27話:平穏
島左近清興だ。ワシらは昨日の自称、勇者騒動から解放され、平穏な一時を味わっていた
「平和ですね、旦那。」
「そうだな。」
ワシはというとアリーナと一緒に【ガルバ町】で行われている祭りに参加していた。与一もウルザと一緒に行動している
「左近様、誠によろしいのですか?」
「あぁ、主も思い人と一緒に祭りを楽しめばよい。」
「サコンの旦那も言ってるんだし、いいじゃない。」
「申し訳ありません。」
「構わんよ。ワシもアリーナと祭りを楽しみたいからな。」
「もう旦那ったら♡」
ワシらは別々に行動した。この異世界でデートと言う名の逢引きをすることになった
「ふふふ。」
「ん、どうした?アリーナ。」
「だって旦那と二人きりになれるのは【イザナミ】以来ですもの。」
「そういえばそうだな。」
ワシとしてもアリーナと二人きりになれるのは久しぶりだ。ワシもアリーナも仕事で忙しく会う機会も限られているし、この時間を大切にしようと思った
「旦那、あれ。」
アリーナが指さす方向を見ると、何やら人だかりができていた。アリーナに連れられ、ワシはその人だかりに向かった。見てみると、どうやら何かの見世物のようだ
「芝居ですね、旦那。」
「芝居か。どこぞの旅の一座か。」
「面白そうだし見たい!」
「そうだな。」
ワシとアリーナは席に座り、始まるのを待ち続け、合図がなったと同時に幕が開き、現れたのは令嬢の恰好をした二人の役者だった
「ちょっと貴方、私の婚約者に色目を使うとはどういうつもりかしら。」
「いいえ私は別に・・・・」
「恍けないでちょうだい!」
どうやら男を巡って争っている模様だ。婚約者のいる相手に色目を使うこと自体、あり得ないが、とりあえず続きを見ることにした
「何をしている!」
「「殿下!」」
「エリーゼ(悪役令嬢)、一体何をしていた!」
「ソルト殿下、ソフィア(ヒロイン)は殿下に対して馴れ馴れしいので注意をしたまでです!」
「はん、どうせ身分に胡坐をかいて苛めていたのだろう!」
うん、芝居だと分かっていても、この男は王太子としても婚約者としても失格だ。裏も取らずに婚約者を責める。そういえばセシリア嬢も婚約者であるロゼオに婚約破棄を突きつけたな・・・・
「旦那、私、この男嫌いです。」
「ああ、ワシもそう思う。」
ワシとアリーナは婚約者である殿下自体も問題ありと断じた。そこから芝居が続き、殿下と浮気相手の逢引ばかりが出てくる。殿下と婚約を結んでいる許嫁の令嬢は取り巻きを使って、浮気相手を苛める・・・・
「何というグダグダな内容だ。」
「ええ、どっちもどっちね。」
ワシもアリーナも途中から見る気が失せてきた。正直、失敗したと後悔している。周りの客は盛り上がる一方、ワシら同様、白ける客も多数いた。だが、まだ物語の終盤を見ていない以上、途中から退席するわけにもいかず、最後まで見ることになった
「エリーゼ、貴様の所業は皆の知る事となった。よって貴様と婚約破棄をし、このソフィアを私の妻とする!」
「殿下!その女の何処がいいんですか!」
「黙れ!父上も貴様の両親も此度の事を大変嘆いていた。厳罰は免れないと思え!」
「くっ!あんたが行けないのよ!」
そうすると悪役令嬢はナイフ(小道具)を取り出し、ヒロインに向かって突撃してきた。すると殿下が剣(小道具)を抜き、ナイフ(小道具)を弾いた。それと同時に悪役令嬢は立ち尽くす
「連れていけ!」
「ははっ!」
そこへ衛兵役の役者が入ってきて悪役令嬢を連れていった。悪役令嬢は喚いていたけど、恐らく台本の台詞だろうと思った
「ソルト様。」
「ソフィア、君の事は絶対に離さないからね。」
そういうと合図が鳴り、幕が降りて芝居が終わった
「国を巻き込んでの痴話喧嘩だな、これは。」
「旦那、私、この芝居を見たいと思った先程の私を殴りたい気分です。」
「奇遇だな、ワシもだ。」
ワシもアリーナも見なきゃ良かったと後悔していた。ワシとアリーナは席を立ち、その場を離れた。ワシとアリーナはモヤモヤした気分を発散すべく何かないか探していたところ、射的場を見つけた
「アリーナ、あそこに射的場があるぞ。」
「行ってみましょう!」
ワシとアリーナは射的場へ向かうと、色々な品物が並べられており、銭を払って弓矢を使って品物を落とし、品物を得るものだろうだ
「旦那、あれが欲しい!」
アリーナが指差す方向を見ると、置物に括り付けられた瑪瑙の頸飾【ネックレス】だった
「あの頸飾が欲しいのか?」
ワシがそう言うと、首を縦に振った。ワシの偏見かも知れぬが、女子は綺麗な物が好きなようだ
「分かった、あの頸飾を取って参る。」
「旦那、頑張って!」
ワシは早速、銭を払い、弓矢を手にした。弓としてはとても柔らかく、本気を出せば壊れてしまうほど脆い弓を引っ張り、瑪瑙の頸飾に向けて・・・・
「(南無八幡大菩薩)」
ワシは矢を放った。矢は真っ直ぐ、瑪瑙の頸飾を括り付けられた置物に命中し、勢いよく落ちた
「おめでとうございます!」
チリンチリンと鐘を鳴らし、瑪瑙の頸飾を渡した
「アリーナ、瑪瑙の頸飾だ。」
「ありがとう、旦那♪大好き♡」
アリーナはワシに抱きつき、頬にキスをした。周囲の目もあるから、離さないと・・・・
「アリーナ、とりあえず、ここから離れよう。さすがに人の目がある。」
「はいよ、旦那♡」
ワシとアリーナはその場を離れたが、周囲からはニヤニヤしており、中には「よっ!色男!」と茶化された
「旦那、ありがとう、大切にするわ♡」
「それは良かったな。」
アリーナは瑪瑙の頸飾を早速、首に装着した後、ワシに見せた
「どう!」
「似合ってる、頸飾の持ち主が美人ゆえ、頸飾も輝いている。」
「もう、旦那ったら、お上手なんだから♡」
アリーナは上機嫌になり、ワシも内心、ホッとした。先程の芝居はワシもアリーナも胸糞悪かったが、瑪瑙の頸飾のおかげで、それも無くなった
「左近様。」
「アリーナ!」
そこへ与一とウルザがやって来た。与一とウルザは片手に持っている飴菓子を舐めていた
「おお、与一にウルザ。」
「あら、アリーナ、その頸飾。」
「ふふふ、旦那から買って貰ったわ♡」
「へぇ~、いいな。」
ウルザは羨ましそうに瑪瑙の頸飾を見続けた
「そうだ、旦那とアリーナは今夜の花火大会に参加する?」
「ほぉ~、花火大会は今年もやるのか。」
「えぇ、祭りの醍醐味と言えば花火、特に満開の花びらを咲かせる花火が最高ですよ!」
「そうだな、アリーナはどうだ。」
「勿論、行きますよ。」
その後、ワシらは夜に色々と準備し、弁当を持参の上、花火会場へ向かった
「いよいよ始まりますね。」
ウルザはウキウキしながら花火大会が始まるのを待っていた
「楽しみですね、旦那。」
「そうだな。」
「あ!サコンの旦那♡」
「ん?」
そこへロゼットがやって来た。どうやらロゼットも花火を観賞するべく参加したようだ
「サコンの旦那、奇遇ですね♡」
「あぁ、そうだな。」
「今日はどうしたのかしら、ロゼット。」
「ね、姐さんもいたんですね。」
ワシばかり夢中になるばかり、アリーナの存在に気付かなかったようで、ワシに近付く事を躊躇した
「ロゼット、悪いけど旦那は私とデートしてるの、だから他を当たりなさい。」
「そういう事だ。」
「そ、そうですよね。邪魔しちゃいましたね。それじゃあ、左近の旦那、アリーナ姐さん。」
そう言うと、そそくさと去っていった。うん、確かにアリーナと逢引きしているのは誠だが・・・・
「旦那、始まりますよ!」
ウルザの掛け声で空を見上げると、花火が打ち上がった。花火は色鮮やかな色彩の花火が夜空を満開に照らした
「いつ見ても綺麗だな。」
「そうね。」
「花火はいいな。」
「花火はやっぱり、こうでないと!」
ワシらは夜空に満開に咲き乱れる花火に心が洗われるような気がした。血生臭い戦場にいたワシにとっては最高の一時といえよう
「本当に綺麗だわ。」
「そなたも綺麗だぞ。」
「もう旦那たら♡」




