50話:デジャブ
島左近清興だ、ワシらは献上品(瑪瑙)の警護のため、とある村にいた。そこは瑪瑙を産出しており、王族や貴族の間で珍重されていた。ワシらは王都に向けて馬車一台分の瑪瑙を運ぶことになった。ただしワシらだけではなく、他にも応募した奴もいたが・・・・
「(左近様、これではデジャブという南蛮の言葉が当てはまりますな。)」
「(ああ。)」
「(しかも相手は勇者ですぞ。)」
「(分かってる。)」
ワシらは読唇術を使い、他の者に気付かれないように会話していると、一人の男がワシらに話しかけてきた
「僕たち勇者パーティーと一緒に仕事ができるんだ、光栄に思うといい。」
こやつは、セイヤ・アマノガワという勇者だ。見た目は金髪碧眼、十代後半で身長は170㎝ほどの色白の美男子で、南蛮風の鎧と剣を手にしていた。勇者パーティーの頭領である
「ちょっとセイヤを無視すんじゃないわよ!」
「その通り、【神は無視をするな】と仰るのです!」
後の二人組の女子はこやつの仲間で、まず1人目は赤髪碧眼、十代後半で身長は150cmくらいの女戦士、名前はレベッカ・オルソワ、もう1人は緑髪碧眼、十代後半で身長は150cmくらいの女神官戦士、また名前はミサラ・キサラギという勇者パーティーの一員である
「おいおい、勘弁してくれよ。」
もう1人いたな、こやつはオニール・コマイナ、セイヤ率いる勇者パーティーの一員で、黒髪碧眼、十代後半で身長は170cmの色黒の冒険者である
「無視していたわけではない、王都への道のりを確かめていただけだ。」
「そうか、まあ僕たちがいるから大船に乗った気でいてくれ。」
「「それでこそ、セイヤ!」」
「はぁ~。」
正直期待はできないが、任務が被ってしまった以上、共に行くしかあるまいて・・・
「(前回とは違ってこやつらは公家【貴族】ではありませんな、付き合いにくい輩ではございますが。)」
「(とりあえずは様子見だな。)」
「(やれますかね。)」
「(まぁ、お手並み拝見といこうか。)」
するとオニールという勇者パーティーの一員がワシらに近づき、小声で話しかけてきた
「ちょっといいか。」
「何だ?」
「もし、危なくなったらあんたらの下に行くわ。」
「主は勇者パーティーの一員であろう。なぜ我等につく?」
「俺はアイツらを信用してないからな、この任務には反対だったんだがアイツが勝手に申請したんだ。その点で言うなら、あんたら二人の方が信用できるし。」
「・・・・好きにしろ。」
どうやらこの勇者パーティーは一枚岩ではなさそうだな。何だか幸先が悪くなってきたな。そんなこんなでワシらは王都に向けて、出発した。ワシらは周囲を警戒しているが、肝心の勇者セイヤはというと・・・・
「もうセイヤったら♡」
「相変わらず可愛いな、レベッカは♡」
「私の事も忘れないでください♡」
「勿論だよ、ミサラ♡」
大事な任務なのに女子と戯れていた。近くにいた与一と同じ勇者パーティーの一員であったオニールは無視していた。なるほど、オニールがワシらに付きたいという理由が分かる気がする。完全に任務を舐めているとしかいいようがない。馬車を走らせていると、ワシらの前に森があり、辺りに霧が出てきた
「ん、霧か?」
ワシらの前に濃霧が立ち込めてきた。これでは前に進みたくとも進めないな
「引き返すか。」
「おいおい何を言っているんだ、任務はどうしたんだ?」
ワシらは安全な場所へ移動しようとすると勇者セイヤが待ったをかけた
「この濃霧での移動はマズイ。迷ってしまったら大変な事になる。」
「何を言っているんだ、こういう時だからこそ前に進むんじゃないか。」
「そうよ、セイヤの言う通りだわ。」
「その通りです。」
「おいおい、この人たちの言う通りにした方がいいぞ。」
「黙りなさい、三下。」
「役立たずは引っ込んでろ!」
「くっ!」
勇者セイヤの反論と共に同調するレベッカとミサラ、それを止めようとするオニールにレベッカとミサラが噛み付いた。おいおいこんなところで仲間割れしている場合か
「だったら僕が真っ直ぐ進む。」
「何!正気か!」
「僕を誰だと思っているんだ、勇者だぞ!」
「何の根拠があっての自信だ。」
「ふん、僕は女神の加護を受けている。」
「「はぁ?」」
ワシと与一は目が点になった。女神の加護を受けているって、まるでアバシリン刑務所に収監されている肥満の男と同じではないかと心の中で突っ込んだ
「悪いが、ワシらは女神の加護なぞ、信じてはおらぬ。ワシらは献上品と共に引き返すことにする。」
「ふん、だったら僕はこの道を進む!レベッカ、ミサラ、オニール行くぞ!」
「「オオオオオ!」」
「俺は遠慮しとくわ。」
「何だと、僕の命令が聞けないのか!」
「流石にこの濃霧はちょっと。」
「そうか、だったらお前を勇者パーティーから除名する!二度と僕たちの前に現れるな!」
「「じゃあね、三下。待ってセイヤ♡」」
勇者パーティーから除名されたオニール、ワシらはそれを黙って見ていた。勇者セイヤと他の女子たちは濃霧の中、迷いなく進んだ
「良かったのか、勇者パーティーから離れて。」
「どっちみち抜けようと思ってたんだ、こっちとしても清々した。」
「さて我等は引き返すか。」
ワシらは濃霧を前に1度引き返すことにした。その頃、勇者セイヤとレベッカ&ミサラは濃霧の中でも行動していた。セイヤたちはハグレないようにロープで体を縛っていた
「ちゃんと縛ったか?」
「ええ!」
「縛ったわ!」
「よし、いでよ羅針盤!」
セイヤが念じると手元に羅針盤が出てきた
「出口を探してくれ!」
セイヤがそう言うと、羅針盤の指針が東の方向を向いていた
「よし東だ。」
セイヤたちは羅針盤に従い、濃霧の中、少しずつ進み続けた。羅針盤の指針はあちらこちらへと指しており、セイヤたちは足下に気を付けながら、歩いていると・・・・
「ん、ねえ、セイヤ。」
「どうした?」
「何か獣臭くない?」
レベッカが獣臭さを感じ、周囲を警戒すると、そこに黒い物体が姿を現した
「あれは、熊か!」
霧の中に熊が姿を現し、セイヤたちの前に現れた。セイヤたちが武器を手に取り、戦闘態勢を取ろうとしたが、体がロープで縛られていたことを忘れ、体勢を崩し転んでしまった
「グオオオオ!」
そこへ熊が突進し、セイヤたちに襲いかかった。セイヤは大勢を崩したが、武器の聖剣【ビャクヤ】を手に持ち、熊に向けて突きつけた。熊はセイヤに襲い掛かると同時に、聖剣が熊の体に突き刺さった
「グアアアアアア!」
熊はうめき声をあげつつ、聖剣から逃れようとジタバタと暴れまくった。セイヤたちは熊の力に振り回されつつ、聖剣を力一杯握り締めた。すると熊の爪がセイヤの右頬を切り裂いた
「ギャアアアアアアアアア!!」
「「セイヤ!」」
熊はセイヤの右頬を切り裂いた後、その場で力尽き、そのまま息を引き取ったが、セイヤは右頬を熊の引っ掻き傷によって激痛と共に大量に出血したのである
「セイヤ、しっかりして!」
「今、ポーションを用意するから!」
「その前に止血よ!」
レベッカとミサラはセイヤの右頬を血止め薬とポーションを飲ませた。セイヤは右頬に熊の爪痕がくっきりと残った
「な、何とかしてくれ・・・・」
セイヤは血止め薬やポーションを服用しても激痛が収まらず、苦しみ続けた
「大丈夫、何とかなるから!」
「何とかなるわけねえだろ、糞女ども。」
「何よ!こっちは助けようとしてるじゃない!」
「セイヤでも言っていいことと悪いことがあるわ!」
「だったら早く痛みを抑えろよ!この役立たずが!」
「何ですって!」
「もう知らない!」
「お、おい、どこへ行くんだ。」
レベッカとミサラはセイヤの暴言に怒り、体を縛っていたロープを切り、羅針盤を取り上げて、セイヤを置き去りにしたのである
「おい、僕を置いていくなんてどういう事だ!戻ってこい!」
勇者セイヤは濃霧が立ち込めるところで1人空しく叫び続けるのであった




