26話:勇者2号
島左近清興だ、ワシを付きまとっていた自称、勇者のチャブムが捕まり、アバシリン刑務所に収監されたと聞いて、正直ホッとしている。ワシとしては死ぬまで収監されてほしいところだが、正直油断もできない。ワシは今、ギルドにいる。与一は買い物でこの場にはおらず、ギルドで新しい任務を探していると・・・・
「おうおう、色男。」
そこへニヤニヤと笑みを浮かべるベーカリーが絡んできた。正直、鬱陶しい・・・・
「何の用だ?」
「いやあ、お前は女だけではなく男にモテるなんてな♪」
こやつが言っているのはチャブムの事だろう。脱獄してでもワシを勇者パーティーに加えたいという野心があり、今のベーカリーと同様、鬱陶しいのである
「それで愛しのチャブムが連れていかれて寂しいんじゃないの♪」
「居なくなって清々しているのだが・・・・」
「おうおう随分と冷てえじゃねえか、お前を追ってはるばる脱獄してきたってのによ。」
「ベーカリー。」
「ん、何だ?」
「お前の愛しのロゼットがいうておったわ、しつこい上に冷やかす奴は嫌いだとな。」
「な、何!」
「今のお主の態度、まさにロゼットが嫌いな男に該当するのだがな。」
ワシがロゼットが嫌いな男の好みを言うと、ベーカリーは慌てふためいた
「だ、騙されないぞ。俺を引っかけるための虚言だろ!」
「嘘ではないぞ、何なら本人に尋ねればいいだろう。」
「いや、しかし。」
「あっ!サコンの旦那♡」
そこへアリーナとロゼットがギルドに入ってきた。愛しのロゼットが現れた途端、ベーカリーは固まってしまった
「偶然ね、サコンの旦那♡・・・・とベーカリーの旦那。」
ロゼットはワシに会うと愛想を振り撒いたが、ベーカリーを見た途端、態度が一変し無愛想になる
「ろ、ロゼット。」
ベーカリーは愛しのロゼットが現れた事でしどろもどろとなった。そんなベーカリーを無視し、ワシは二人に話しかけた
「二人は如何したのだ?」
「あぁ、私は注文していた商品が届いたのを取りに来たのですよ。」
「私も同じく。」
「ところで旦那は、ここで何をしているのですか?」
「あぁ、新しい任務がないか探していたところ、この男に絡まれてな。しつこい上に冷やかしを入れてくるから困ってたところだ。」
「お、おい。」
ベーカリーに絡まれた事を伝えるとロゼットの表情があからさまに不機嫌になった。普段からロゼットはベーカリーに好意はなく、むしろ鬱陶しく感じていた
「ベーカリーの旦那、サコンの旦那を困らせないでください。」
「ろ、ロゼット。」
「しつこい御方は嫌いですわ。」
ロゼットの冷たい視線とその一言にベーカリーは体を震わせた後に・・・・
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ベーカリーは号泣し、そのままギルドを出ていった。相変わらずベーカリーは繊細な奴だと思った
「はぁ~、本当に困った人。」
ロゼットはため息混じりにベーカリーへの愚痴を溢した。ロゼット自身もその気がないのに、しつこいことこの上ないのだろう
「ところでヨイチの旦那はどうしたんです?」
「あぁ、与一は今、買い出しにいっているんだ。」
「珍しいですね。」
ワシらは談笑をしていると、そこへ与一が現れた。与一は左近の他にアリーナとロゼットがいることに驚き、話しかけた
「左近様!ん、アリーナ殿とロゼット殿ではござらぬか!」
「おお、与一。」
「「ヨイチの旦那。」」
「どうなされたのですか?」
「ああ、偶然そこであった。」
「左様にござるか。先程、ベーカリーが泣き喚いて出てこられましたが?」
「いつもの事だ。」
「ですな。」
「与一、買い出しは済んだのか?」
「はい、買い出しは済みましたが・・・・」
「ん、どうした?」
「はい、実は。」
与一は買い出しの途中で、妙な奴を見かけたという。見た目は40代後半で身長は150㎝くらい、相当な肥満体で頭髪は禿げ散らかしており、赤と黄色の着物(赤い服と黄色いズボン)と赤マントを着けた自称、勇者という男らしい
「勇者・・・・か。」
ワシは色々な勇者を見かけたがろくな奴がいなかった。その代表といえるのがアバシリン刑務所に収監されているチャブム・ブレスだ。与一の話を聞くと、その勇者は魔王という悪を倒すべく、仲間を探している。ただし若い娘の仲間を探しているらしい。それを聞いたアリーナとロゼットはドン引きしていた
「ええ、何それ。」
「いい年して、魔王を倒すなんて、その人、頭おかしくない!」
「アリーナ、実際に魔王っているのか?」
「いませんよ、そんなの。もしいたら逆に見てみたいわ!」
ワシらがその自称、勇者の男で談笑していると・・・・
「勇者様コバヤシ様のお通りダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
背後から下卑た大声と共にやってきたのは身長は150㎝くらい、服がギチギチになっているほどの肥満体で頭髪は禿げ散らかしており、赤と黄色の着物(赤い服と黄色いズボン)と赤マントを着けた40代後半の醜男がやってきた。その姿にアリーナとロゼットは恐怖と気持ち悪さで顔色が悪くなった
「だ、旦那・・・・・」
「サコンの旦那・・・・・」
アリーナとロゼットはワシの背に隠れながら、着物を掴み、ガクガクと震えていた。ワシも正直、眉を潜めてしまうほどの醜悪さだ。今まで出会ってきた勇者の中で最も醜悪な存在が現れたのだ
「(左近様。)」
「(一旦、関わらない様にしよう。)」
ワシらはなるべく関わらぬように自称、勇者と目を合わせぬようにした。何よりアリーナとロゼットを守ろうと思った。あの勇者が二人に目をつけたら厄介な事になる。勇者はというと真っ直ぐギルドの受付に向かった。ビルデは顔を引きつらせつつ、笑顔で応対した
「ご、御用の向きは・・・・」
「うむ、俺は女神の御告げにより魔王を倒すべくここに来た!魔王退治のために仲間を募集している!それも若い女だ!」
「は、はあ・・・」
「だから若い女の仲間が欲しいんだ!さっさと出せ!」
勇者の注文にビルデは困り果てた表情でいた。流石にこのまま見過ごすのも後味が悪い・・・・
「どうしたんだ、ビルデ。」
そこへギルドの長であるオークラ・ホールドが現れた。ビルデから理由を聞くと、ビルデを下がらせ代わりに応対した
「当ギルドの長、オークラ・ホールドでございます。して御用の向きは・・・・」
「だから若い女の仲間を紹介しろと言ってるだろ!」
「申し訳ありませんが、生憎、女性の会員は一人もおりません。」
「なぜだ!」
「当ギルドの女性の会員は他のパーティーに加入しており、残念ながら一人もいないのですよ。」
「僕は勇者だぞ!女神に選ばれた存在なんだぞ!」
「そう言われましてもないものはありません。」
若い女を出せと鼻息を荒くする勇者と、ないものはないと答えるオークラ、いつまで立っても終わらぬやり取りにワシらは・・・・
「如何いたしますか、左近様。」
「無難なのは警備隊を呼ぶことだな。」
「「や、やっぱり・・・・」」
「ワシもできれば、関わりたくないわ。」
勇者はオークラ殿とのやり取りに夢中でワシらはギルドを出て警備隊を呼ぶことにした。そこへ偶然にも警備隊が通りかかり、ギルドへ引っ張り、例の自称、勇者をどうにかしてほしいと頼んだ。警備兵も自称、勇者を見てドン引きしながらも、職務質問がてら、近づいた
「ちょっと。」
「何だ!今、俺はこの男に!」
「我等は警備隊の者だ。」
「だから何だ!」
「不審な男が出歩いていると情報が入った。すまぬが一緒に来てもらおうか。」
「やだ!俺は魔王を倒すべく若い女の仲間を探しているんだ!」
「はあ~、だったら力尽くでも着いてきてもらおうか。」
「くそ!離せ!」
警備隊は自称、勇者の男を連れて行こうとしたが、自称、勇者は暴れまくった。警備隊は何とか捕縛しようとするが、暴れる自称、勇者に手を焼いていた
「だ、誰か手を貸してくれ!」
警備隊の一人が助けを求めた。こうなれば是非もなし。ワシは手元に日本刀を出現させ、自称、勇者に向かって走った。自称、勇者は警備隊を振りほどいた瞬間、ワシは居合(峰打ち)を行った
「ふん!」
「ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
横から一閃した瞬間、自称、勇者は吹き飛び、壁に激突した。日本刀は大幅に振動し、収まるまで時間がかかった
「やはりあの体型だと日本刀も堪えるのう。」
正直、奴の脂肪と肉壁によって威力が半減されたが、肝心の自称、勇者は気絶していた
「と、捕らえろ。」
警備隊は自称、勇者を捕縛し、そのまま連れていかれた。ただしあまりに重かったため、大八車に運ばれた。ワシらはというと一応、軽い事情聴取をされ、自称、勇者捕縛に尽力した事で感謝状を賜った
「くそおおおおおおお!出せ!俺には魔王を倒すという使命があるんだ!」
「喧しいぞ!」
自称、勇者は牢屋の中でも喚き散らしながら、警備隊相手に悪戦苦闘するのであった




