに抱きかかえつつ、思わずもらい泣きしそうになった。それから時が過ぎ、リチャードは王都へ帰ろうとした
「サコン殿、アリーナ、私はこれにて失礼する。」
「侯爵閣下、道中お気をつけて・・・・」
「リチャード様も、どうかお幸せに。」
「うむ、ではさらば。」
リチャードはそういうと、馬車に乗り、そのまま王都へ帰っていった。見送ったワシとアリーナは・・・・
「アリーナ、お主は幸せ者じゃのう、没落してもなお、お主の身を案じておったのだからな。」
「ええ、ですが旦那様。もはや過去の事です。今は旦那様とアルグレンが私の全てです。」
「そうか。ワシも幸せ者じゃ、これほど素晴らしい女房を持てたことを!」
「もう、旦那様ったら♡」
島左近はコマイラの事は後回しにして、今はアリーナと愛を深めようを優先するのであった




