17話:出立
島左近清興だ。ワシは与一と共にブリュッセル辺境伯領におり、ワシは訓練兵の指南役として日々、忙しくも充実した日々を送っている。与一もブリュッセル辺境伯家に仕えている忍びと共に訓練に参加し、メキメキと腕を上げていった
「ふう、たまには良い物だな。」
ワシは額から汗を流し、それを手拭いで拭き、訓練に勤しんでいると・・・・
「サコン様、旦那様がお呼びにございます!」
そこへブリュッセル辺境伯に仕える使用人が伝えに来た。ワシを呼ぶという事はシュバルツ王国に異変が起きたのだろうか
「相分かった、今日の訓練はここまでとする!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
訓練を終わらせた後、ワシは途中で与一と合流し、使用人に案内され、ブリュッセル辺境伯のいる私室へ向かった。部屋に到着し、先に使用人が入り、入室の許可が出た後、我等は部屋に入った
「呼び立てて、すまない。」
「いいえ、ところで我等をお呼び出しした理由は?」
「うむ、王都に放った密偵の知らせによるとロゼオ元王太子が失踪した。」
「何と!」
「見張りをしていた兵士は変死体となって見つかったとのことだ。」
やはり動いていたか。話を聞くと、メイドが食事を持っていく最中に見張りの兵士がいなくなっており、不審に思ったメイドが部屋を覗くとロゼオがいなくなっていたらしい。メイドは早速、報告をし現在でも探索を続けているとの事だ
「やはり他国のスパイが・・・・」
「うむ、表立ってそのような話はないようだが、恐らくは・・・・」
「畏れながら申し上げます。一刻も早く陛下と王子たちの護衛を増やすべきかと存じます!」
そこへ与一が国王と王子たちの護衛を増加するよう直言をした。与一が発言するということは何かあるとワシは悟った
「それはなぜだ。」
「恐らく元王太子が失踪したのは他国のスパイの仕業に間違いございません。何かしらの理由で元王太子を隔離した上で、国王陛下、王子たちを亡き者にするやもしれません。」
「な、何だと!」
「御当主様、与一は誰よりも忍びの世界に生きる者です。この者の勘は一度たりとも外れたことはござらぬ。」
「・・・・分かった。」
左近と与一の発言にブリュッセル辺境伯は了承した。もはや一刻の猶予もないほど事態は深刻していると感じたからである。ブリュッセル辺境伯は直ちに騎士と忍者を増員し、王都にいる忍びたちに先に伝令を発することにした。それだけではなく今度は我等に王都に行ってほしいと命が下った
「我等を王都に・・・・」
「ああ、万が一の事を考え、そなたらに解決してほしいのだ。勿論、褒賞は出す。」
「しかし我等はブリュッセル辺境伯家に仕えておりませぬ。」
「勿論、そなたらにワシの知り合いということで紹介状を出そう。そうすればブリュッセル辺境伯家の者だと話が通る。」
「それは忝のうございます。」
「直ちに行ってくれるか。」
「お任せあれ。」
ワシと与一は早速、自室へ戻り、準備をしているとそこへセシリア嬢が現れた
「これはセシリア嬢。」
「サコン殿、王都へ行くと聞きました。」
「はい、一刻の猶予もままなりませんからな。」
「申し訳ありません、このような事に巻き込んでしまって・・・・」
セシリアはどうやら我等が王都に行くことになったのは自分の事が原因だと責任を痛感していた。セシリア自身、助けてくれた御礼をしたいと思って領地へ招いたが、まさかこんな事になるとは思ってもいなかったのだろう。セシリアが悲しげな表情で謝罪をする姿にワシらは・・・・
「セシリア嬢、そう自分を責めるな。」
「ですが・・・・」
「今回の原因を作ったのは元王太子殿下とカリンが起こしたものだ。それに貴方様は被害者なのですから・・・・」
「それに此度は御父上である辺境伯公の依頼ですからな。」
「そうですか。サコン殿、ヨイチ殿、どうかお気をつけて。」
ワシと与一は屋敷を出た後、騎士たちと忍びたちが先に待っていた。騎士と忍びたちを纏めているのはベル・クラウンだった
「サコン殿、ヨイチ殿、此度はよろしくお願いします。」
「「こちらこそ。」」
「サコン殿。」
背後からブリュッセル辺境伯の声が聞こえ、振り替えるとブリュッセル辺境伯一家らが見送りにきてくれた。ワシと与一、ブリュッセル辺境伯家に仕える騎士や忍びたちも立て膝す座りをした
「お見送り忝のうございます。」
「道中の無事を祈っているぞ。」
「ははっ!」
ブリュッセル辺境伯一家の見送りを済ませた後、我等は一路、王都へ出発した。今回はのんびり旅ではなく、豊臣秀吉が行った中国大返しが如き神速で王都へ向かっていた
「サコン殿、いささか早すぎやしませんか。」
「遅れれば遅れるほど敵の思うつぼじゃ。敵の意表をつくのだ!」
辺境伯家に仕える忍びは普段から情報収集で各地を飛び回っているため、我等についてきてるが、騎士たちは駆け足で動くため、馬は途中からバテて、騎士たちも疲労が溜まっていた。さすがに戦う前から疲労困憊の状態では間違いなく返り討ちにあうので途中で疲労回復のポーションと休憩を取りつつ、王都へ向かうのであった
一方、王都ではカリンは本国であるジュリアス王国の知らせを待っていたが、いつまで立っても知らせが来なかった
「どうなっているんだ、本国の知らせはまだか!」
「ははっ!」
「今になって怖気づいたのか、くそ!」
カリンたちの本国であるジュリアス王国で予想外な事態が発生した。それは現国王であるオールド・ジュリアスが突如、倒れたのである。オールド・ジュリアスはシュバルツ王国乗っ取りの計画を水面下で行っていた途中で、意識を失ったのである
「陛下がお倒れに!誰か!医師を呼べ!」
オールド・ジュリアスは意識不明の状態で運ばれ、医師たちが駆け付けた時には既に息絶えていた。オールドの死によってシュバルツ王国乗っ取り計画が白紙になったのである
王太子であるギルト・ジュリアスはシュバルツ王国乗っ取りには反対しており、父である国王が死んだことでシュバルツ王国乗っ取り計画を辞めて、友好関係を維持しようとする一方、亡き父の遺志を継ぐべく、ギルトの弟であるジルト・ジュリアスが王位への野心を燃やした
これによりジュリアス王国は二つに割れ、ギルト・ジュリアスを中心とした穏健派とジルト・ジュリアスを中心とした過激派が対立し、御家騒動が発生したのである。その事を知らずにいたカリンはイライラを募らせながら知らせを待っていた
カリンたちによって隔離されていたロゼオは、複数の見張りつきでトイレに行っていた。トイレの中でロゼオは何とかここから脱出する機会を狙っていたが、見張りが厳重だったため、脱出する機会がなかった
「(くそ!どうにか隙を作りたくとも抜け出せる機会がない!)」
ロープで体を縛られた状態で椅子に座らされていた。外は今、朝なのか夜なのか、どれくらい時間が経ったのだろう、王宮は今、どうなっているのだろう、それすらも分からず、ここに監禁されたのである。これだけ時間が経てば、向こうも油断し、警戒が緩むと思って待っていたが、一向にその気配がなく、厳重な見張りは続いていた
「こうなったら実力行使だ!」
これ以上、待っておれず、ロゼオは強引に外へ出ようとしていた
「すまないがトイレに行かせてくれ。」
ロゼオは見張りにトイレに行かせてほしいと頼んだ。今度は見張りの男一人しかおらず、トイレに行くことになった
「(まだだ。)」
ロゼオは見張りの男の腰に差している小刀を奪い、そいつを人質にして外に出ようと考えていた。そして・・・・
「早く済ませろよ。」
「わか・・・うっ!」
「ん、どうした。」
「は、腹が・・・・」
「ちっ!」
見張りの男が近づいた瞬間、ロゼオは見張りの男にタックルを食らわせた。見張りの男は突然の攻撃に反撃できず、小刀を奪われ、更に人質にされたのである
「き、貴様!」
「僕は外へ出る!来い!」
ロゼオは見張りの男の首にナイフを突き付けながら、外へ向かう途中、カリンたちと出くわした
「何の真似だ。」
「決まっている、僕は外を出るんだ。」
「何を言うのかと思えば・・・・」
「僕は本気だ!」
「だったら・・・・・・後ろに気をつけた方がいいわよ。」
「な、ぐふっ!」
突然、後ろから殴られ、ロゼオは倒れた。そこへ黒装束の男たちがロゼオを押さえつけた。ロゼオは抵抗を続けたが大人数で押さえつけられ、身動きが取れずにいた。カリンは呆れながらロゼオを見下ろした
「くそ、離せ!」
「ふん、大人しくしていれば良かったのに・・・・」
「お前の言いなりになるか!」
「ふん、減らず口を。こうなったら、おい!」
「ははっ!」
「こいつの足の筋を切れ!」
「ははっ!」
「な、何をする!」
「これ以上、好き勝手させないようにするためよ。」
黒装束の男がナイフを抜き、ロゼオの足を抑えつけながら、足の筋を切ろうとした
「やめろ、辞めてくれ!いやだああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ロゼオの悲鳴が隠れ家中に空しく響くのであった




