30話:忍び見習い
島左近清興だ。昨日、決闘し親しくなった女剣士ユカリ・オリムラにワシの娼館通いがばれ、一時は気まずい状態が続いたが、今は何事もなく普通に接している。ユカリ・オリムラの剣術の腕は凄まじく娼館【イザナミ】で暴れる悪漢たちを懲らしめ、娼婦や従業員たちから信頼を得ていた
「サコン殿は娼婦たちの評判が良いようですね。」
「向こうが勝手に持て囃しているだけだ。」
「娼婦たちが言ってました、サコン殿が悪漢どもを懲らしめてくれたおかげで悪漢が来なくなったって。」
ワシが娼館【イザナミ】通いをしている間、礼儀のなっていない客がいて、まあ少しお灸を据えたことで大人しくなり、娼館主や娼婦、従業員たちから感謝された
「サコンの旦那、ユカリさん、ここにいたの。」
「これはミリア殿。」
彼女はミリア・クリスマス、この娼館【イザナミ】の娼館主である。肩まで伸びた白髪、切れ長の金眼、年齢は40代後半だが、見た目は20代後半と呼べるほどの色白の美貌を持つ美魔女であり、ユカリ・オリムラの雇い主である
「旦那が悪漢どもを退治してくれたおかげで、ウチの評判が落ちるところだったわ。」
「いやユカリ殿が悪漢どもを成敗してくれたおかげで事件が解決できたんだ。礼を言うならユカリ殿に言ってくれ。」
「そう、ユカリさん、ありがとね。」
「いいえ。」
「ミリア殿、用があって参ったのではないのか?」
「あぁ、そうだった。休憩時間が終わるから、知らせに来たのよ。」
「もうそんな時間でしたか。」
「それではワシは去るとしよう。であなミリア殿、ユカリ殿。」
「旦那、またのお越しを。」
「じゃあね、サコン殿。」
ワシは娼館【イザナミ】を離れ、そのまま真っ直ぐ宿へ戻る途中、背後から気配を感じた。殺気自体はなく、隠れること自体は上手いが、気配自体がダダ漏れなことに左近は溜め息をついた
「はあ~、やれやれ。」
ワシは人目の少ない場所へと行くと、背後の気配が動き出した。人気のない路地へ移動し、人一人が隠れられる場所へ身を潜めると、そこに3人の人影が現れた
「おい、どこへ行ったんだ!」
「確かにここに入っていったんだが・・・・」
「探せ!まだ遠くには行っていないはずだ!」
声からすると十代半ばの若造のようだ。若造3人がワシに何の用だと思ったが、これ以上、関わる気もないのでワシはこっそりと路地を出て、無事に宿へ戻ることが出来た
「申し訳ありませぬ!」
「なぜ詫びるのだ?」
「某がそばについていたら、その3人を捕縛しておりましたものを・・・・」
「与一、ワシがそなたに買い出しを命じたのだ。そう自分を責めるでない。」
宿に戻ったワシは例の3人組の事を与一に話すと、買い出しに行っていた与一はワシに謝罪した。別に詫びる事ではないと諭したが、さて・・・・
「それにしてもその3人組は何のために左近様の跡を・・・・」
「さあな、だが再びワシの前に現れるだろう。その時が勝負だ。」
「左様で・・・・ん。」
「早速、現れたか。」
ワシも与一も気配を察知し、窓際に移動した。与一は手裏剣を取り出し、外をこっそりと覗いた
「左近様、もしかしてあの者たちの事ですか?」
与一が指差すと方向をこっそり覗くと案の定、例の3人組だった
「あぁ、間違いない。」
「捕られますか?」
「いや泳がせておけ。」
ワシらは奴等が何の目的でワシを狙っているのか分からない以上、下手に刺激するわけにもいかず、様子を見ることにした。ワシは与一に命じてあの3人組の動向を探らせた。ワシも奴等に何度も跡をつけられたが、その度に身を隠し、奴等を翻弄させた。それから数日後、ある事が分かった
「左近様、どうやらあの3人組はトウホウ王国の忍びだと分かりました。」
「トウホウ王国?どこだ、そこは。」
「はい、トウホウ王国は、遥か東の方角にある海のない国で農業・畜産業・林業・製塩業(岩塩&湖塩&山塩)・鉱業(銀&銅&鉄)を生業としております。」
「その国の者がなぜワシの跡をつけてきたのだ?」
「はい、あの3人組は試験とやらの真っ最中だそうで・・・・」
「試験?」
与一いわく、あの3人組は、まだ半人前の忍びらしく、トウホウ国で行われている試験に合格するためにそれぞれが自由行動を取り、成果を上げ、一人前の忍びになるのだと言う
「その試験のためにワシが選ばれたという事か。」
「はい、あの者たちが某の存在にも気付かず、ベラベラと喋ってくれたおかげで此度の事が分かりました。」
「ワシを討ち取って手柄でも立てるつもりか?」
「それについてはまだ。」
「ふん、随分と舐められたものよな。」
「如何致しますか?」
「知れたこと、あの3人組を捕縛する。」
ワシは与一と共にあの3人組を捕縛する事にした。次の日、ワシは何時ものように街中を歩いていると、3人組の気配を感じた
「(来たな。)」
ワシは人気のない場所へ移動した。そこで与一と合流し、あの3人組を捕縛する準備を整えた。3人組は特に警戒もせずに、ノコノコとワシの跡を着いてきた
「(与一、抜かるなよ。)」
「(御意。)」
ワシと与一は別々の箇所へ別れ、あの3人組が来るのを息を殺して待ち伏せしていた。そこへ例の3人組がやって来た。3人組はワシの事をあちらこちら探していた。ふと3人組はワシが待ち伏せしている方向へ近付いてきた、そして・・・・
「「「いてえ!な、なんだ!」」」
3人組は足下を見ると、あちらこちらに撒菱が散らばっており、3人組はこれ以上、近付くことができなかった
「待ち伏せだ!」
1人の若造が待ち伏せと気付き、そのまま退却しようとしたら、そこへ与一が奇襲をかけ、3人組に当身を食らわせ、気絶させた
「左近様!」
「うむ!」
3人組を気絶させた後、ワシらは撒菱を回収し、例の3人組を縛り上げた後、力尽くで起こした
「うぅ。」
「ようやく起きたか。」
「なっ!」
「さて、主らに聞きたいことがある。なぜワシの跡を付け回した?」
ワシが尋ねると3人組は口を開かず黙秘を続けた
「お前たちがトウホウ王国の者だというのは分かっている。」
与一がそういうと、3人組は驚き、ワシらの方を見た。なぜばれたと顔に書いているほど分かりやすく反応した
「主らの気配はダダ漏れでな、与一に命じて主らを探っておった。主らが忍びの試験の真っ最中である事もな。」
3人組の顔は青褪め、汗だくになっていた。自分たちの正体と目的を知らされた3人組は・・・・
「わ、分かった。」
「さて、話してもらおうか。」
「じ、実は・・・・」
3人組は観念して事の次第を話し始めた。ワシを付け回していたのは、案の定、ワシを倒して、名を上げたいがためだった。ワシは正直、こんな半人前に狙われたのが、悪い意味で衝撃だった。その程度の腕でワシによう挑めたなと呆れて物がいえなかった
「主らの腕じゃ、ワシを倒す事なんざ、土台、無理な話だな。」
「「「うう。」」」
「左近様、こやつら如何致します、殺しますか?」
与一がそう言った瞬間、3人組はビクッと体が強ばり、今にも泣き出しそうな表情をし、許しを乞う
「お許しを!お許しを!」
「もう二度と狙いません!」
「お願いします!」
「お前たちはうつけか?相手を殺すということは殺される覚悟も同時に持たなきゃいけないのだぞ。その覚悟がない奴が殺しなど、やるでないわ!」
「「「ヒイイイ!」」」
与一の殺気と怒声に3人組は完全にお手上げ状態、さてどうするか考えていると・・・・
「誰だ?」
背後から気配を感じ、ワシは尋ねるとそこへ一人の忍びがやって来た。与一ももう1人の忍びに気付き、いつでも攻撃できる準備をしていた
「「「せ、先生!」」」
どうやらこの3人組の先生のようだ。ワシらは迎撃体勢を取ると・・・・
「申し訳ありません!」
「「はっ?」」
3人組の先生が突然土下座した。ワシらはあまりの事に一瞬だけ呆気に取られたが、すぐに迎撃体勢を取ると同時に尋ねた
「どういうつもりだ。」
「はい、うちの生徒が大変な粗相をしてしまい申し訳ありません!」
話を聞くと、この先生が3人組の担当をする試験官であり、3人組がなかなか帰ってこない事を心配し、駆けつけると案の定、3人組がワシらを狙っていた事を知り、謝罪したのである
「もう2度とこのような事をしないように厳しく言い聞かせますゆえ、どうか御慈悲を!」
土下座の上で許しを乞う姿にワシと与一は興醒めし、許すことにした
「はぁ~、分かり申した。今回は貴殿の顔を立てて、3人組を許そう。」
「あ、ありがとうございます!お前たちも御礼を言うんだ!」
「「「は、はい!命を助けていただきありがとうございます!」」」
先生と3人組は土下座&御礼をした。その後、先生は3人組を折檻と叱責し、もう2度とこのような事をしないよう約束し、その場を去るのであった
「左近様、慌ただしい日でしたな。」
「出来の悪い生徒を持つと大変だのう。」




