表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/230

75話:公爵子息【2】

島左近清興だ、招かねざる客が去ってから数日後にアルンフェン公爵家から御礼の品々が届いた。流石、公爵家といったところか、随分と豪華なモノばかりだ


「左近様、これらの品々、如何いたしますか?」


「向こうが渡してきたんだ、貰えるものは天災や病や借金以外、貰えるものは貰っておけ。」


「ははっ!」


御礼の品々の一部は褒美として使用人たちに分け与え、後は万が一に備えて保管することにした。それからは何事もなく平穏に過ごそうと思っていた時期がワシにはあった。ワシの下にある書状が届いた


「ん、アルンフェン公爵家からだな。」


ワシは書状を広げ、内容を拝読することにした。書状の内容は例の御曹子の事だった。どうやら塩味饅頭が気に入ったようで公爵家に献上せよとの事であった


「うむ。」


献上するといっても、王都まで届けるのに相当の距離があり、饅頭自体も腐ってしまう可能性がある。ワシとしてはそれは避けたい


「是非もない、詫び状と塩味饅頭の調理法だけでも送るとしよう。」


ワシは公爵家宛に詫び状と塩味饅頭の製法を添えて早便で送ることにした。それから数日後、またアルンフェン公爵家から書状が届いた


「今度は何だ。」


ワシは書状を開き内容を拝読すると、塩味饅頭の製法に従い、塩味饅頭を作ったらしいが、初めて食べた時の塩味饅頭とは違うらしい・・・・


「塩か。」


心当たりがあるとすれば【サコン湖塩】かも知れぬな。あの塩は海の塩や岩塩とは違った味わいがあるからな


「試しに送ってみるか。」


ワシは書状と【サコン湖塩】を添えて早便で王都へと送った。それから数日後、アルンフェン公爵家から再度は書状が届いた


「またか、はぁ~。」


ワシは書状を開き、内容を拝読すると、どうやら【サコン湖塩】を入れた塩味饅頭が正解だったようであり、御曹子だけではなく、他の一族も絶賛したという


「一件落着のようだな。」


それからアルンフェン公爵家からの書状は来ることがなく、平穏に過ごしていると、アルンフェン公爵家の馬車が再び我が屋敷に向かっていた


「何!またアルンフェン公爵家の馬車が来るだと!」


「はっ!」


「今度は何だ。」


内心、嫌気が差しつつも、ワシらは準備を進めてた。そして外から馬のいななきが聞こえ、ワシは玄関を出てみると、アルンフェン公爵家の馬車が止まっていた。馬車戸を開けると、公爵子息であるクロス・アルンフェンが降りてきた


「これはこれは御曹子、お久しゅうございます。」


「うむ。」


「ささ、中へどうぞ。」


ワシはクロスを客間へ案内した。クロスの側近たちが椅子を動かし、クロスが座れるようにした後はクロスは椅子に座った。ワシは使用人たちに命じて例の塩味饅頭をクロスの下へ運ばれた。塩味饅頭を見たクロスはゴクリと唾を飲んだ


「もし毒味を御所望とあらば某が1ついただきますが?」


「いらぬ!」


「なりませぬ!」


ワシが毒味をしようか聞いてみると、クロスは拒否し食べようとしたが側近の1人が待ったをかけた


「万が一の事もございます、私が1つ。」


そう言うと側近が塩味饅頭に口に入れると食べていた。それをクロスは不満そうに睨み付けるが、側近は無視した


「ん、1つだけでは足りぬな、もう1つ。」


「もう、いいわ!僕の分が無くなるだろ!」


塩味饅頭に手を出そうとした側近を無理やり下がらせた後、塩味饅頭をムシャムシャと食べ始めた。ワシは食べ終わるまで待つことにした


「(今度は何用で参ったのだ?)」


ワシはそう考えていると、塩味饅頭を食べ終え、満足そうにしているクロスに聞いてみることにした


「御曹子、此度の御来訪、何用にございますか?」


「来てはいけなかったのか。」


「いいえ、何の連絡もなく突然お越しになられると我等としてもお迎えするのに準備がございますので。」


ワシがそう言うとクロスは罰が悪そうな顔をした。隣にいた側近も苦笑いを浮かべながら、クロスの方を見ていた


「おほん、此度の来訪の目的はお前の治める土地の視察するためだ。」


「視察にございますか。それはアルンフェン公爵閣下の命にございますか?」


「そ、そうだ。」


「はて、どうも腑に落ちませぬな。」


「何故だ!」


「畏れながら視察とは国王陛下の王命を受けて派遣された役人が行う事であって、一貴族がすることではないと思われまするが?もしそれが誠であればアルンフェン公爵家は国王陛下の顔に泥を塗るような所業をなることを御存知ないのですかな?」


それを問いただすとクロスは顔は青白くなり、側近が慌てて訂正した


「さ、差にあらず!決して我が主の命ではありませぬ!」


「ほう~、では御曹子の一存ということですかな?もしこの事が国王陛下の耳に入れば、アルンフェン公爵家はどうなりますかな?」


ワシがそう尋ねるとクロスは黙りこくってしまった


「それだけではなく、お諌めしなかった側近である貴殿らにも塁が及びまするぞ。」


側近たちも何もいえず黙りこくってしまった。ワシは内心溜め息をつきつつ、クロスに目を向けた


「御曹子、視察とは表向きで誠の目的をお教えくだされ。」


ワシが優しく語りかけるとクロスは口を開いた


「お、お前の妻に会いたかったんだ。」


「アリーナにございますか?」


「そうだ。」


「某の妻に何用で参られたのだ?まさか横恋慕でもなされたか。」


「違う!」


「では何故?」


「母上に似ていたんだ。」


「御母堂様に?」


「それは私は説明いたします。」


側近がここに来た理由を話してくれた。クロスの母はクロスが幼い時に亡くなっていた。それから父である公爵は最近になって後妻を迎えたがクロスは亡き母を思い続けた。最初にアリーナと会った時、亡くなった母に似ていたのだという。今日、参ったのも母に似たアリーナに会いたいがためであったという。クロスが所持していたペンダントをワシに見せると、どことなくアリーナによく似ていた。ワシはペンダントをクロスに返した後、側近に尋ねた


「この事はお父君は御存知なのですかな?」


「いいえ、此度の来訪は一夜の宿の礼だとお伝え致しました。」


「左様か。」


ワシはクロスの方へ目を向け、優しく諭した


「御曹子、亡き御母堂様の事は御悔やみ申し上げます。ですがアリーナと亡き御母堂様とは別人でござる。」


「そんなのは分かってる!」


必死に涙を堪えるクロスにワシは溜め息をついた


「少しだけ時をいただきたいが、宜しいですかな。」


ワシが問い掛けるとクロスは頷いた。ワシはそのままアリーナの下へ向かおうとすると、そこにアリーナがいた


「旦那様、御曹子様は如何なさいましたか?」


どうやら言い争いをしている声が聞こえたようで様子を見に来たという


「うむ、実はな。」


ワシはクロスがここへ来た目的を話した。アリーナは最初は驚きつつも、真剣に話を聞いてくれた


「分かりました、私が御曹子様にお会いします。」


「すまんな。」


そう言うとアリーナはクロスの下へ向かった。アリーナがいなくなった後、与一が現れた


「左近様。」


「万が一の事があってはならぬからな、見張っておけ。」


「はっ!」


その頃、アリーナはクロスと再び対面した


「これは御曹子様、今日は私に御用との事ですが?」


「う、うむ。皆の者は下がれ。」


「え、しかし。」


「いいから下がれ、僕の許可なく誰も中に入るな!」


「はっ!」


側近たちを下がらせた後、部屋にはクロスとアリーナ、そして見張りとして与一が潜んでいた


「御曹子様、失礼を承知で申しますが私は亡くなられたお母上ではありません。」


「・・・・分かってる。」


「私には息子がおります。私がもし病で亡くなった場合、残された旦那様や我が子が心配でなりませぬ。だからこそ御曹子の御気持ちは痛いほど分かります。」


アリーナが優しく語りかけると、クロスも何か言いたげな顔をしていたが、口は固く、黙秘を続けた


「旦那様にお願いされました。今日だけは御曹子の母親代わりになってくれと。」


「えっ。」


「もし御曹子が良ければ今日だけは甘えてもよろしいのですよ。今日だけは御曹子の母親として、さあ。」


アリーナは手を広げて、受け止める準備をすると、その言葉と態度に我慢できなかったのか、クロスがアリーナに抱きついた。そして堪えきれなかったのが涙を流しながらアリーナに甘え続けた


「なんで、なんで、母上は先に逝ったの!どうして僕を遺して逝ったの!僕、寂しかったんだ!」


「ごめんね。」


「母上!う、う、ウワワワワワワワワワ!」


クロスはアリーナの胸の中で泣き続けた。そばに控えていた与一は思わず貰い泣きをしそうなくらいなほどである。扉近くで聞いていた左近も感慨深そうに聞いていた。やはり男は母親が恋しいのだなとしみじみと思う左近であった

















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ