166話:ベーカリー
「ヨッシャアアア、報酬たんまり貰ったぜ!」
【ガルバ町】のギルドにて褒賞金を貰ったベーカリー・ゴーンズは娼館【イザナミ】へ向かおうとすると、厳つい男たちに囲まれる1人の少女を見掛けた
「何だ何だ、大の男が1人の女を取り囲んで何する気だ?」
ベーカリーは大薙刀を振り回し、まず近くにいた厳つい男の1人を吹き飛ばした。男たちは突然の襲撃に驚くと、すかさず1人1人吹き飛ばし、全員気絶させた。すると赤髪碧眼の色白美少女が話し掛けてきた
「あ、ありがとうございます!」
「へへっ、良いって事よ!」
「あ、あの、御名前を御伺いしてもよろしいですか!」
「名乗るほどの名はねえがベーカリーってんだ。」
「ベーカリーさん、ありがとうございます、私はアリエルと申します。」
「アリエルか、いい名前だ。」
「あ、あの、今度御礼をしたいのですが!」
「気にすんな、俺が勝手にやったことよ!」
ベーカリーは意気揚々とその場を立ち去り、そのまま娼館【イザナミ】へと向かったが、案の定、相手にされず、1人寂しく出ていった
「はぁ~、今日もロゼットはつれなかったな。」
ベーカリーはロゼットから嫌われている事を忘れ、口説いたが相手にされずそのまま、泊まっている宿へ帰ると、そこへ偶然にも例の美少女と鉢合わせした
「ベーカリーさん!」
「ん、お前はあの時の、アリエルだったか。」
「お会いしとうございました!あの、お食事はまだですか!」
「あ、ああ。」
「良かったらこれをどうぞ。」
アリエルが渡したのはサンドイッチの入ったバスケットを渡した。それを見たベーカリーは腹の虫が鳴き、涎が垂れそうになった
「い、いいのか?」
「はい♪」
「それじゃあ!」
「まずは座りましょう。」
「あ、ああ。」
椅子に座った後、ベーカリーはサンドイッチをむちゃむちゃと食べ始めた。よほど腹が減っていたのか食べるスペースが早く、あっという間に全て食べきったのである
「ふう~、食った、食った、ありとがとな。」
「いいえ。あの~。」
「ん、何だ?」
「もし良かったら、お弁当を作りましょうか?」
「え、流石に悪いよ。」
「いいえ、貴方が助けてくれなかったら私はどうなっていたことか分かりません、貴方に恩返しがしたいのです。」
「そ、そうか(俺にもとうとう春が来た!)」
島左近清興だ、ワシは今、ベーカリーから鬱陶しいほど惚気話を聞かされているところだ。ひょっこりワシの屋敷に押し掛け、延々と聞かされるのでイラッと来ている
「それでよ!」
「分かった、分かった、もう聞きあいたわ。」
「つれねえな。」
「押し掛けた上、惚気話など聞かされているのだ、こっちとしては溜まったものではない。それ以上、申すのであれば力尽くで追い出すぞ。」
「分かったよ、もう言わん。」
実のところ、ワシもこやつが女子から弁当を貰ったと聞いた時は耳を疑った。普段のこやつは汗臭く、粗野で下品なところがあるからロゼットを始め娼婦たちから好かれていないのである。美人局の可能性もありえるが、今のこやつに何を言っても無駄だと思い、あえて言わないようにした
「んじゃ、俺は退散するぜ、デートの時間だからな。」
「ああ、見送りはせんからな。」
「期待してねえよ。」
ベーカリーはそのまま屋敷を出ていき、嵐が過ぎ去ったように静寂が戻った。ベーカリーとは入れ違いに与一、アリーナ、ウルザが入って来た
「左近様、奴は何をしに参られたのですか?」
「惚気話をしに来たのだ。」
「へえ~、珍しい事もあるのですね。」
「ほんと、ベーカリーに限って女がいるなんて・・・・」
「ああ、ワシも女ができたと聞いた時は耳を疑ったわい。」
「それで何者なのですか?」
「ああ、確かアリエルとかいう娘だったな。」
屋敷を出ていったベーカリーはというと、先に待ち合わせ場所へ行き、アリエルを待つ事、10分が経ち、バスケットを持ったアリエルが足早に駆け付けた
「ベーカリーさん、待ちましたか!」
「いや俺も先程、着たところだ。」
ベーカリーはアリエルと一緒に、【コマキ丘陵】へ向かい、花見に向かった。【コマキ丘陵】は他にも花見目的の客や公園で遊ぶ親子連れでいっぱいであった
「相変わらず混んでるな。」
「ベーカリーさん、あそこ空いてますよ。」
アリエルが指を差した方向を見ると、空いているベンチがあった。2人は足早にベンチへと向かい、ようやく席に着き、落ち着くことができた。アリエルはバスケットを開けて、中から弁当箱を取り出した。中身はおにぎりや野菜や肉等が入っており色とりどりだった
「おお、美味そうだ!」
「ささ、召し上がってください!」
ベーカリーとアリエルは【四季桜】を眺めながら、一緒に弁当を食べていた。端から見れば美女と野獣なのだが・・・・
「花見をしながらの飯はうめえな!」
「ふふふ、ベーカリーさんったら、そればっか♪」
「アリエルの作った弁当なら格別だよ。」
「褒めても何も出ませんよ。」
弁当も食べ終わり、ベーカリーは満足そうに腹を擦っていると、アリエルは空になった弁当箱を片付け、バスケットの中にしまった
「いやあ、今日の弁当も美味かった!」
「ふふ、ありがとうございます・・・・あの。」
「ん、何だ?」
「もし、よろしければベーカリーさんの泊まっている宿へ行ってもよろしいですか?」
「え、いや、部屋が散らかってるから・・・・」
「そうですか、せっかくだからお片付けしようと思ったのですが・・・・」
「気持ちだけは受け取っておくわ。」
ベーカリーも流石に自分の部屋に異性を招待するわけにはいかなかった。ベーカリーの部屋は物が散らかっており、ベッドやシーツも乱雑でとてもじゃないが人を招く状態ではなかった
「では次の日に部屋に伺ってもよろしいですか?」
「おお、勿論だ!」
こうしてベーカリーのデートは何事もなく無事に終了したのである。宿に帰ったベーカリーは自分の部屋を眺めて改めて物が散らかっている事に気恥ずかしさを覚えた
「こりゃ、アリエルを招くわけにはいかねえな。」
ベーカリーは一回、部屋を出ていき、大家からゴミ袋を持っていき、片付けを開始した。大家を始め、宿の住人たちはベーカリーが片付けをしていることに驚き、野次馬根性の如く扉越しにその様子を眺めていた
「ベーカリーが掃除なんて槍でも降るんじゃないか。」
「何でも女ができたらしいぞ。」
「もしかしてロゼットか?」
「いや、別の女だよ。」
「へぇ~、あんな野獣みたいな男を好きになる物好きがいんのか。」
「おい、煩いぞ!」
ベーカリーは野次馬からの視線とひそひそ話に叱りつつも、部屋を片付けるのであった
「待ってろよ、アリエル!」




