162話:ピサロの憂鬱
ここはシュバルツ王国の執務室、ここにロバート・シュバルツとロミオ・シュバルツの2人だけである
「視察は御苦労である。」
「ははっ!良き勉強になったと実感しております。」
「うむ、それで側近の処分はどうするのだ?」
側近というのはピサロの事である。ピサロは島左近に毒味を要求し、ルナはピサロを厳しく咎め、ロミオも毒味はしなくても良いと命じようとしたが時既に遅く島左近は毒味をしている最中だったためロミオは自分自身の決断の遅さを恥じると共に国を救った恩人に恥をかかせてしまった事への後悔もあり、ピサロを叱りつけたのである
「私の一存では決められません。」
「奴はお前の命を救う事を第一と考えたのだろう、そのためなら相手の面目を潰そうが御構い無し、やれやれ困ったものだ。」
「父上の御差配を仰ぎとうございます。」
「ロミオよ、【忠に似た不忠】という言葉がある、本人は良かれと思ってやった事が相手の面目を潰し、かつ反発を生む。一見すると良い事をしたつもりが、かえって家全体に悪影響を与える事もある。能力があろうとなかろうと獅子身中の虫はどんな敵よりも厄介だからな。」
「ピサロのやった事はまさにその通りにございます。」
「うむ、幸いサコン・シマがその場で毒味をしてくれたから丸く収まったがお前が怒った事であやつは一度、自害しようとしたからな。」
「ピサロがですか!」
「ああ、自害しようとしたところ、偶然にもサコン・シマが止めてくれたがな。」
ロミオはピサロを追い出した後、ピサロは同僚の騎士たちから陰口と叩かれ、人気のない場所で自害しようとしたらしい、そこへ島左近が現れ、自害が未遂に終わった。島左近からここで自害すれば、ロミオにも類が及ぶから自害は辞めよと諭し、そのまま宿舎へ返したという
「まさかそのような事が・・・・」
「奴はこうも言うておった。家臣の落ち度は主君の落ち度、もしピサロが自害すれば、必ず捜査が入る。自害の原因がお前の腹立ちまぎれの叱責だと知れば、お前は王太子の座が危うくなったかもしれぬな。」
ロミオは背筋がぞっとした。もしピサロが自害すれば再び王太子の座を剥奪、いや王籍からも除籍される可能性がある、今にして思えば自分の軽率さを恥じるばかりである
「はあ~、お前は2度のサコン・シマに救われたな。」
ロバートがため息交じりに漏らした言葉にロミオは反応し問い詰めた
「父上、2度とはどういうことにございますか!」
「あ、はあ~、うっかり口を滑らせたな。」
「父上!」
「誰にも言うなよ。」
「はい!」
ロバートはロミオが起こした視察騒動の件で、臣下や貴族たちからロミオが次期国王の器なのかと疑われ、一時は廃嫡も考えるほどの事態に発展し、ロバートは派閥に属さない第3者、つまり島左近に手紙を送り、ロミオの進退について尋ねたという。島左近からの返事は世継ぎ問題の悪い例を出した事でロバートはロミオの処分は王太子を一時剥奪することに決めたのである。それを聞いたロミオは島左近に影で助けられていたとは知らず恥じ入るばかりであった
「私はとんだ臆病者だ、それを知っていたら早くに止めていたのに!」
あの時、早く毒味を止めていたらと思うとロミオは後悔に苛まれた
「最早、過ぎた事だ。ロミオ、これからも精進し立派な王になること、それがサコン・シマへの恩返しと心得よ。」
「ははっ!」
「それとピサロの事だが、奴は歩兵に降格させよ、一から鍛えなおさせよ。」
「ははっ!」
ロミオが執務室に出た後、入れ替わりにルナが入って来た。ある事を報告するためである
「何?サコン・シマの領地の規模が【公爵】ほどの領地になっただと?」
「はい、視察をして規模も調査した結果にございます。」
元ソビエット子爵領を得た事で、島左近の領地の規模は【公爵】と同格の領土を得た事が分かったのである
「由由しき事態だな。」
「如何いたしますか、サコン・シマは貴族になりたがらないようですが・・・・」
「うむ、こうなったら新しい称号を作るしかないな。」
「新しい称号ですか。」
「ああ、奴を事実上の貴族にするしかあるまい。」
その後、ピサロは歩兵に降格し新兵に混じって訓練に励んでいたが、例の如く空気を読まない発言が目立ち、先輩方からリンチを受けていた
「お前は生意気なんだよ!」
「王太子殿下の側近だか何だか知らないが失態を犯してここにいるんだろう!」
「くっ!」
ピサロの失態はすぐに訓練所に知れ渡り、ピサロの空気の読めなさ、元王太子の側近だったのも相まって格好の獲物となったのである
「おい、何とか言ったらどうなんだ!」
「ふん、数だけ集まった臆病者どもに文句言われる資格などないわ!」
「何だと・・・・」
「お前たち、何をしている!」
「やべ、ずらかるぞ!」
そこへ新兵育成担当の教官がその場に現れ、先輩の兵士たちは一目散に逃げた。教官がピサロの下を訪れ、溜め息をついた
「また、お前か。」
喧嘩の原因がピサロだと分かると教官は溜め息をついた
「ピサロ、悪いことは言わん。今すぐに辞表を出せ。」
「何故ですか!悪いのはあいつらなのに!」
「お前の言動が事の発端であることは明白だ。これ以上、訓練に支障が出れば国の国防にも関わる。」
「し、しかし。」
「ピサロ、お前は剣術だけは誰にも負けない腕だ、それと同時に横柄な態度が目立つ、今辞めれば僅かばかりだが退職金も出る。」
「う。」
結局、ピサロは希望退職という形で僅かな退職金と共に訓練所を出ていった。ピサロは教官の勧めでギルドへ向かう事になった。退職した騎士はギルドで身分証を発行し、仕事をするのである。ピサロは取りあえず、ギルドに寄り身分証を発行することにした
「ギルドへようこそ。」
「身分証を発行したいのだが?」
「はい、御一人10万エンになります。」
「これでいいか。」
「はい、丁度です。では適性を調べますので水晶を手をかざしてください。」
ピサロは水晶に手をかざすと、白く発光した。白く発光するのは騎士の証である
「【騎士】属性ですね。」
やはり自分は【騎士】の適正しかないのかとピサロは嘆いた。他の道もあると思っていたが世の中、そう思い通りにはならないと痛感したのである
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ピサロ・シェーファだ。」
「ピサロ・シェーファ様ですね、少々お待ちください。」
ギルド職員が奥の部屋に行くと、ピサロは待合席にて待つことにした。それから数分後、ギルド職員がピサロの名を呼び、身分証を渡した
「仕事は掲示板に張ってある張り紙でご確認ください。」
「分かった。」
ピサロは早速、仕事を探しに掲示板を拝見すると仕事はそれほど無く、ピサロは任務の護衛の張り紙を見つけ、応募することにした
「これにしたいのだが。」
「はい、承りました。」
ギルド職員が書類を出し、ピサロに見せた。ピサロは書類を見ると、ギョッとした。荷物を届ける場所はサコン・シマ準男爵邸であった
「(まさかサコン・シマ準男爵邸とは・・・・)」
ピサロは島左近に毒味を命じた事で、ロミオの逆鱗に触れて、自害しようとしたところ、その島左近に止められてしまった苦い思い出があった。普通ならば辞退しようかと迷っていたが、報酬が良く背に腹は代えられぬ思いで受けることにした
「この任務は複数でやりますので少々お待ちください。」
「いや私、一人でやる。」
それを聞いたギルド職員は耳を疑った。荷物の護衛は複数でやるのが当たり前で一人でやるのは無謀でしかないのだ
「え、でも・・・・」
「私は剣術の腕は誰にも負けん、荷物の護衛を私が1人でやる!」
「ほ、本当によろしいのですか?」
「くどいぞ!」
「は、はい、大変失礼いたしました。荷物は絹織物です、大事な商品ですのでお願いしますね。」
「心得た。」
ピサロは絹織物の入った箱を馬車に入れて、島左近のいる領地へ向かう事になった。途中で食糧等を買い付け、出発した。馬車に揺られていると、道中で盗賊に遭遇した
「おい、荷物を置いていきな!」
「そうだ、命が惜しければな!」
「ふん、お前たちのような賊など、剣の錆にしてくれるわ!」
ピサロは剣を抜き、盗賊と対峙した。ピサロは剣を振り回し、賊を追い払う事に成功した
「ふん、口ほどにもない。」
ピサロは馬車へ向かうと、絹織物の入った荷物がなかった。ピサロは慌てて隅々まで探したが影一つなかったのである
「先程の盗賊の仕業か!許せん!」
ピサロは荷物を取り返すべく、盗賊たちの跡を追うのであった




