16話:拉致
島左近清興だ。ワシと与一は王宮より派遣された使者から王太子の独断で行われた婚約破棄の謝罪と赦免が成された事がブリュッセル辺境伯から聞かされた。王太子は廃嫡となったが、肝心のカリンという女子は行方不明とのこと、ワシと与一は他国から放たれた間者と確信し、ブリュッセル辺境伯に伝えた。ブリュッセル辺境伯も我等の言を聞き入れ、王都にいるロバート・シュバルツ国王陛下にセシリアの病気療養を理由に領地に滞在するという内容の書状を書き、送る一方で、ブリュッセル辺境伯家に仕える間者を王都に送った。一方、我等はというと・・・・
「さて我等は如何いたすか。」
「我等の役目は終わりましたからな。」
そうワシらはセシリア嬢を無事にブリュッセル辺境伯領へ護衛した上で心ばかりの接待を受けた。我等としてはもはやブリュッセル辺境伯領にいる理由がない。そう思ったが何か嫌な予感がして言い出せずにいた
「やはり間者が気になりますか?」
「そうだな、いずれの間者かはっきりするまでは我等も様子を見た方がいいな。」
その後、我等の予感が当たり、ブリュッセル辺境伯より此度の騒ぎが落ち着くまで辺境伯領に滞在するよう懇願された。ワシと与一はというと・・・・
「おほん、某は本日より貴殿らの訓練の指南役を勤めることになったサコン・シマだ。よろしくお願い申す。」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
ワシは辺境伯家に仕える騎士たちを鍛える臨時の役目についた。ワシの評判を聞き、志願者が大勢おり、皆は熱心に訓練に励んだ
「「「「「遅い!」」」」」
「ありがとうございます!」
「脇が甘いぞ!」
「「「「「すいません!」」」」」
「いいか、戦に卑怯もへったくれもない!戦うからには必ず勝つんだ!」
「「「「「ははっ!」」」」」
ワシは騎士たちをビシバシ扱く一方、与一はというと・・・・
「ふん!」
「はぁ!」
与一は辺境伯家に仕える隠密たちと共に訓練の最中だった。与一の持つ忍びの術に辺境伯家に仕える隠密らは興味を示し、訓練の傍らその技を盗もうとしたが、与一はそう簡単に見せる隙を与えず、訓練に励んていた
「あの忍者、ただものではないな。」
「ああ、一寸の隙も見せないとは・・・・」
与一は誰一人、自分の術を見せるつもりも盗ませるつもりもない。本人としては久しぶりに手応えのある相手と戦えた事に内心、喜んでいた。今まで張り合いのない相手ばかりだったので、今回の訓練は参加してよかったと確信したのである
「(ふふふ、久しぶりに忍びの血が騒いだな♪)」
左近と与一はブリュッセル辺境伯領にて心身ともに充実した日々を送っていた。ブリュッセル辺境伯から仕官の誘いがあったが辞退しており、ブリュッセル辺境伯は残念そうな顔をしていた
ここは王都にとある一室、ここに元王太子であるロゼオ・シュバルツがいた。ロゼオは未だに自分は間違っていないと疑っておらず、悶々とした日々を送っていた
「くそ!父上は間違っている!きっとあの女狐に騙されているんだ、そうに違いない!」
ロゼオはセシリアを怨んでいた。父を誑かし、廃嫡となった原因を作ったあの女に・・・・
「殿下!」
「カリン!」
そこへ、思い人のカリンが現れた。なぜ、ここにいるのか、見張りは何をしているのか気になったが、今はそんなことはどうでも良くなった
「カリン、無事だったんだね。」
「殿下が捕まったと聞いて私も隠れておりました。ここに来たのも見張りが手薄だったから入れたのです。」
「そうか。」
「私がここに来たのは殿下をお救いするためにございます。」
「僕を?」
「はい、実は小耳に挟んだのですが、国王陛下は殿下に毒酒を飲ませるようですわ。」
「何だと!」
「不逞の輩が殿下を担ぎ上げ、謀叛を起こすのを防ぐために殿下を亡き者にしよう企んでおります。」
それを聞いたロゼオは父であるロバートに怒りと憎しみを抱いた。それと同時に自分が国王にならなければ自分は破滅すると悟ったのである
「よくぞ申してくれた、礼を言うぞ、カリン。」
「私が手引き致しますので早う。」
「分かった。」
ロゼオはカリンに誘われ、一室を離れると・・・・
「ぐっ!」
ロゼオは突然、ハンカチで口を塞がれた。抵抗を続けたが力尽き、そのまま眠りにつく
「やはりバカは扱いやすいわ。」
ロゼオを眠らせたのカリンだった。ロゼオを睡眠薬入りのハンカチで眠らせ、今ではカリンの意のままになったのである
「見張りは始末したか。」
「ははっ。」
「元王太子は我等の手中だ。本国よりの指令は?」
「まだ指令は下っておりませぬ。」
そこへカリンの配下の間者が気配なく現れた。左近と与一の読み通り、カリンは他国のスパイだった
「ふふふ、我々の計画のために働いてもらうわよ、王太子殿下♪」
カリンは邪悪な笑みを浮かべ、何も知らずに眠るロゼオを見下ろすのであった。ロゼオが行方不明になったことが国王の下にも届いた
「何!ロゼオが消えただと!」
「ははっ!見張りについていた兵士たちも何者かによって始末されており、罪人ロゼオは未だに行方知れずにございます。」
「くっ、抜かったわ!」
ロバートは他国のスパイの仕業だと気づいた。この間、ロゼオが起こした婚約破棄と、今回のロゼオの失踪と見張りの兵士たちの変死体、そしてロゼオの浮気相手であるカリンが未だ見つからないこと、全てを吟味した結果、カリンという存在に辿り着く
「余とした事が、他国のスパイに引っ掻き回されたわ!」
「陛下、如何いたしますか!」
「探し出せ!まだ遠くには行っていないはずだ!」
ロバートの王命で秘密裏にロゼオの探索が始まった。王宮内だけではなく都市全体をくまなく探した。そのころロゼオは・・・・
「(う、ううん。ここは。)」
ロゼオが目を覚ますとそこは雑貨などが乱雑に置かれた部屋だった。ロゼオは体を動かそうとしたが、動けずにいた。ふと見ると体をロープで縛られた状態で椅子に座らされていた
「一体、どうなってるんだ!」
ロゼオは今、自分の置かれている状況に戸惑っていると、ドアが開いた
「あら、お目覚めですか、殿下?」
現れたのは愛しのカリンだった。しかし様子が違っていた。自分と会っていた時の少女のような可憐さがなく、アダルティーな雰囲気で黒装束姿で現れたのだ
「カリン、これはどういうことだ!」
「ご安心を殿下、すぐに貴方を王太子、いや国王の座へと登らせて差し上げますわ。勿論、国王陛下や王子たちを亡き者にしてね。」
「何だと!」
「ただし、我等が本国、ジュリアス王国の支配下に入ってもらいますけどね♪」
「な、何!カリン、お前、ジュリアス王国のスパイだったのか!」
「ふふふ、左様ですわ。」
「くそ、この女狐が!」
「殿下、いやロゼオ、お前は今、自分の置かれえている立場を分かっていないようね、その気になればお前を殺すこともできるんだぞ。」
「くっ!」
「ふふふ、計画が終わるまでは、ここで大人しくしてくださいませ。」
「待て!カリン、待つのだ!」
「見張りを頼んだぞ。」
「ははっ!」
カリンが出ていいた後、取り残されたロゼオは、ようやく自分の置かれている状況に気付いたのだ。カリンがジュリアス王国から放たれたスパイだと・・・・
「僕はあの女に利用されたのか。」
ロゼオに今になって後悔し始めた。カリンの毒牙にかかり、ジュリアス王国の策略に嵌ってしまったのだから・・・・
「うう、申し訳ありません、父上、すまないセシリア。」
ロゼオは乱雑された部屋の中で、父とかつての婚約者に謝罪をするが誰にも届かず、大人しく過ごすしかなかったのであった




