70話:取引
島左近清興だ、ワシはユカリとサマノスケの様子が気になり与一に命じて後を追わせた。屋敷にて待っていると、そこへ与一が戻ってきた
「与一、どうであったか。」
「はっ・・・・」
「やはり、何かあったか?」
ワシがそう尋ねると与一は語り始めた。あの後、あの二人は再び一触即発の雰囲気だったらしい。サマノスケはユカリを宥めようとするが、ユカリは太刀に手を掛けなくても、殺気だっていたらしい。与一も頃合いを見て止めようとしたところ、そこへ柄の悪そうか輩が現れたそうだ。輩の1人がサマノスケを片付けたら、「俺たちと一緒に遊ぼう」と下卑た笑みを浮かべていたらしい。しかしユカリは「無用だと」と断ると、輩の1人が無理矢理連れていこうとしたらしいが、ユカリは太刀を抜き、輩を峰打ちで仕留めたという。残りの輩は激昂し、ユカリに向かうがサマノスケが残りの輩を体術で1人残らず仕留めたという
「ほぉ~、あの男もなかなかやるようだな。」
「あの後、ユカリ殿はサマノスケ殿を助力した礼を述べるとそのまま立ち去り申した。」
「はぁ~、こればかりはワシらにはどうすることもできんな。」
ユカリとサマノスケの問題から数日が経った頃、ワシはアリーナと共にアルグレンの寝顔を見ていた
「先程まで泣いていたのに、今ではぐっすりと寝ておるな。」
「ふふふ、そうですわね。」
「改めて見るとアルグレンはそちに似て、美形じゃのう。」
「そういう旦那様も男前ですわ。」
「そうか。」
すると扉からノック音がした。ワシは許可を出すと、与一が入ってきた
「如何した。」
「はっ、コタロウ殿とサマノスケ殿が参られました。」
「そうか、客間へ通せ。」
「はっ。」
「旦那様、もしかしてユカリの事で?」
「恐らくな。」
ワシは身嗜みを整え、客間へ向かうとコタロウと顔がアザだらけのサマノスケと対面した。ワシは嫌な予感を感じつつ、応対した
「お待たせして申し訳ない、コタロウ殿、今日は何用で?」
「突然尋ねてきて申し訳ない。」
「お気になされるな。」
「サコン殿、こやつから聞き申した。そなたは知っておられたのか?」
「如何にも。」
「はぁ~、それで合点がいった。なぜ警備局で会っていたのか不審に思っていたが、そういう事だったのか。」
どうやらコタロウはワシとサマノスケが警備局で会っていたのを前々から不審に思っていたらしく、今回のユカリの件でもあり、ワシのところへ尋ねてきたのか
「サマノスケよ、お前には失望した。」
「申し訳ありません。」
「今さら過ぎた事をとやかく言うつもりはない。」
「それでコタロウ殿、サマノスケ殿を如何するつもりで?」
「こやつが【ガルバトロズ】に在籍していたなら警備局へ突き出してやるが、今のこやつは足を洗い、真面目に働いておるしな。」
「ユカリ殿は如何いたす?」
「うむ、ワシが説得してみる。」
「左様か。ところでサマノスケ殿、主はこれからどうする気だ?」
「・・・ユカリとは仲直りしたいです。」
「仲直りするにもすぐには解決できる状況ではないぞ。」
「いくら時が掛かっても構いません。俺はユカリにこれまでの償いをしていくつもりです。」
「サマノスケ殿はそう申しておるが、コタロウ殿は如何いたす。」
「それを決めるのはユカリ自身じゃ。」
確かにユカリ自身が、サマノスケを許す気がなければ始まらないからな。サマノスケ自身も【ガルバトロズ】にいたことを反省しているようだが、はてさてどうしたものか・・・・
「そろそろワシらはお暇するとしよう、サコン殿、改めて迷惑をかけて申し訳ない。」
コタロウが頭を下げたと同時にサマノスケも頭を下げた
「頭をあげられよ、今はユカリ殿の事に目を向けられよ。」
「「忝ない。」」
その後、二人は屋敷を去り、ワシは椅子に座り、溜め息をついた
「はぁ~、地主も楽ではないな。」
あれからユカリとサマノスケに関して音沙汰がなく、不気味といえるほど平穏な日々を過ごしていた。そんな平穏な日々を前に一台の馬車が訪れた。馬車から一人の貴族の男が出てきて、【サコン塩湖】を眺めた
「これが塩を産み出す湖か。」
「旦那様、そろそろ参りましょう。」
「そうだな。」
男が馬車に乗った後、左近の屋敷へと向かっていた。その様子を追跡動物によって事前に知った左近と与一は予め準備をさせ、どう応対するか考えていた
「あの馬車、シュバルツ王国の者で間違いないようだな。」
「しかも公家【貴族】にございまするな。」
「一体何用であろうか。」
ワシらは色々と準備をしていると、外から馬のいななきが聞こえた。すると与一がワシの下を訪れた
「左近様、お客人にございます。(例の公家【貴族】が参りました。)」
「客間へお通し申せ。(しかと見張れ。)」
「ははっ!」
ワシは身嗜みを整えた後、客間へ向かった。客間へ到着すると、そこには気品にあふれた20代半ばの公家【貴族】の男が優雅に紅茶を飲んでいた。傍らには執事らしき初老の男が優雅に立ち尽くしていた
「お待たせして申し訳ござらん、当屋敷の主のサコン・シマです。」
「こちらこそ突然尋ねて申し訳ない。」
見た目は金髪短髪、碧眼、身長は175mほどの色白の美男子、そして南蛮風の公家【貴族】の着物を着た男が立ちあがり、挨拶を交わした後、ワシと男は一緒に長椅子に座った
「私はアレイスター・オコーネル、オコーネル伯爵家の当主だ。」
「伯爵家の御当主様が当家に何用で参られましたか?」
「うむ、我が領地に湖塩を売ってほしい。」
「湖塩にございまするか?」
「ああ、我が領地では塩が取れんでな。」
話を聞くと、オコーネル伯爵家の領地は内陸部にあり、岩塩がなく、交易によって塩を手に入れていたが、貴族間の些細な事がきっかけで塩を売ってもらえず、蓄えの塩が底をつきかけ、塩の入手場所を探していたところ、ワシが治める領地の【サコン湖塩】の事を知ったのである
「左様か、某は塩を売るのは構いませんが・・・・」
「そうか、それは感謝する、ヨハン。」
「はい、旦那様。」
ヨハンと名乗る執事がある書状を差し出した。それは契約書と言う名の起請文だった
「拝見してよろしゅうござるか。」
「構わないが・・・・」
ワシは契約書に書かれている塩の取引による内容や、塩の買い取り価格を確認した。買い取り価格は金貨10枚【10万エン(日本円で10万円)】と記入されていた。【サコン湖塩】の値は精々高くても、金貨4枚【4万エン(日本円で4万円)】であるが、随分と奮発している
「不躾ながら、この契約書に金貨10枚と記入されておられるが、これほどの過分な金額を出してよろしいのですか?」
「ああ、我が領地は塩はないが砂金と金鉱石が豊富に産出しているのでな。」
「それなら構いませぬが・・・・」
どうやらオコーネル伯爵家の領地には砂金や金鉱石があるようだ。それほどの物があるのに、売ってもらえないとは公家【貴族】同士の問題は複雑なようだ
「もし宜しければ、湖塩をご賞味されては如何か?」
「湖塩を味わえるのか。」
「ええ、我が家の塩は塩湖から取れておりますからな。」
ワシは与一に命じて、湖塩を取りに行かせた。そして与一は皿に山盛りの湖塩を持ってきて、卓子に置かれた。アレイスターはマジマジと湖塩を注視した
「ご無礼いたす。」
ワシは塩をひとつまみだけ塩を取り、それを口に運んだ
「うむ、いつもながらしょっぱさの中に甘みがござる。」
ワシが塩を味わったのと確認すると、アレイスターもひとつまみだけ塩を取り、舌で舐めた
「ん!」
アレイスターの口の中には塩独特のしょっぱさと、まろやかな甘みが広がっていた。今まで味わった海の塩や岩塩とは違う味に感動を覚えた
「如何でしょう?」
「うむ、これは美味い。これほどの塩は初めてだ・・・・是非、購入したい!」
「分かりました。契約は成立ですな。」
「うむ、感謝する。」
ワシとオコーネル伯爵家との間に塩の取引が開始され、【サコン湖塩】がオコーネル伯爵家の領土に送られ、人々は【サコン湖塩】の恩恵を受けたのであった
「左近様、塩の取引先が増えてよろしゅうございましたな。」
「ああ、ワシとしても万々歳だな♪」




